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Chapter4「マクドナルドの友達」

翌朝YWCAをチェックアウトすると、僕たちは街の中心であるコンノートプレイスに向かった。

背中には10キロ近くあるバックパックを背負っているため、5分も歩くとガンガン照りの太陽と荷物の重さで体力がすり減らされてゆく。


・・・それにしても「喧騒と貧困の国」とはよく言ったものだ。

コンノートプレイスでは5分と声をかけられないままで歩けない。


「ヘイ! トモダチ」


いろいろな意図を持った「トモダチ」が、入れ替わり立ち代わりこの見るからに旅慣れていない日本人2人組に話し掛けてくる。


それもそのはずで、日焼けしていない肌、背中の真新しいバックパック、左手には『地球の歩き方』と、海外で真っ先にカモになる三種の神器をそろえているのである。


路上では7歳くらいの子供が「バクシーシ」と言いながらその日生きていくための食事代を僕らにせびる。


「バクシーシ」は、持てる者が持たざる者に喜捨をする行為だ。

バクシーシをすると徳を積むことができるらしく、むしろこちらはバクシーシをしたら徳を積ませてもらったことに感謝しなければならない。

ついつい「サンキュー」と言われるのを期待してお金をあげると、にこりともせずに去っていく子供に軽いショックを受けることになるだろう。

ある「トモダチ」がバクシーシと言われたら「ナヒーン」と言って追い払えと教えてくれた。後で知ったことだが、「ナヒーン」とはヒンドゥー語で「No」という意味らしい。



しかし話には聞いていたが、実際に考える暇もないぐらいに次から次へと「トモダチ」や「バクシーシ」の相手をしていると、いいかげん疲れてくる。

インド2日目の僕らは、彼らを軽くあしらうという術をまだ心得ていなかった。



「宿確保してからくれば良かったな」

バックパックを背負って歩くのがこんなに疲れるものだと知らなかった僕は、とにかくどこか涼しい所で休憩を取りたかった。


しばらく彷徨い歩き、コンノートプレイスのBブロックに通りかかった時、僕たちは見慣れた看板を見つけた。



「おい、あんなとこにマックがあるぞ」



異国の地で見慣れたものを見ると、ほっとするものである。

その時の僕らには、マクドナルドはほっとするどころか灼熱と喧騒のインドに現れたオアシスのように思われた。


「よし、入ろう」


余談だが、高級ブランド店などに入ろうとすると、スーツに身を包んでドアを開けてくれる専門の人がいることが多い。

高級感を演出する仕掛けと、場違いな人を排除する仕組みなのだろう。

僕はドアマンにドアを開けてもらうと何か買わなければ外に出る時気まずいんじゃないか、という気がしてこの手の高級店には入ったことがない。


そのドアマンがインドのマックにはいるのである。


マックで売っているのは当たり前だがハンバーガーで、日本では学生やお金のないサラリーマンの胃袋を満たす庶民食だ。


しかし、インドではそのマックに入れる人間と入れない人間の間には、絶対に相容れない壁のようなものが確実に存在する。

それは単にお金のあるなしではなく、「ドアマンにドアを開けてもらえる人間」と、「ドアマンに睨まれて追い返されてしまう人間」がいるだけである。

これがカースト制から生じる壁なのかは、僕にはわからない。

ただ僕にわかるのは、僕は「マックに入れる人間」なんだということだけである。


とにかくも、僕らのインドでの初お昼ご飯はハンバーガーとストロベリーマックシェイクに決まった。

マックでハンバーガーを食べているのは、小奇麗な洋服やサリーをまとった、明らかに「トモダチ」たちとは違ったタイプの人達であった。


僕が田中君とマックシェイクをすすりながらこれからの作戦を練っていると、隣に座っていた2人組のインド人が、僕らの持っていた『地球の歩き方』に興味を示してきた。

「これからどっかに行くのか」

僕たちはマックの中にいるインド人ということで、気を許して「トモダチ」たちには見せなかった愛想を振りまいた。


話を聞くと、彼らは南インドから旅行に来ていて、これからベナレスに向かうという。

ベナレスとは、ガンジス川左岸にあるヒンドゥー教の聖地で、インド風に発音すると「ヴァラナシ」というらしい。

よくパンフレットなどでインド人が沐浴をしている光景の写真があるが、それはヴァラナシのガート(沐浴場)での光景である。


「外を歩く時は、絶対に地図を持ちながら歩いてはダメだ」

驚いたことに、彼らも客引きの攻勢に疲れて、マクドナルドに逃げ込んだらしい。

「へぇー。インド人でも餌食になるんだな。そしたら日本人の俺らが餌食になるのは当たり前かもな」

僕は、僕らと同じ様に疲れきった顔でマックに逃げ込んだ彼らに親近感を抱いた。


「どうすればいいんですかね」

田中君が、外の客引きがうるさくて思うように行動がとれないことをインド人である彼らに訴えた。



「そしたらDTDCに行くといいよ」



「DTDC? 何ですかそれ」

僕が聞くと、彼らのうちの一人が「ちょっとその地図を見せてくれ」と言って、『地球の歩き方』を真剣な顔で見はじめた。

「これだ」

彼はコンノートプレイスの地図が載っているページの一点を指差した。

どうやらDTDCとは政府系の観光局のことを指すらしい。

「ここは困った旅行者のために親切にアドバイスしてくれるし、インドのフリーマップももらえるよ」



親切な彼らにお礼を言い、僕たちは「マクドナルドの友達」と固く握手をかわした。

「グットラック!!」

Chapter5「ボスのプラン」

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