夜の散歩とレモネード

金曜の夜、散歩をした。

我が家には2匹の犬がいる。
小型犬なので外で頻繁に散歩をする必要はないが、やはりお散歩する?と言うとわかってるのかわかってないのかわからないが、なんだか嬉しそうな顔をする気がするので連れて行きたくなる。

この季節、日中は暑い。
この時期に散歩に連れて行こうものなら、暑くて常に舌を出して「ハァハァ」言っていて心配になるし、アスファルトの温度は大丈夫だろうか、肉球を火傷しないだろうかと何度も地面に触れてみては気になってしまう。暑い日の散歩は危険だ。

そして愛犬もだが運動不足の飼い主の私たちの方が暑い中歩くのが危険な気がする。

そんなわけで仕事を終えた金曜の夜、思いつきで散歩をする事にした。
仕事から帰って夕食をとったりしていると時間も遅くなってしまって家を出たのは夜の10時だった。我々も金曜の夜という解放感から少々食べ過ぎてしまったので食後の散歩はちょうどいい。

夫にライトを持ってもらって散歩に出かけた。
家を出てすぐは道幅が狭く、車も夜だという事で油断してスピードを出してくるかもしれないので愛犬を抱っこして駅前まで向かった。

田舎といえど日中は人で溢れた駅前だが、この時間だと人はまばらだ。電車が駅に止まれば、仕事帰りか飲みの帰りかといった人たちが降りてくる時だけ、少し賑やかになる程度だ。

数年前に整備された歩道は広く綺麗だ。日中だと人がいて犬を連れていると気を遣って歩けないが、今なら自由だ。後ろから来る人もいないし、前からやってくる人もいない。ふらふらと立ち止まったりしていろんなところの匂いを嗅ぐ愛犬が誰かの邪魔をすることもないのでこちらとしてもなかなか気楽である。

当たり前だが駅前のほとんどのお店は閉まっている。
和菓子屋さんもパン屋さんもリサイクルショップもみんなシャッターが下りている。

普段あまり通らない道を歩いてみると明かりが付いているお店もある。中をチラと覗くと、なんだか楽しげにお酒を飲んでいるようなそんな雰囲気が伝わってきた。

駅前で美味しいものが食べられて、お酒の弱い私が少しだけ飲んで歩いて帰られるようなお店はないかなと常々思っていたので、ちょうど良さそうな居酒屋さんを見つけたと思った。日中だと逆に開いてなくて中の様子が窺えないが、今なら窓から少し様子が見える。

なんかいい感じそう。
でも、少し狭くてお客さんは常連さんって感じなのだろうか。そういうお店はほとんどお酒を飲めない者からすると入りづらい。いつか勇気を出して行ってみたいと思いながらその店の前を通り過ぎた。

それからは今まで用もなく渡ったこともなかった踏切を越えてみたり、通ったことのない道を通ってみたり。愛犬も短い脚をばたつかせながら必死についてくる。きっと楽しんでいるに違いない。

駅の周りを歩いては少し疲れたので、駅前の交番の前にあるうねうねした形のベンチに腰掛ける。なんだか不思議だ。こんな時間にわざわざ駅前のベンチに座ってぼーっと休憩することなんてない。この街に暮らして2年になるが初めてのことだ。

日中は暑くなってしまったけれど、夜は心地よい風が吹いている。愛犬も少し風を受けながら地面に伏せをして休憩している。明日は休みだから時間も気にせず気持ちのままに行動する。

しばらくして、夫がよし！と立ち上がりそろそろ家に帰る事にする。ずっとここにいたら日が変わってしまう。家の方に向かって歩く。

途中喉が渇いたので、買った事のない自動販売機で見たことのないレモネードの缶ジュースを夫に買ってもらった。夫はクリームソーダのジュースを買っていた。買ったはいいが、開けてしまうと片手が塞がってしまうので仕方なく帰ってから飲む事にした。ズボンのお尻のポケットに缶ジュースを入れると水滴でズボンが少し濡れた。

クリームソーダのジュースを飲んだ夫は「うわ！バニラの味がする！」驚いたようなそして、微妙な顔をしていた。私も一口もらったが確かに微妙な味だった。

少しずつ住宅街に入っていく。そして少しずつ声のボリュームも下げてゆっくり坂を登っていく。
風が吹いていて心地よかったはずが坂を登るとじんわりと汗をかいてきた。お尻のポッケのレモネードが早く飲みたくなる。

家までの最後の急な坂を必死で登る愛犬をとても頼もしく見守りながらも、急な坂を登るのは犬の身体にあまり良さそうではないので最後は抱っこして帰った。

家に着くと日が変わる30分前だった。思いの外、ゆっくりし過ぎてしまったみたいだ。
クーラーを付けて気持ちいい風を受けながら散歩に帰ってきたそれぞれがぐったりまったりとしている。

私はコップにいっぱいの氷を入れてレモネードを注いで一口飲んだ。甘酸っぱくて美味しい。少し疲れた身体にちょうどいい。

レモネードを飲みながらぼーっとしていると金曜日ではなくなっていた。なんだか不思議といい夜だなと思えた。ただ、夜に外に出て近所を歩いただけ。特別なことはしていないのに。今夜はぐっすり眠れそうな気もする。

またやろう、夜散歩。
そしてあのレモネードももう一度、夜散歩の後に飲みたい。