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Chapter3「YWCA」

「ここだ」


再び助手席に乗り込んでいた客引きは、そう言うと助手席の窓からYWCAの看板を指さした。


やっと着いたか・・・。


着いた早々いきなりトラブルに巻き込まれてしまったが、どうやら目的の宿に無事着いたようだ。

僕が約束通り100ルピーを渡そうとすると、客引きは少し驚いた顔をしながら「100ドルだ」と言ったが、僕らがまたもやすごい剣幕で反論しはじめると、案外あっさりと引き下がった。

どうやら彼らは、自分たちが非道理なことをしているのを知っており、こちらが正面から反論すれば暴力手段に訴えてまで金を掠め取ろうとする意図はないようだ。

別れ際、客引きは一瞬「すまなかったな」という顔を見せながら僕らに握手を求めてきた。同時にいちかばちかでもう100ルピー僕らに要求することも忘れなかった。もちろん、僕らはきっぱりと断った。



ワゴンが走り去るのを見届けながら、無事目的地に着いたという安心感からか、彼らに対して親近感のようなものが芽生えていた。

これが俗に言われる「ストックホルム症候群」というものなのだろうか。

「とりあえず良かったな」

僕らは胸を撫で下ろした。と、同時に、難局を乗り切ったという達成感からか、気分がやけに高揚してきた。


「やっぱ強気でいって良かったな」

「こっちが強気で要求すればけっこう通じるもんなんだな」

「つーか、空港からここまで100ルピーでこれたのってかなり安いよな?」

「あいつら俺らを乗せたばっかりに結局損したことになったな。今考えるとなんかあいつらかわいそうだな。ハハハ」

「このやり方でいけばインドの旅も楽勝だぜ!」



この慢心が後々重大な失敗を招くことになるとは、その時の僕たちには知るよしもなかったのだが・・・・・・。

Chapter4「マクドナルドの友達」

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