GTDで完成した自分なりの管理術
アメリカの有名な実業家で、鉄鋼王として知られるアンドリュー・カーネギーの逸話を紹介します。
彼はあまりに多くの悩みを抱えていて「もうダメだ、限界だ」と感じたときに、思いつく問題や悩みごとをすべて書き出すことにしました。
最初は、仕事だけでなく家族関係も含めると、きっと何百もあるに違いない、ひょっとしたら1000個くらいあるのではないかと思っていました。ところが、実際にやってみると60個ぐらい書いたところで鉛筆がピタリと止まったそうです。
前章で出会ったGTDは、まさにカーネギーが体験したことと同じ効果をもたらしてくれました。
たしかにこの手法のおかげで私は水を得た魚のように、仕事やプライベートのタスクを進められるようになったのです。
まずは、大きな変化として、実際の行動と計画を切り分けられるようになりました。頭の中に気になることがたくさんあると、何かをやろうとしてもつい手が止まってしまっていました。自分で書いたToDoリストの内容を見ても、何をすればいいかわからないことも珍しくありませんでした。
資格試験の勉強をしようと頭では決めているのに、週明けの仕事に必要な資料が気になってなかなか集中できません。プロジェクトの遅れを取り戻す対策について上司から質問されたとき、慌ててメールや予定表を確認しても、すぐには的を射た回答ができませんでした。
GTDは、頭の中にある気になることをいったん一か所に集めます。この段階では細かく分類したり、実行する際の手順を考えたりしなくていいのが救いになりました。
その後、「このタスクは、私にとってどんな意味があるのか?」をひとつずつ自分に問いかけていきます。もちろん、この時点ではまだ実際には行動していません。
あらかじめ食材を買いそろえ、肉や野菜は切っておくと、料理は滞りなく進みます。同じように、準備と行動を混ぜずに、仕事の工程がどのように進んでいくかの順序を意識することで、自分でも不思議なくらい脱線が減っていきました。
冒頭に書いたカーネギーは、気になることを書き切った瞬間、その日の夜中に解決できることはほとんどないことに気づきました。そこで便せんに並んだリストをちぎってカードのようにし、それを仕分けました。
最初に「明日できること」「来週以降に着手できること」「来月でも間に合うもの」「解決できないこと」の4つの山に分けて、最後の山は気になるものの、私にはできることはないと受け入れてそのままごみ箱に入れたのです。
岡田斗司夫さんは、複数の問題を頭の中でグルグルと回している状態を「悩みのジャグリング」と呼んでいます。本来は解決に使うはずの脳を気になることのジャグリングに使っていると思うと、私が仕事をするたびに疲れていたのもよくわかります。
悩ましいことがあるときには決まって、GTDの流れに沿って頭の中をスッキリさせるようになりました。初めて読んだGTDの解説本『仕事を成し遂げる技術』のタイトルは、新装田口元氏が監訳する改訂版で『ストレスフリーの整理術』に変わりました。まさにその名のとおり、ストレスを感じることなく穏やかな心で物事を進めていけるこのメソッドを、私は愛用しました。
2006年の当時は、まだGTDと相性のいいツールが見つからず、エクセルを使うことにしました。check*padやRemember The Milkといったウェブサービスでは、「いますぐやる」「プロジェクトとしてやる」「いつかやる」といった分類がうまく表現できなかったのです。
オリジナルのエクセル表には、作成日、終了日、ステータスに加えて、GTDで推奨される「(それをやることで得られる)望ましい姿」も列として追加しました。ずっと憧れていた自分なりの管理術をついに手に入れたのです。
それから4年が経ち、Nozbe(ノズビー)に出会います。『iPhone×iPadクリエイティブ仕事術』(倉園佳三著)を通じて、スマホやタブレットを使ってGTDを実践する姿に衝撃を受けました。当時はいろいろな雑誌でもGTDに使えるアプリが紹介されていましたが、簡単な操作の説明がほとんどで、私の理想にぴったり合うものになかなか出会えていませんでした。
「Nozbeなら自分なりの管理術をもっとかっこよく気持ちよく実現できる!」と心躍った私は、迷わずiPadとAndroidのアプリを購入しました。
完了のチェックをつけるとすっとタスクが消えていきます。エクセルでは味わえなかったNozbeの洗練されたデザインや動きが、使う時の気持ちよさを増幅してくれました。
もちろん、職場でもこのツールでプロジェクトの管理ができればいいのにと思っていました。残念ですが、勤め先でこうしたクラウドサービスを使うのは難しく断念しました。
システム開発の現場では、設計者と開発者が共有フォルダに置いているエクセルの課題一覧を使って交換日記のようにメッセージをやりとりすることが多くありました。誰がいつコメントを書いたのかを、手で入力するたびにもどかしさを感じていました。
ひとたび会社の外に出ると、世の中には便利で素敵なツールが溢れているのです。そんな時代の流れに背中を押されるようにして、私は、一度は完成したはずの管理術をさらに磨く方法を探し始めました。
もっとNozbeの使い方を知りたくてGoogleで検索するたびに「jMatsuzakiブログ」が目に留まります。いくつもの記事を読むうちに「私がNozbeからToodledoに移行した理由」という記事に出会い全身に震えが走りました。
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