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Chapter9「ジャイプールの宿」

ワゴン車が再び出発すると、ほどなくしてあたりは真っ暗になった。しばらく走るうちに僕の意識はしっかりとしてきたが、まだ舌は痺れている。

結局ジャイプールの宿(ホテルクラシックなんとか)に着いた時は夜中の23時をまわっていた。


しかし、ここはジャイプールのどこらへんなのだろう。

途中、街の中心らしき所を通ったが、そこから車で40分くらいは走っただろうか。そして本当にこのホテルはボスが説明してくれたあのホテルなのだろうか。



部屋に案内されると、果たして僕らは絶句した。

「ひでえ・・・」


そこは今思い返してみても、インドで滞在した宿の中で確実に最低ランクの部屋だった。

「もっといい部屋ないんですか?」

僕らは部屋を替えてもらうように要求したが、すでに深夜であり、しかも今日結婚式があり、部屋も満室なので無理だということだった。

そういえば確かに、部屋にくる途中でホテルの廊下の長椅子の上に横になっているインド人を何人か見かけた。

「明日はもっといい部屋に替えてあげますから」



ベッドの上にバックパックをおろすと、今日一日の疲れがドッと噴き出してきた。

夕方までデリーにいたことが懐かしい。おとといまで日本にいたことにいたっては、遠い昔のようだ。


「おい、これドアの鍵壊れてるぞ」

田中君はドアと格闘していた。
さすがにこの宿で鍵をかけないで寝るのは恐ろしい。

「宿の人に交渉しにいこうか?」

僕は提案したが、結局宿の人が部屋に侵入してきては意味がないということになり、荷物やごみ箱でドアが開かないように即席バリケードを作ることになった。

シャワー室兼トイレは1m四方ほどの狭さで不衛生であったが、汗と埃を流したかったので僕はシャワーを浴びた。

「・・・さて、これからどうしようか」



この旅行記を読んでくれている人はすでにお気づきだと思うが、僕と田中君もこのころには「もしかして自分たちは騙されているんじゃないだろうか」という疑念が確信に変わりつつあった。


僕らが疑いはじめた理由は次の3点である。

  1.  途中寄った運転手の村で睡眠薬入りのチーズを勧められた。

  2.  ボスの話では夕食と朝食はホテルでタダで食えると聞いていたのに、ジャイプールに来る途中で寄った食堂でお金を払わされた。

  3.  パンフレットで見た内容とこのホテルの内容の差がありすぎる。


「あのパンフレットのホテルとこの部屋は明らかに違うよな」

「でもあの政府観光局はちゃんと地球の歩き方に載ってたじゃん」

「でも政府の人間が睡眠薬の入ったチーズ食わせようとはしないだろ」

「う~ん」


ボスやイタリア系の笑顔が浮かんでくる。

僕らはまだ完全にこのツアーが詐欺ツアーだという結論に達したわけではなかった。もしかしたらあのうさんくさい運転手が独断で詐欺を働いているのかもしれない。

ただ、明日も運転手が付きっきりで観光するということだし、この旅が窮屈になってきていることだけは確かだった。行動の自由がない。


「俺らにある選択肢はこのまま自由のないツアーを続けるか、お金が返ってこない覚悟でここから逃げ出すかだな」

「ボスに話が違うって文句言って少しでもお金返してもらおうか?」

「あ!そういえばレシートもらってなかった・・・」

「・・・・・・」



長いミーティングの結果、僕らの意見は「例え騙されていなかったとしてもこの先ずっと車で観光地を連れまわされるだけの旅はごめんだ」という一点では完全に一致した。

運転手の胡散臭さにも耐えられなかった。



「よし、明日デリーへ帰ろう」



デリーへ帰ることを決め、残っている資金を数えている僕
デリーへ帰ることを決め、残っている資金を数えている僕。
洋子さんへのおみやげに持ってきたまんじゅうで空腹を満たす。


Chapter10「デリーへ!」

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