「食べる音楽」リターンズ
No.10 野菜を食べて生涯現役!
オオオ、トノノノー♪
手を洗おう、サラダはもう
味付けも済んだし、料理もたくさんある
オオオ、トノノノー♪
ここが食堂だ、ちょっと
歌おうじゃないか 素敵なパーティー万歳!
オオオ、トノノノー♪
A.バンキエーリ<脂ぎった木曜日、晩餐前夕べの小宴>より
日本人の平均寿命が世界でもトップクラスにあることはよく知られている。それでは国内での男女平均最長寿県はどこか、というと長野県だそうだ。先日あるTV番組でこの長生きの秘訣について興味深い仮説が提示されていて、米などの炭水化物を摂取する前に、野菜などをたっぷり食べる食生活が長寿のカギをにぎっているらしい。ようは糖質コントロールによるダイエットと同じような効果が期待されるのだろう。
そう言われてみると、長野は野菜が豊富で美味しいように思う。いや、確かに美味しい。近年、長野県上田市にある信州国際音楽村という音楽ホールへ頻繁に伺うのだが、このホールの向かいには“菜園レストラン”を名のるフレンチ・レストランがある。
ル・ポタジェ Le Potagerという名のその店では、なんとシェフ自らが栽培している野菜を、自家菜園から取ってきては調理している。オードブルからスープ、そしてメインディッシュに至るまで、全てのメニューに旬の野菜がふんだんに使われているのだ。
角の丸い正方形の白い皿には、小さな切片となった野菜たちがマス目を描くように盛りつけられている。いったい何種類の野菜がこの前菜に使われているというのか。色とりどりの宝石のような野菜ひとつひとつに、異なる味付けが施されているのだからなんとも恐れ入る。スープはビーツの鮮やかな色合いを活かした冷製ポタージュ。なんとも美しいピンクの液体をそっと口に含むとトウモロコシにも似た味わいが爽やかに広がる。メインは舌平目のムニエル。ここにもたっぷりと季節の野菜が添えられている。否、むしろ魚の旨味を含んだ付け合わせ野菜こそが大事なのではないかと思えるほどだ。喩えていうなら、タレがしみたごはんにうな重の魂が宿っている(?)のと同じではないか。
しかもこの日、付け合わせに使われていたのは自家栽培のフィノッキオ!日本語ではウイキョウと呼ばれているこの野菜を、イタリアではザクザク刻んでサラダとして食べる。人によって好みが分かれるところだろうが、セロリよりもさらに爽やかな独特の香りとシャキシャキとした歯ごたえがなんとも言えずクセになる。そして庭先に実をつけているラズベリーを添えたシャーベットでコースを締めくくると、その抜群の構成にバッハの組曲を聴き終えた時のような充足感を得る。高台に位置するレストランからの眺望も素晴らしく、通う度に大満足なのだが、あえて難点を挙げるとすれば、野菜をたっぷり使った料理は身体にも至極優しいようで、毎日でも毎食でも食べたくなってしまうことだろうか……。うーん、むしろそんな食生活がしてみたいぞ!