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循環


嫌なことがあった時、本当なら今すぐにでも喚き散らしたい気分になるけれど、そんなことはやはりできなくて、静かに心の中で涙を流しながら、その出来事の記憶の色を、少しずつ薄くしようと何度も何度も薄いフィルターをかけていく。


でも、ふとした時にその記憶の片鱗が顔を出し、何度も何度も丁寧にかけたはずのフィルターは剥がれていき、全てが逆再生される感覚、そう、思い出さないように蓋をしていたはずのそれは、わたしの脳内をひたひたにしていく。


脳内でひたひたになった悲しみの記憶は、そのままわたしの両の瞳から零れ落ちていく。何も映せない、透明の粒たち。


どんどん零れ落ちていくその記憶、流れるところまで流れていく。脳内を満たしていた記憶は気づけば全て零れ落ち、空になったそこには、優しさの花たちと瑞々しい緑が力強く芽吹いていく。


悲しみの記憶は養分となり、わたしのなかの植物たちは活き活きと育つ。優しさが、幸せが、わたしを埋めつくしていく。こうしてわたしは循環していく。心の循環。記憶の循環。



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