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映画『さよなら銀河鉄道999―アンドロメダ終着駅―』レビュー

【女の子1人救えない革命なんて馬に喰われろと思わないでもない】

 『「1000という完成を目指して旅を続ける思春期」という意味を「999」の数字に込めて描いた世界が、クリアな映像で蘇る』

 これは2009年に劇場版『銀河鉄道999』とその続編「さよなら銀河鉄道999―アンドロメダ終着駅―』、そして大きく時を隔てて制作されて、導入部のみが描かれた『銀河鉄道999 エターナル・ファンタジー』の3作品がブルーレイ化された際に、原作者の松本零士にインタビューした記事のリード部分。ここから10余年を経てドルビーシネマ版が作られ4K化もされて、よりいっそうクリアな映像でシリーズを見ることができるようになった。

 インタビューで松本零士は、作品が生まれた背景をこう説明していた。『「子供のころに住んでいた福岡の線路端で、東京に向かう列車を見ながら、いつか自分もあれに乗って、東京に行くぞと思っていた」。大都会で成功する夢と、本で見たアンドロメダ星雲の美しい写真から感じた宇宙へのあこがれを、漫画にして表現したのが「銀河鉄道999」だった』

 鉄郎とメーテルが999号で訪問する星々にも意味があった。『旅の途中で、鉄郎とメーテルが立ち寄る星はどれも個性的。「自分の願望や、横恋慕した女性への思い、世界で起こっているできごとなどを、ひとつひとつの星に置き換え描いていった」。松本さんの体験が映し出されたドラマに触れ、人生という長い旅を歩いていく大変さと楽しさを、自分のことのように感じられたことも、作品に大勢の人たちを引きつけた』

 漫画はヒットしテレビアニメも大人気となった。その勢いを受けて作られたのが、りん・たろう監督による劇場版だった。「大人から子供まで、全部の世代に見て欲しい」。そう願った松本零士の思いはかなって、『銀河鉄道999』は記録的な大ヒット作となった。だったらもう1作となって、嫌がるりん・たろう監督を招いて作られたのが『さよなら銀河鉄道999―アンドロメダ終着駅―』。これが驚きの作品だった。

 希望がうかがえた前作のラストシーンから一変して繰り広げられる陰惨な世界の状況に、あの旅にはどんな意味があったのかといた問いを投げたくなる。機械化惑星を破壊して機械化人たちの横暴に歯止めをかけたはずなのに、地球のみならず宇宙では機械化人たちによる人間の抑圧が激しさを増して、地球も荒廃が進んでいた。

 鉄郎はその中である種のレジスタンスとして機械化人と戦っていたが、戦線はじり貧であとは滅びるばかりだった、その時、鉄郎を「銀河鉄道999」に乗れと呼ぶメーテルのメッセージが届いた。そしてなぜか動いていた999号。そして現れたメーテル。どこかに連れて行こうとしているのか。違った。メーテルは鉄郎を止めようとさえした。誰が何を画策しているのかが、まるで見えずに観客を戸惑わせる。

 浮かぶ展開上の矛盾は、命を救ってくれた恩人であるにも関わらずメーテルを批判したくらいで殴りかかる鉄郎の直情径行ぶりも含めて、夢とロマンに溢れていた前作とは違ったザラつきを観る人にもたらす。さらにメタルメナというクレアの後釜の999のウエイトレスが、惑星アンドロメダで反省をして身を盾にして鉄郎を助けてそしてちゃんと生き残って999にたどり着いたにも関わらず、機械の体ではそこにいちゃいけないと知って虚空へと身を投じる展開に、不憫さが浮かんで憤りすら覚えさせる。

 頑張って999号まで戻って、さあここから改めて自分の生を取り戻すんだといった可能性が浮かんだのに、その道を断ってしまう残酷な展開が、劇場版『銀河鉄道999』のクレアの犠牲ともども腹立たしい。女の子1人くらい救えなくてなにが革命だとすら思える。そうした機械化人の命の“軽さ”を一方で描きつつ、人間の命が機械化人の糧にされている状況を描いてそれを止めるために機械化人たちを皆殺しにする展開を通して、人間の命の“重さ”を感じさせるのもバランスとして落ち着けない。

 もっとも、きらびやかなだけで夢と希望にあふれかえった宇宙よりも、残酷さと矛盾に満ちた宇宙の方が現実味を覚えさせると言えなくもない。その意味ではやはり重要な作品と言えるのかもしれない。ドルビーシネマ版として上映され、4K版としてリリースされる機会に改めて観られ、その是非が議論されて欲しい。黒が締まった画面は破壊の炎を浮かび上がらせ惑星アンドロメダのカタストロフという人類にとっては僥倖で、機械化人にとっては悪夢のような状況を脳裏に刻みつけるから。

 願うなら『銀河鉄道999 エターナル・ファンタジー』ではない正統にして完全な続編を描いて、『さよなら銀河鉄道999―アンドロメダ終着駅―』の苦い後味を吹き飛ばし、今一度宇宙へ夢と希望を抱かせて欲しい。そうなった場合鉄郎を、そしてメーテルを誰が演じるかも興味が浮かぶ。(タニグチリウイチ)

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