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映画『KAPPEI カッペイ』レビュー

【小澤征悦の努力にもっと頑張らなくちゃと思う】

 上白石萌歌を振るとはけしからん奴めと思ったものの岡崎体育では仕方がない。あの溢れ出る音楽的才能をもってすれば、マドンナだってマライアだってかしずかせることができるのだから。

 いや、それは演じた役者のリアルでの話であって、役柄として映画好きで自主制作で映画を撮っている外見が太めのメガネ男子が、純真で優しくて他人を思いやる心を持った少女から告白されて断るというのが信じられない。そして同時に腹立たしい。

 振った理由が自分にはすでに彼女がいるというのも腹立たしさに拍車をかける。どうしてだ。どうしてなんだ。もしも自分が無戒殺風拳を使えたら、その場で岡崎体育演じるメガネ男子の堀田先輩を八つ裂きにするぞと脅して、上白石萌歌演じる山瀬ハルにこちらからお願いしますと言わせるだろう。ハルの幸福を願って。

 だから勝平もそうすると思ったらスルーした。それもそうだ。堀田先輩がハルを振ったことで自身にチャンスが巡ってきたからだ。勝平は無敵の拳法使い。終末に現れる悪を倒して世界に平和を取り戻す「終末の戦士」として、子供の頃から修行に励んできたのだから。その使命を明かして告白すればハルだって受け入れてくれるに違いない。そう思っても体が動かない。口も回らない。

 それは初心だからだ。子供の頃から同じように各地から集められた男たちを修行に明け暮れていた勝平には、女性と喋ったり恋を語ったりするスキルがなかった。躊躇って言い出せず悶々としているその時、同じようにハルに恋する男が現れ、それが同じ「終末の戦士」だったから驚いた。英雄。「終末の戦士」でも最強と名高い彼がハルに救われたことで一念発起、身を整えてハルに近づき面識を得て、そしてハルの誕生日に告白をすると宣言した。

 最強の敵を相手に回して勝平は己の思いをハルに告げられるのか。そもそも自分は英雄に勝てるのか。世界を揺るがす戦いが始まる……かどうかは作品を観てのお楽しみ。そこに至るまで、映画『KAPPEI カッペイ』は、「終末の戦士」として育てられ、最強レベルの力を持った男がいきなり現代に放り出されて右往左往する様を愉しみ、常識外れの振る舞いに笑い、初めての恋情に懊悩する心情に共感を覚えて身もだえすることができるコメディーとして描かれる。

 『デトロイト・メタル・シティ』の若杉公徳による漫画を原作にしているだけあって、異様なシチュエーションが日常にすっと入り込んでは巻き起こすクスッとした笑いを大いに感じられる。自分が当事者だったら恥ずかしさにのたうちまわりそうなことを登場人物たちにやらせるところも若杉公徳ならでは。1度目は羞恥心が伝染して正視していられないかもしれないところもある。

 だからと言って2度見るかというと、そこは上白石萌歌の笑顔にもっと触れたいと思えるか、勝平と英雄の“バトル”で覚える感動を今一度味わいたいか、花見で地べたに座るスカート姿の女性がのぞかせる何かを勝平たち共々愉しむといった理由が必要かもしれない。何だ、割と愉しめるじゃないか。

 加えて役者の頑張りも。伊藤英明が鍛え上げた肉体をデニムのベストとショートパンツだけで包み、手には指切りグローブ、足にはワークブーツという出で立ちで歩き回って苦笑を誘い、『ルパンの娘』シリーズでダンスの得意な泥棒を演じた大貫勇輔が、そぎ落とされた肉体をサスペンダーで吊ったレザーパンツ姿で踊り戦って感嘆を覚えさせる。

 山本耕史は大河ドラマで土方歳三や石田三成を演じる一流の俳優でありながら、特攻服姿で尾崎豊を歌い尻を露わにして自ら鞭入れ突進してはあっさりやられる出落ちぶりで愕然とさせる。そして小澤征悦。あの世界的な指揮者の小澤征爾を父に持ちながらも映画では爆発した髪型にマントというミスターサタンもかくやといった格好で雑草を喰らいリヤカーを引く姿を見せる。

 その小澤演じる英雄がハルを相手に告白するために、はらった努力は讃えたくなるがそれならスーツの袖口のブランドタグは外しておけと言いたくなった。4月に新入社員として就職する人は注意するように。

 しっかりと演技できる役者たちを、それぞれに「終末の戦士」と納得でき得るレベルまでビルドアップさせて起用したところは讃えたいが、少し言えば伊藤英明のお腹は割れておらずやや余裕が見え、小澤征悦の割れた腹筋は作り物感が出過ぎていてもう少し馴染ませられなかったのかと突っ込みたくなった。

 大貫勇輔はダンサーでミュージカルにも出演しているだけあって弛みもなくスレンダーだったが、拳士と言うにはやや綺麗すぎたか。山本耕史は脇腹もしまって完璧なスタイル。このまま鍛え上げた肉体で『鋼の錬金術師』の実写版撮影に臨み、筋肉こそがすべてのアレックス・ルイ・アームストロングを演じたのだとしたらそちらも大いに期待できそうだ。

 ほか、ハルの親友でメガネが似合う新井久美子を演じた浅川梨奈が、端正な演技で『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』の藤原書記の突き抜けぶりとはまるで違った姿を見せていたのに感動した。というより分からなかった。凄い女優なのかもしれない。

 欲を言うなら少しずつカットしてテンポを上げて欲しかった。夜の校舎窓ガラス壊して回る辺りから勝平と正義の決着あたりをちょこちょこと摘まむなどして数十分は詰められそうな気もしないでもない。もうひとつ、原作にとらわれず続編の可能性を感じさせるエンディングにしても良かった気がするが、あの面々をあの体型で再結集させる手間を考えると、これで終了というのも仕方がない。

 だから願おう。終末の世界で2人に幸あれと。(タニグチリウイチ) 

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