映画『整形水』レビュー
【簡単には痩せません】
スチール写真のルックから、手描きの2Dアニメーションかと思って観た韓国の作品『整形水』は、3DCGでモデリングされたものをセルルックに仕立てたもので、動きについては3DCGっぽさが残っていて、日本の『ULTRAMAN』や『攻殻機動隊SAC_2045』のようなモーションキャプチャが使われたものかどうか、定かな感触を得られなかった。
もしかしたら、人間をモデルとして取り込むことで浮かび上がる生々しさを抑えようと、どこか人形めいた動きを残したのかもしれない。映画には血が飛び肉が削られるようなグロテスクなシーンが結構あって、これでモーションキャプチャを使ってモデルが想像できるような映像になってしまうと、キャラクターの痛みや苦しみまでもが伝わって心が削られてしまっただろうから。どうなんだろう?
内容については、日本でももちろんそうだけれど、韓国ではさらにテーマとしてズキッと心に刺さる美容整形の問題について、鋭く抉るものとなっていた。美少女ではなかったからバレエがうまくてもグランプリはとれなかった少女が、成長してメイクという仕事に就いて芸能人向けに活動していた。それだけでも十分に成功のような気がするものの、当人は決して満足はしていないようすだった。
確かに容姿は今ひとつでも、手に仕事があるなら誇って自分を律すればいいものを、自分に厳しくないのかひたすらに食べ続け、飲み続けては肥満体をさらに大きく膨らませていく。それでいて嫉みと僻みの意識が強くて、芸能事務所のタレントで新進の美女が罵倒してくるのを受け流せず、ににらみ返してはネットで誹謗を繰り返す。
そんな主人公が、自分の醜さに絶望して自室に引きこもっていたところに届いた整形水なる化粧品の案内。お試しとばかりに使うと何と顔から肉がこそげおちて、顔立ちもまるで違ったものへと変えることができた。
とはいえ、馴れず少女漫画のような顔立ちになってしまたものだから、提供元にコンタクトをとってどうにかしてくれと頼んだら2億ウォン、日本円だと2000万円くらい持って来たら顔も全身も治してあげると言われ、言うことを聞いて生まれ変わったところで、悔い改めて自律していければ良かったのに調子にのって食べて太って、それを運動ではなく整形水でそぎ落とそうとしたものだから失敗してしまった。
まさに自業自得。それなのに原因を他人のせいにした挙げ句に人道にもとる振る舞いで新しい自分を取り戻す。そんな女性が成功したらやっぱり拙いところを、物語は因果応報的な帰結へと持っていく。可哀想だけれど仕方が無い。そこに至る過程で、ミステリでありホラーともいえる設定が浮かんで、主人公だけではなかった容姿への執着も浮かび上がってくる。ことほど韓国は、いや世界は美醜に関する息苦しさに満ちているものなのだ。
救いのなさが響く物語だけれども現状、美人ばかりがもてはやされて整形だってカジュアルに行われていたりする韓国で、美人でないことを誇ってそれを尊ぶ風潮が醸成されるかというとなかなか難しそう。そこを乗り越えられれば音楽性でもダンスでも、そして本作のようにアニメーションでも随分と突っ走っている韓国が、世界でも屈指のエンターテインメント大国に発展していく可能性だってないでもない。
もっとも、それが難しいからこそ、そうした風潮に釘を刺して自分自身を取り戻そうと意識させるような内容の『整形水』という映画が作られて、関心を集める。日本でもルッキズムが先を行く状況は変わらないから、同じように注目されて欲しい映画だけれど、逆に整形水なる魔法に興味を引かれて、本当に作り出したり作ったふりをして他人を騙す人が出てきたりしかねないから要注意。
その腹の肉が落ちますよと誘われたら、自分もあっさりと引っかかりそうだけれど。(タニグチリウイチ)