そのラーメンにご執心
熱しやすいタイプだ。
熱しやすく冷めやすいタイプなんてよく言うが私は冷めるのは結構遅い。気に入ったことがあればあんかけうどんのようにいつまでも熱を保っている。
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数ヶ月前、お気に入りの飲食店を見つけた。そこは中華料理のお店で、夫に「死ぬまで同じ店でしか食べられなかったらどこの店で食べたいか」という、全くもってナンセンスな質問をされた時に私はその店と答えた。
その店は、ご存じ「餃子の王将」である。
食は万里を越えるというあの餃子の王将。
最近、餃子の王将が好きすぎて週1、いや時には週2で行くようになった。
元々、夫が餃子の王将の餃子(ややこしい)が大好きだった。私はたまに王将に行けば何を食べたらいいのかわからなくて、正直あんまり好きではなかった。
せっかくの外食だったら、他のラーメン屋さんとかお寿司とか焼肉なんかがよかったので、たまに夫の希望を聞いて王将に繰り出していたのだが、その度に「また王将?」などと呆れて言っていた。
週1で通うようになったきっかけは1杯のラーメン。
以前住んでいた街には選択肢が無数にあるくらい飲食店が軒を連ねていた。しかし、引っ越して田舎に住んだがために近所の飲食店の数が格段に減った。にも関わらず餃子の王将はあったし、なんなら近くに2店舗あった。
外食する場所が少なくなった事で夫の好きな王将に行く事が増えた。ある時、なんとなく勇気をだして1杯のラーメンを注文した。
「辛玉ラーメン」
その名の通り、辛くて溶きたまごが入ったラーメンだ。見るからに真っ赤なスープに私は少し怯んだが珍しく冒険してみようという気持ちになり注文したのだ。
実際に運ばれてきたスープも写真と同じ真っ赤なスープ。私はそこまで辛いのが得意ではなかったので、ドキドキしながら少しだけ麺を掴みゆっくりと口に運んだ。
その瞬間、衝撃が走った。
「うまっ!」
キャベツと豚肉とニラを炒めた香ばしい香りがラーメンからふわぁっと鼻に入ってきて、スープもちょうどいい塩梅の辛さで旨味もある。麺は細く私好みだ。そしてこの卵がいい仕事をしている。
「おいしい!」
「うまい!」
「幸せや!」
この一杯を食べ終わるのに何度この言葉たちを言っていただろう。夫に「何回言うねん」と突っ込まれるほど言ったかと思う。
辛い辛いと言いながらも美味しくて箸が止まらない。辛いので何度も水を飲むが、テーブルの上にピッチャーが置いてあるので気にせず水を飲みながら食べ進める。
麺がなくなれば箸をレンゲに持ち替え、再び辛い辛いと言いながら真っ赤なスープを啜り続けて気づけばラーメン鉢の中は空っぽになっていた。
余は満足じゃ。と言わんばかりの顔をしてヒリヒリする口元を拭った。
そしてお腹も満たされ満足してお会計を終え車に向かう。それにしてもお会計が安かったなとなんとなくレシートを見ればこの辛玉ラーメンが473円だったのだ。
「やっす!」
こんなに美味しいのにワンコインでお釣りが来ていいのかとあまりの安さに気づけば駐車場で叫んでいた。
この辛玉ラーメンに衝撃を受けてから数日が経った頃、無性にまた食べたくなってしまった。食べたい!食べたい!と思い続けていたある日、出先で晩御飯どうする?という流れになったので「王将でも行く?」と言って、夫好きでしょ?感を装った。
私が行きたいのではなく夫に王将好きでしょ?くらいの感じを醸し出しながら。散々「王将行きたい」と言っていた夫にあまりいい顔しなかった負い目があるからだ。
しかし、それからはそんな事を気にするよりも王将に行きたかった私は、構わず「王将行きたい」と言うようになった。王将へ行くことが少しずつ増えていき、遂には週1で王将に行くようになった。
時には別の店舗に行って食べることもある。店舗によって微妙に味が違うのも餃子の王将の面白いところだ。
その店はいつもの辛玉ラーメンより1.5倍くらい辛味に拍車がかかっていた。一口味見した夫は口に入れた瞬間むせていた。私も唇がたらこのように成長していくのを感じながら辛さに耐え、でもそれでも美味しくて食べきった。
通うようになって王将のスタンプが貯まりいつでも5%OFFになるカードも手に入れるほどになった。
そして、とうとう夫から言われてしまった「また王将?」と。完全に立場が逆転してしまった。
今更になって王将の美味さにようやく気づいてしまったのだ、仕方がない。まぁまぁ良いではないかと夫を宥めながら王将に入る。結局、王将には美味しいものがたくさんあるので夫も満足して帰るのだ。
私は毎回辛玉ラーメンを頼み、ヒーヒー言いながらも美味いと呟き、口の周りを真っ赤にして食べる。
辛玉ラーメンと一緒にもう1品頼む。
当たり前だが餃子の王将は餃子も美味しい。回鍋肉も激うまだ。仕事の疲れを発散させてくれる美味さだ。私たちはたびたび仕事への英気を注入しに王将へ向かう。
もう辛玉ラーメンを食べ始めて半年が経った。まだしばらく王将には通うことだろう。私の熱はまだまだ冷める気配がない。あっつあつ。辛玉ラーメンにご執心である。
今の目標はスタンプを貯めて餃子の王将ラーメン鉢を手に入れる事だ。
その時を目指して辛玉ラーメンを食べ続ける。
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