マーク・トウェインの暗転「金メッキ時代」~「不思議な少年」(改訂)
「トム・ソーヤーの冒険」などで有名なマーク・トウェインが最初に脚光を浴びたのは、1873年に書かれた「金メッキ時代」という作品でした。
これは、彼が生きた南北戦争(1861~1865)後のアメリカ社会を風刺的に描いたものです。
北軍の勝利を経て国内が統一されたアメリカでは、産業が飛躍的に発展し、西部への開拓が本格的に進められて行きました。
大陸を東西に結ぶ横断鉄道が 1869 年に完成、その後も各地で鉄道の敷設が進み、農産物や工業製品の大量輸送が可能になりました。
その他のインフラも発達し、さまざまな発明がなされました。そして実業家や銀行家、企業は勢力を増大させ、アメリカは経済大国への道を歩んで行くことになります。
しかし、この繁栄の中でトウェインは、その負の側面を冷ややかな目で見ていました。
資本主義社会の急成長と共に政治経済の腐敗や不正が横行するようになり、
また、一代で巨富を築く「アメリカンドリーム」と称される成功物語や立身出世物語がもてはやされるようになりました。
そして、「自分(たち)の富のためなら手段を選ばず」といった拝金主義とエゴイズムが蔓延して行ったのです。
「金メッキ時代」は、一獲千金を夢見る一家と夢想家の大佐らを通して、このバブルに踊る人々を批評し、未来への警鐘を鳴らす作品なのでした。
その後、トウェインは「トム・ソーヤーの冒険」(1876)や「ハックルベリー・フィンの冒険」(1885)といった世界的な名作を書きます。
特に「ハックルベリー・フィンの冒険」では、普遍的な人間愛と尊厳が強くユーモラスに描かれており、次世代のヘミングウェイらによって「アメリカ小説の最高峰」と称えられる作品となりました。
しかし、アメリカの西部開拓がさらに進み、国がますます栄えるにつれて、トウェインの作風には暗い影がさしはじめます。
1890年から1910年の間に書かれた「不思議な少年」の舞台は、16世紀オーストリアの、森に囲まれた小さな村です。
トムやハックが冒険した、光が降り注ぐアメリカ南部とは真逆の世界で、この寓話は展開されます。
晩年のトウェインの作品は、より暗く厭世的な色合いを帯びて行きます。
中でも、老人と青年の対話形式による「人間とは何か」(1906)の内容は、きわめて悲観的なものです。
人間性への信頼と希望を訴える青年を、この老人はことごとく論駁します。そして、相手が気の毒になるほど人間の愚かさや救いがたさを説くのです。
こうしてトウェインは、世界に対する幻滅をいくつかの著書に遺して、筆を置いたのでした。
個人的には、五人いた子供の最後の残存者であった娘の死や、事業の失敗など、不幸が重なったことの影響があったのかも知れません。
時代背景としては、西部開拓が「フロンティアの消滅」をもって終焉する一方、国力の拡充がさらに進み、アメリカが最強国の座に躍り出る前夜でした。
そして世界は、かつてない規模による殺し合いの時代へ突入することになります。
マーク・トウエイン(1835-1910)~アメリカ・小説家
南北戦争後のアメリカ・リアリズム文学を代表する小説家の一人。「トムソーヤーの冒険」(1876)「ハックルベリー・フィンの冒険」(1885)などが日本でも有名。現代アメリカ文学の原点と言われる。