映画『映画ざんねんないきもの辞典』
【ウチヤマユウジの脱力ペンギン劇場に笑い由水桂のフラットな絵に驚く】
生き物が生きるためにとっている様々な習性が、人間の目から奇異に映るからといってそれを残念と言ってしまうことにあまり賛成はできないので、書籍としての『ざんねんあいきもの辞典』は読んで来なかったし手にも取ってこなかった。ただ、動物の不思議な習性を楽しいストーリーに載せて教えてくれるエンターテイメントとして理解することで、楽しむことはできるとは思っている。
だから、『ざんねんないきもの辞典』を原作にしたアニメーション『映画ざんねんないきもの辞典』についても、そうしたエンターテインメントである且つアニメーションとして楽しむことができると信じてみれば、これがなかなかに面白くてなおかつ意欲的なアニメーションになっていると理解できる。
映画はコアラが出てくるオーストラリアと、ペンギンばかりの南極と、そしてニホンウサギやツキノワグマやオコジョやアナグマやタヌキやトラクターが出てくる日本が舞台の3本がそれぞれにストーリーを持った30分くらいのアニメーションがあって、それをブリッジでつなぐオムニバスになっている。
まずオーストラリア編ともいえる「リロイのホームツリー」はキューブ型のネズミが出てくる「グレゴリーホラーショー」とか四角いペンギンが出てくる「ペコラ」なんかを手がけていたイワタナオミが監督。とはいえ、独特なデザインワークは使われてなくって割と可愛いルックの3DCGによるコアラやウォンバットが登場しては、ユーカリの木を探して旅をする子供が好みそうなルック&フィールの作品に仕上がっている。
声も今が旬の花江夏樹や大ベテランの玄田哲章、人気女性声優の小松未可子、そしてベテランの日高のり子ら人気者がズラリと並び、そこに混じってトレンディエンジェルの斎藤司もいたりするあたり、子供のファンを狙った作品と言えそうだ。
続く南極編の「ペンたび」は、監督がウチヤマユウジということでだいたい「紙兎ロペ」。ジェンツーペンギンにアデリーペンギンにヒゲペンギンが暮らしている南極に道に迷ったコウテイペンギンの姉さんが登場しては、元いた営巣地に戻るために旅をするという展開が例の脱力させられる会話劇で進む。あり得ないシチュエーションだけれどこいつらならあり得ると思わせるスクリプトの巧さに脱帽。激笑える。そしてしっかりペンギンについて学べる。いつもだいたい中腰だとか。
凄かったのが日本編の「はちあわせの森」で、監督が由水桂と聞けばなるほどやっぱり「リッジレーサー」のオープニングだとか、「リョーマ!新生劇場版テニスの王子様」みたいなグリグリの3DCGによるアニメーションが繰り出されるかと思うと、これが実に絵本的というか、切り絵的にフラットな塗りでもってニホンウサギだとかツキノワグマといった動物が切り出される。
なおかつそれらが、ちゃんと動物のように動く。輪郭線だけで描かれていながら立体的に見えるというのはおそらく3DCGのモデリングにフラットなテクスチャを貼り描いたものだと思うけど、そこで動物のフォルムが崩れないということはしっかりと動物らしいモデリングが出来ているってことなんだろう。
そんな生き生きとした動物たちが跳ね回る自然は、美術監督の日野香諸里によるもので、色彩といい奥行きといい実に日本の自然であり、かつ侘び寂びとはちょっと違ったアニメーションとしての自然の雰囲気を感じさせてくれる。安曇野あたりにロケハンをして描いたっぽく盆地に広がる町があって遠くに雪を被った山の稜線が見える風景が実に綺麗。それもまた絵本のような背景を絵本のような動物たちがアニメーションならの躍動感を持って動き回る力業を目の当たりにせよ!
あとは、ウサギもツキノワグマもうんこを食べたり溜めたりするんだなあと理解。そうしたタームを言わされる声優もなかなかにざんねんかも。内田真礼に沢城みゆきはよく頑張った。(タニグチリウイチ)