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♡今日のひと言♡坂口安吾


『桜の森の満開の下』(1947)

(本文)
・・・そこは桜の森のちょうどまんなかのあたりでした。四方のはては花にかくれて奥が見えませんでした。日頃のような怖れや不安は消えていました。花の涯から吹きよせる冷めたい風もありません。ただひっそりと、そしてひそひそと、花びらが散りつづけているばかりでした。彼は始めて桜の森の満開の下に坐っていました。いつまでもそこに坐っていることができます。彼はもう帰るところがないのですから。
 桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。あるいは「孤独」というものであったかも知れません。なぜなら、男はもはや孤独を怖れる必要がなかったのです。彼自らが孤独自体でありました。
 彼は始めて四方を見廻しました。頭上に花がありました。その下にひっそりと無限の虚空がみちていました。ひそひそと花が降ります。それだけのことです。外には何の秘密もないのでした・・・

青空文庫

坂口安吾(1906-1955  新潟・小説家
1931年に「風博士」「黒谷村」で文壇に登場。その後「日本文化私観」(1936)「青春論」(1942)などの随筆を発表した。第2次世界大戦後、「生きよ、堕ちよ」という逆説のモラルを評論「堕落論」(1946) で説き、小説「白痴」(1946)、「桜の森の満開の下」(1947)などを発表、戦後社会の混乱と退廃を反映する作風を確立した。ほかに推理小説「不連続殺人事件」(1947~48)、文明批評的「安吾巷談」(1950)など。


以下、「青空文庫」で全文を読むことができます。恐ろしい話です。


2024.4.17
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福田尚弘
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