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「食べる音楽」リターンズ
No.13 甘くて熱いカロリーの誘惑
お菓子の好きな 巴里娘
二人そろえば いそいそと
角の菓子屋へ 「ボンジュール」
選る間も遅し エクレール
腰もかけずに むしゃむしゃと
食べて口拭く 巴里娘
西条八十 作詞 橋本国彦 作曲<お菓子と娘>より
イタリアでの朝食について、以前ちらっとご紹介したように思う。基本は、自宅やバールで甘いパンとカップッチーノに代表されるミルク入りカフェを食す。バールで販売しているパンのクオリティは、店によって大きく異なる。小さなバールだと大概、よそから仕入れてきた出来合いのパンを置いており、満足のゆく味を求めるのは難しい。しかし、元々がパン屋、もしくはパスティッチェリア(パティスリー)に喫茶コーナーが後付けされたような場合、店で作った焼きたてパンを味わうことができる。
甘いパンは、クロワッサン、もしくはブリオッシュ生地のパンにジャムやチョコレートクリーム、カスタードクリームを挟みこんだものが主流であるが、店によっては筆者の大好物であるボンボローネを扱っているところもある。ボンボローネは穴のないドーナツ、とでも言えばよいのだろうか、フィリングは、主にカスタードクリーム。クリームの代わりにアプリコットのジャムが入っているものもあるが、あれはドイツ語圏のクラップフェンみたいで、何かが違う。少なくとも筆者にとって、イタリアのボンボローネとは、カスタードクリーム入りのそれである。
ここで、第2の故郷フェッラーラの、ボンボローネにまつわる話をひとつ。かつてかの地を治めていたエステ家には、ジョスカン・デ・プレを筆頭にデ・ローレ、イザーク、ヴィッラールト、そしてルッツァスキと、イタリアのルネサンス音楽史のスターが仕えていた。そのため、ルネサンス音楽をレパートリーとする者は、必然的にフェッラーラの図書館の世話になる。こうしてオリジナルの文献を調べるために、閉館まで古文書室に籠り、夕方帰宅の途につくのだが、この時間になると街に甘い匂いが漂う。匂いのもとは、揚げたてのボンボローネ。市庁舎に近いパスティッチェリアでは、毎年冬季限定で店先にフライヤーを設置し、揚げたてのボンボローネを販売するのだ。
ボンボローネは何と言っても、出来たてを店先で立ち食いするのが一番美味い。店では、揚げたばかりの生地に穴を開け、カスタードクリームを注入。そこへたっぷりと真っ白な粉砂糖をふりかける。これを紙袋に入れてもらい、店外へ出たところで取り出し、かぶりつく。まだアツアツの生地はサクッと沈み込み、中のクリームへと誘う。カスタードクリームは、出来合いのものとは全く別物で、甘過ぎず、それ自体がまるでデセールのプディングのようになめらかで濃厚な味わいだ。夢中で食べていると、ふりかけた粉砂糖が口の周りにも服にも飛び散るが、かまうものではない。
粉砂糖を手で払いながら、そういえばルネサンス宮廷料理にはどのレシピにもたっぷり砂糖が使われていたなぁ、などと、音楽と藝術に彩られた16世紀の宮廷生活に思いを馳せるのであった。
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