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ジブリパークはジブリパークを信頼するとめちゃくちゃ楽しい

先日、初めてジブリパークへ行った。
想像を上回る素晴らしい体験ができたし、所謂テーマパークとはいろんな意味で全く違う思想で作られているのを感じた。

この記事ではひたすらに感想を書くので、行ったルートや時間配分は、別途こちらの記事でまとめた。推奨モデルルートや攻略情報ではなく、あくまで一例ですが、良ければ参考にどうぞ。




あまりにも本物の世界

今回特に行きたかったのは、魔女の谷を中心とした作中の再現のスポット。大さんぽ券プレミアムで入場できる屋内エリアだ。

パークの中には、ハウルの城やキキのご実家、アーヤが引き取られた家などが再現されているが、これが全然テーマパークとして作られてない。それがすごい。ハウルの城の外装部分や、魔女の机の液体系汚れなどはさすがに樹脂のフェイクだが、家らしい部分はほぼ本当の家の質感だった。家の作りはもちろん、家具も生活のために作られているにおいがする。

この建物の中は基本的に全部触れることができる。
引き出しや冷蔵庫などの家具、鍋や小物入れは、手が届く所にあるなら大体開けられる。クローゼットのお洋服や壁にかかった帽子、机のこまごました物も固定されてないから手にとってその重量を感じることができる。

そしてその中には、「作中の展開ならここにコレがあるはず……」という隠し要素だったり、または作中に全く描写はないけど「この子はこういう物を集めてそう!」みたいな、世界観が拡張されるものが詰まっていた。
例えばキキのお部屋の机の引き出しには、あの時代の年頃の女の子が好きそうなものがつまっている。名前を手刺繍したハンカチなどもあった。

場所によっては楽器もあるので、触るだけでなく演奏が可能だ。
例えば、地球屋さんの一階にある西老人のバンドの楽器とか。キキのご実家であるオキノ邸のレコードプレーヤーも、実はスタッフさんに言えば流してもらえるらしい。

同じくオキノ邸にあった足踏みオルガンを見て『さすがに土足でペダル踏んだら悪いかな…』と撫でるに留めたが、しばらくしてどこかの子供が弾いている音が聞こえてきたのには驚いた。子供がやりそうな事は全部想定して、許される作りになっている。そういう懐の深さも随所で感じられる。

あと、これはおそらくだが「室内撮影禁止」なのが結構いいバランスだと思う。こういう自由な場所で撮影ができると、多分、途端に人間の行動って変わると思うのだ。SNS時代だし。
そこを思い切って禁止してあることで、見る側も、自分の体験や記憶そのものを大事にしようという時間の使い方ができる気がする。

ちなみに「ほぼすべて」なので、ダメなものはちゃんとダメと書いてある。でも、この注意書きも雰囲気を壊さない書き方で粋だ。
例えばハウルのマルクルの部屋にはロープが張ってあって入り口から見学するのみだが、「ソフィー、勝手に掃除しないで!(多分)」というメモ書きがついていたりする。徹底して没入させてくれる配慮が気持ちいい。

キッチン周りの地味な楽しみ

「ジブリ飯」などという言葉があるぐらい、ジブリの食の描写は特徴的だが、それはこのパーク内にもよく表れていた。
各エリアの再現スポットには、家が丸ごとあるので当然キッチンもあるのだが、そこに置かれている食器やカトラリーなどがちゃんと作品の世界や時代にあった物がそろっていて素敵だった。

直接ジブリと関係ないが面白いなと思ったのが、台所に置いてある「米」「油」「小麦粉」などの違いだ。
この時代のサラダ油は缶で売られていたんだとか、米櫃が木で出来ているとか、小麦粉のメーカーが外国の物だとか、時代と場所を横断するキッチンを連続で見るからこその発見がある。ジブリという作品を通して、食の文化史をパラ見するような体験ができるのが予想以上に楽しかった。

ちなみに再現キッチンと食に関する資料はジブリの大倉庫の企画展示室にもあるので、そちらも併せるとさらに面白い。

断トツで良かった「地球屋」

正直に言えば、「耳をすませば」は小さいころに見た際はあまりピンと来ず、今回ジブリパークへ行くにあたって見直して「こんな作品だったんだ…!」と初めて理解したぐらいである。
にも拘わらず、地球屋さんに流れる重厚で優しい空気は今思い出しても泣きそうなぐらい良かった。

地球屋さんの外側

心優しく文化芸術に造詣が深く、酸いも甘いも体験してきた男性が、おそらく終の棲家として好きな物に囲まれている空間がここなんだな……というのが部屋のあらゆる物から伝わってくる。

アンティークショップが素晴らしいのはもちろん、裏側の生活部分も、ちょっと庶民的だけどやっぱり細やかな配慮があって、さっと鍋焼きうどんなんかを出せちゃうような細やかな生活のリアリティを感じられた。
「耳をすませば」の年代設定は、一応ギリギリ私も物心ついている時期なので、そういう意味でも記憶の扉が開くようで良かった。

例の時計も、動くところを拝見することができた。
これは、もうちょっと言語化することができない。
いろいろ書いてみたけど陳腐な気がして全部消してしまった。ただただ、見せていただけて良かった。

地球屋さんにはささやかな物販があり、ポストカードと切手と一緒にパンフレットも販売されている。このパンフは本当に本当に最高な内容だった。
写真撮影不可な地球屋さんの思い出を持ち帰りたい人には大変おすすめ。本当は声を大にしておすすめと言いたいけれど、昨今だと転売とかがイヤなのでここでそっと書く。

こちらでパンフレットと一緒にポストカードを購入し、外のポストから投函した。先日それが到着し、無事に限定の消印も押してもらうことができた。
手書きのはがきを出すという体験も昨今なかなかしなくなってしまったけれど、それも含めてノスタルジックな良さだった。

ちなみにヴァイオリン工房には、とある場所に聖司くんの手書きノートが置いてあったのだが、見つけて友人とはしゃいでいたらスタッフさんのご厚意で読ませていただくことができた。感謝です。

哲学研で「カンテラ」を読もう

ジブリの大倉庫の方に、「コクリコ坂から」の哲学研究会のあのボロボロのブースが設置されている。座って写真を撮ったりもできるが、ここではとにかく哲研会報誌『カンテラ』を推したい。

作中では、カルチェラタンの新聞として「週刊カルチェラタン」が発行されているが、それと同じようにこの哲学研では「カンテラ」という会報誌が発行されている、らしい。映画では特にそんな描写は(多分)なかったが、哲研の彼なら絶対こういうの書いてそうだ。
この哲研では、その「カンテラ」の187号を読むことができる。

これ、内容が本当に良い。最高。これのポスター売ってくれ。

彼の名前は伊藤薫くんというらしい。

全部載せてしまうと楽しくないのでちょっとだけ目隠して載せるが、見てわかる通り、名だたる哲学者たちと哲研の彼の座談会なのだ。っていうのを、彼が自作自演で書いている。ていうか名前あったんだ。似顔絵も上手いな。

学習まんがみたいでわかりやすい手法ではあるが、ソクラテスやデカルトと一緒に堂々と自分の名前を並べる感じが、非常に青くてかわいらしい!そもそもが私はコクリコ坂の中でも哲研の彼がかなり好きなのだ。

他にも、壁や天井の張り紙などなかなか楽しいことが書いてある。いかんせん全部その場で熟読できるほど場所を独占できないので、とりあえず手書きの紙は写真を撮りまくって、家でじっくり読んだ。

もちろん中には週刊カルチェもある。こちらは見出しの飾り文字なんかが可愛らしくレタリングされていたので、もしかしたら海ちゃんがガリを切ったのかもしれない。

メリーゴーランドも素晴らしい

ありがたいことにヤックルに乗ることができました。

魔女の谷には、移動遊園地という体で2つの遊具がある。片方は子供限定なので、大人だけで行く場合はメリーゴーランド一択だ。

これも非常に良かった。
まず曲が良い。メリーゴーランドで流す曲と言えば当然「運命のメリーゴーランド」な訳だが、それをパーク用に久石譲が新規にアレンジした物を聞くことができる。
デザインも大変かわいらしくお洒落で、乗ってみると天井まで装飾が美しい。
つまり、夢みたいな景色の中で、夢みたいな乗り物にのって、夢みたいな音楽を聴く時間なのだ。降りたくなかった。メリーゴーランドで泣きそうになったのは初めてだった。

ジブリパークを信じて

パークを一通り楽しんだ上でこれだけは言えるのは、「ジブリパークを信頼しよう!」だ。

普通ならなかなか触れないような所までしっかりと、魂が宿るような細工がしてある。これはジブリパーク側が「きっと誰かは気付くだろう」と信じて仕込んでおいてくれているんじゃないだろうか。
だからこちらもその作りこみを信じて、勇気を出して触れてみると、本当に全部応えてくれる。
これが最高に気持ちがいい。
自分の好奇心を肯定してくれたような気持ちで嬉しいし、この答え合わせ感が良い具合にマニアックなファン心をくすぐってくれる。

そして、それだけいろいろ自由にしていいということは、客のマナーを信じてくれているということだと思う。
というかジブリパークは結構な善意が要求される仕組みです、正直。
あまり具体的に書くと良くないが、色々やらかそうと思ったら結構できてしまう作りになっている。
それは、こちらへの信頼でもあるし、試されているともいえるかもしれない。

ジブリパーク側が客に対して「誰かは気付くはず」という仕込みと、「マナー良く見てくださいね」という無防備な姿をさらしてくれているので、その信頼に対してこちらも応えようという気持ちにさせられる。
そういう相互の信頼で成り立つ優しい施設のように感じた。

楽しみ方はそれぞれで

ここまでかなり濃い目に書いてしまったが、今回はあくまで「ジブリファンが大さんぽ券プレミアムで遊び尽くす」というのが目的だった。
ガイドブックで宮崎 吾朗監督も『テーマパークではなく公園』というような事を何度かおっしゃっていたように、のんびりとした時間を過ごしに行ったり、知らない作品のエリアでも適当に見てワーおもしろいねーと雑に歩いても良いと思う。

パークがある大きな芝生のエリアには、多分ジブリパークとは関係ないであろう子連れや犬の散歩の方がビニールシートを広げていて、他人の良い休日の空気が見えるので、なんとなくこちらものんきになれる。
「さんぽ」しに行くのも、ガチ勢的な楽しみ方も、どちらも受け入れてくれる不思議な空間が、ジブリパークの一番の持ち味かもしれない。


余談:事前にやっててよかったこと

「アーヤと魔女」を見る

もし「アーヤと魔女」がまだ未視聴なら、是非どうにかして見て欲しい。「魔女の谷」エリアにはアーヤを題材にした「魔女の家」もあり、これが実に良いのだ。魔女の谷の中ではギミックも多めだと思う。
一度はテレビ放映時に見ていたが、だいぶ忘れていたので今回GEOのオンラインレンタルを利用した。(初めてオンラインレンタルを使ってみたらずいぶん簡単で、これも今回覚えた事として良かった)
同行してくれた友人が未視聴だったので、前日に一緒にワイワイ見たが、ジブリの中ではかなり娯楽色が強い作品なのでそういう楽しみ方にも向いていると思う。

その他の題材になってる作品も見直す

前述のとおり、作中の世界をモチーフにした場所が沢山あるので、特にプレミアム券で遊びに行くならば事前予習はすればするほど楽しい。しないと駄目ではなく、したほうが楽しい。
単純に、大好きだったはずだけどしばらく見ていなかったジブリ作品を見直す機会にもなるし、数年ぶりに見ると見方が変わって作品理解も深まったりして、それ自体がとても良かった。

公式ガイドブックをめちゃめちゃ読む

ジブリパークは公式ガイドブックが販売されているが、これは読んでおいて非常に良かった。
エリアの紹介などはもちろん、どういう想いや狙いでパークを作り上げていったかの、根っこの哲学の部分を知ることができる。
特に宮崎吾朗監督のインタビューからそれを強く(勝手に)感じ、ジブリパークの随所でそれを実感した。もう今の私はジブリパークと宮崎吾朗監督のファンかもしれない。

https://ghibli-park.jp/info/info20240513.html

知らなかったのだが、パーク製作を指揮した宮崎 吾朗監督は、アニメ業界の前にはランドスケープデザインや造園関係をやっていたらしい。
ジブリ作品に対する理解と、人が訪れる場所への理解、その双方を持ったかなり特殊な人材が身内にいたっていうのは、多分わりとレアケースだ。



ジブリ関係の感想まとめ


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