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多くの仲間と共に挑戦し、色々な世界をみてみたい。元ラグビー日本代表の山田章仁選手が語る、唯一無二のラグビーキャリア。

世界の一線で活躍してきたトップアスリートから人生についてまなぶシリーズ第一弾。

初回となる今回は、プロラグビー選手として活躍し、日本代表選手として2015年のラグビーワールドカップにも出場された山田章仁(やまだ あきひと)選手(以後、山田選手)。

プロラグビー選手としてのこれまでのキャリアや大舞台に挑む際のマインドセット、そしてその背後にある人生観などについて、お話を伺いました。

プロフィール
山田 章仁(やまだ あきひと)

福岡県出身のラグビー選手。慶應義塾大学を卒業後、プロラグビー選手としてのキャリアをスタート。ホンダやパナソニックでの活躍を経て、2013年から日本代表に選出される。2015年のラグビーワールドカップでは、日本代表の歴史的な3勝に貢献。また、同年にはオーストラリアのスーパーラグビーチーム「フォース」と契約し、国際舞台での経験も積む。2022-2023シーズンからは地元九州のチームに加入し、現在も現役選手として国内外で活躍中。


インタビュアー

箕浦 慶(みのうら けい)
Upmind代表。オーストラリア・パース生まれ。2015年に東京大学工学部を卒業、チームラボに入社。2016年までスマートフォンアプリのエンジニアとして開発業務に従事。2017年に米Bain&Company(戦略コンサルティングファーム、東京支社)に転職し、経営戦略の立案に従事。2021年にUpmind株式会社を設立。瞑想歴はゴア(インド)で体験してから10年以上。


オンラインにてアメリカに滞在していた山田選手にインタビュー(左上:山田選手、下:箕浦 / 弊社代表、右上:佐野 / 弊社アスリート事業担当)



箕浦
 本日楽しみにしておりました。よろしくお願いします!

俯瞰力を身につけた学生時代

箕浦 最初に、山田選手の学生時代からのラグビーキャリアについてお聞きできたらと思います。山田選手は高校時代から日本代表(U17)に選出されていたと思うのですが、当時からご自身が他の選手より優れていた理由はどこにあったと感じますか?

山田選手 周りとコミュニケーションを取ることを誰よりも積極的に行っていたと思います。僕自身がラグビーの強豪校出身ではなく、代表活動では新しいコミュニティを作って生きていく必要があったこともありますが、もともと、価値観が違う色々な選手と話すのが好きでした。

また、周りの選手のいいところを見るのも好きでした。チームスポーツなので、他の選手のいいプレーを引き出したり、彼らのいいプレーをみて自分で盗んだりして、自身の成長にも繋げていました。

箕浦 周りの選手に比べて、全体を俯瞰する力が高く、チームを全体として上手く機能させる力が高かったといった感じでしょうか?

山田選手 そうですね。ドライすぎるくらい俯瞰で見ていました。多分コーチとか監督とかはあまり面白くなかったんじゃないかなと思います。生意気、みたいな。笑

箕浦 全体を俯瞰する力は、どのようにして身についてきたと思われますか?

山田選手 海外の生活などを経て身についたと思います。大学1年生の終わりに10ヶ月くらいオーストラリアに留学したのですが、そこで、自分の価値観というのは世界中にあるたくさんの価値観の中の1つでしかないことに気づき、自分の物差しだけで物事を見るのをやめました。

プロになるものの、ラグビーが人生の全てではない

箕浦 大学を卒業してからプロになられて、「ラグビーで生活をしていく」という意味で学生時代から変化があったかなとは思うんですが、試合への向き合い方や日常生活の取り組みで変わった部分はありましたか?

山田選手 もちろん、プロ選手として体のケアや栄養などには、より気を使っていました。ですが、心構えとしては、プロ選手になったからといって特に変わったということはありません。

僕は慶應大学卒では初めて、就職せずにプロラグビー選手になった選手だったので、選択を批判されたりすることはあっても、プロとしての期待みたいなものがなかった分、息苦しく気負う(きおう)ことはありませんでした。

プロデビューし、ホンダに所属していた時の山田選手


箕浦
 「慶應大学卒からプロラグビー選手になる」という前例がない選択肢をとる中で、特に不安もなく、そういったキャリアを選択された感じでしょうか?

山田選手 そうですね、特にありませんでした。

それまでの経験から、ラグビーの実績だけではなく、他の面でも活躍してラグビー選手の価値を上げたいという思いが少なからずありました。

アスリートってスポーツばかりやっていて、学歴を馬鹿にされたりすることもあるんですけど、自分はたまたま慶應に進学することになりました。

大学時代にオーストラリアに行った時も、ラグビーが上手くなりたいという思いもありましたが、「大学卒業後はグローバルに活躍したい」という昔からの思いもあっての留学でした。

そういったこともあり、ラグビー選手だけどラグビーが全てではない、という考えは常に持っていました。「ラグビーが全て」と思ってしまうと、高いストレス下に置かれてメンタルのバランスを崩してしまう人もいるかとは思うのですが、他にも逃げ道を作るというのは大事かなと思います。

箕浦 なるほど。今の道が全てだとは思わずに、選択肢の一つだと思うことで、気負いすぎることなく、バランスよく楽しみながら、道を歩めるのかもしれないですね。

日本代表に選ばれるまでの紆余曲折

箕浦 高校時代からアンダーカテゴリーの日本代表に選出され、それ以来、トップで活躍されてきたと思うのですが、メンタル面で意識されていたことあったりしますか?

山田選手 大学の時はチームを引っ張っていく存在だったので、「エースとは期待やプレッシャーも背負って結果を残すものだ」と自らを鼓舞してメンタルを保っていました。

U23代表くらいまではそれで順調だったのですが、五郎丸選手など19歳くらいで正式な日本代表デビューしている選手がいる中、僕が正式な日本代表になれたのは28歳くらいの時でした。大学卒業から正式な代表選出までの間は紆余曲折がありました。

箕浦 数年に渡る紆余曲折の期間をどのように乗り越えましたか?

山田さん とにかく自分が頑張るしかないと言い聞かせて、踏ん張ったような時期でした。

ただ、周りに自分のことを理解してくれる人が増えたというのは大きかったと思います。妻のローラとは、日本代表の選考会には呼ばれるけどメンバーからは外されるといった20代後半の時期に出会ったのですが、彼女はアイオワの大学で心理学を専門に学んでいたこともあり、パーソナルメンタルトレーナーのような役割として多様な観点からアドバイスをくれるようになりました。

箕浦 そんな中、2013年頃から日本代表に選出されるようになり、2015年のワールドカップにも出場し活躍されました。どういったことがきっかけで状況が好転していったと思われますか?

山田選手 周囲のサポートもあって代表に選出されるようになりましたが、選出されてからは、代表として海外遠征に行くようになったり、海外のチームに所属したりするようになり、もともと自分が持っていた「グローバルに活躍したい」という理想の状態に、近づいていると感じるようになりました。そのように感じることで、モチベーションも更に上がり、プレーにも好影響が出たのではないかと思います。

自分の目標は、「日本代表になる」ことではなく「世界で活躍する」ことだったので、日本代表に選ばれた時点でゴールに到達して満足なのではなく、むしろスタートラインに立った感覚で、より一層頑張らなくてはと思っていました。

ありのままの自分で臨んだ2015年ラグビーW杯

箕浦 2015年のラグビーワールドカップのメンバーに選出されて、山田さんの中でもプレッシャーのかかる大会の一つだったかなとは思うのですが、そのようなプレッシャーとの向き合い方などありましたか?

現地で報道された2015年W杯での日本活躍の様子(山田選手と五郎丸選手)

山田選手 いや、ないですね。僕は直前までメンバー外だったところを無理やりアピールして代表に入ることができ試合にでた、という立場だったので、周囲の期待を感じることも少なく、いい意味でプレッシャーがなかったです。

また、当時はまだラグビーはマイナースポーツで、試合も日本時間の深夜だったので、「誰も見ていないだろう」と思っていました。人間ってみんな見られていると思うと緊張したりすると思うんですけど、「そんなに周りはみんな気にしてない」と思い込むことも大事かなと思います。

箕浦 大事な考え方かもしれないですね。結局、多くの人が気になっているのは自分自身のことで、恥をかいたと思ってもそんなに周りは気にしてないことが多いですからね。

逆に、大会直前にメンバーに入り込んだというところで、アピールに関してはうまくご自身で色々考えて行動を起こしたりされたのでしょうか?

山田選手 それは監督に直接伝えに行きました。当時の監督(エディー・ジョーンズ氏)の人間性から、情熱もあり、かつ理論的に考えられる選手を求めていると分かっていたので、両方の観点から自分をアピールしにいきました。選手から監督に、個人で直接ミーティングをしたいと言い出すのは日本ではなかなかないと思うのですが、そういった意味でも、圧倒的に試合に出たいという思いを一番伝えたのは僕だったと思います。

自分の熱い思いも伝えつつ、自分が試合に出るメリットも伝えるように意識しました。みんなの良さを見つけて引き出すというのは、昔から僕自身が自信を持っていた能力だったので、例えば当時だと、代表チームにキープレーヤーの選手が5・6人いたのですが、彼らの良さを一番引き出せるのは僕だとアピールしました。

箕浦 学生時代からの強みである俯瞰力をアピールした訳ですね。ワールドカップでは普通の試合通りに臨まれたということですが、通常の試合の中で自身の持っている最大の力を発揮する上で意識されていることはありますか?

山田選手 特にないのですが、敢えていうと、自分の力以上を発揮しようと思いすぎないようにしています。例えば100%の力を持っていた時、120%を出そうとすると緊張する人も多いのではないかと思うんですけど、100%といわず、80%くらいを出そうというマインドを持って、力みすぎずに臨んでいました。

2015年ラグビーワールドカップでの山田選手


ワールドカップのあとも、大きな目標へ向かって進み続ける

箕浦 2015年のラグビーワールドカップが終わった後、モチベーションを上げるのが難しい時期などはありましたか?

山田選手 ラグビーワールドカップに出ることや日本代表に入ることが最終目標なわけではなかったので、ワールドカップ後もモチベーションが下がることはなかったです。「グローバルに活躍したい」という壮大な目標があったので、自然と、ワールドカップや代表での活動は、その過程の小さな目標に過ぎなかったのではないかと思います。

それこそ箕浦さんがUpmindのビジョンとして掲げられている「人々の人生と心を豊かにする」というのにも関連するかなと思うんですが、そういった大きな目標や人生のテーマって、完璧に達成した状態に行き着くことはないので、壮大な目標を持っているだけで常にモチベーションを保つことができ、他の小さな目標が叶いやすくなる気がします。

箕浦 ”大きな目標やありたい姿を持ちつつ、今目の前のできる事に全力を尽くしていく。” 

長期的にモチベーションを保って歩み続けるのに、大切な考え方ですね。私たちが今取り組んでいるアスリートのためのマインドフルネス事業にも通ずる考え方になります。

実際に、2015年のワールドカップ後には海外のチームでもプレーされていますが、その理由も、学生時代から持っていた「グローバルに活躍したい」という思いからでしょうか?

山田選手 大きな理由はそうですね。それに加えて、ラグビー選手にとって、日本に留まるだけではなく色んな選択肢があったらいいなと思ったというのもあります。

僕自身が学生時代に進路を選択する際に、参考にしたり相談したりできるようなラグビー選手がいませんでした。僕が海外のチームに所属して多様な道を提示する存在になることで、次世代の選手の選択肢が増えたらいいなという思いも持っていました。

オーストラリアのチーム「フォース」で活躍する山田選手


多くの仲間と共に挑戦し、色々な世界をみてみたい

箕浦 これまでの経験を経て、過去の自分自身や今の若い方、日常生活を頑張っている方に、より良く生きるためのアドバイスを送るとしたらどういった言葉をかけたいですか?

山田選手 やりたいことは全部やってみたほうがいいです。やるかやらないかで悩むよりも、「どうすれば出来るだろう」という、やる方向に費やしたほうが有意義だと思います。

2021年にはシアトルのチームに所属した山田選手

箕浦 前例のない中、様々なことに挑戦されてきた山田選手だからこそのアドバイス、ありがとうございます。

色々な分野で挑戦されながら、ラグビー選手として素晴らしい実績も出してこられた山田選手ですが、これまでトップで活躍されてきて、アスリートの中でもトップに行ける層と、そうでない層の大きな違いを感じる点はありますか?

山田選手 僕がなぜ日本代表に入れたかを考えた時に、「続ける」ということが一番大事だったのではないかという結果に行き着きました。代表合宿に招集されていても、途中でやめてしまう選手も結構多いんです。

誰でも上手くいかない時期もあるとは思うのですが、一度完全にやめてしまうと、その後やりたいと思ってもまたスタートするのが大変だと思うので、少しでも続けておくのがいいと思います。

箕浦 ありがとうございます。”完全にやめてしまうのではなくて、少しでも続けていく” 困難な時期でも、ラグビーを続けることで目標を達成してきた山田選手の言葉、響きます。

最後に、今後どういった人生を歩んでいきたいか教えていただいてもいいですか?

山田選手 仲間が多い人生がいいですね。アフリカのことわざで、「早くいくなら一人でいけ、遠くにいくには仲間が多いほうがいい」(”If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together”)というものがあります。

僕は昔から仲間に支えられてきて、仲間があっての人生だと思っています。そういう気心の知れた仲間が一人でも多くいるような、そんな歳のとり方が出来れば、嬉しいなと思います。

箕浦 最後に素敵なお言葉ありがとうございます。インタビューさせていただきとても楽しかったです!

インタビューを終えて

“壮大な理想の人生像を掲げてそれを軸に日々を過ごす”という山田選手は、目の前の出来事や結果に左右されすぎることなく、長期的にモチベーションを保って成功を成し遂げる、まさにマインドフルな生き方を体現されていると感じました。

また、世界中で様々な価値観と触れ、仲間を増やしながら楽しんで歩まれている生き方が、とても素敵だなと思いました。

多くのアスリートや、普段頑張っている方にとっての希望になるような貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。今後の山田選手のグローバルな活躍を、心から応援しております!

最後に(トライアルの募集)

Upmindでは、山田選手のような一線で活躍することを目指すアスリートの方向けに、マインドフルネスを競技生活に役立てることのできるアプリを開発していきます。11月からトライアルでの提供を開始する予定ですが、アスリートの方で、いち早くトライアルで試してみたい方は、是非下記フォームから応募いただけると大変嬉しいです。


Upmind株式会社について

Upmind株式会社は、2021年5月に設立した、”人々の人生と心を豊かにする”をミッションに活動する、東京大学発のウェルビーイングテックカンパニーです。主に、100万以上ダウンロードの人気マインドフルネスアプリ「Upmind」を開発・運営(東京大学滝沢龍研究室とも共同研究、2023年グッドデザイン賞を受賞)。心に余白をもつことの習慣化を支援するための事業を企画しています。

https://upmind.co.jp


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