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映画【個人的発掘良品】『血のバレンタイン』

MY BLOODY VALENTINE
1981年 カナダ
監督:ジョージ・ミハルカ
製作:ジョン・ダニング/アンドレ・リンク/スティーヴン・ミラー
原案:スティーヴン・ミラー
脚本:ジョン・ベアード
撮影:ロドニー・ギボンズ
編集:ジェラルド・ヴァンシエ/リット・ウォリス
美術:ヴェロニカ・ハッドフィールド
衣装:スーザン・ホール
特殊メイク・効果:ジョン・ローガン/トム・バーマン/ケン・ディアス/トム・ホーバー/ルイーズ・ミノー/キャロリン・ヴァン・ガープ
音楽:ポール・ザザ
音響編集:ジェフ・バシェルマン/パット・サムセット
助監督:ジュリアン・マークス
第二班監督:レイ・セイガー
キャスティング:ダニエル・ハウスマン/アーデン・リシュパン
スタントコーディネーター:ドウェイン・マクリーン
出演:ポール・ケルマン/ロリー・ハリアー/ニール・アフレック/ドン・フランクス/キース・ナイト/アルフ・ハンフリーズ/シンシア・デイル/ヘレン・アディ/パトリシア・ハミルトン/ラリー・レイノルズ/ピーター・カウパー

 この映画は監督の意に反してキラーショットの数々が削除された全米公開版しか長らく観ることが出来なかったので、やっと日本国内版でオリジナル編集を(可能な限り)復元させたヴァージョンが視聴出来たわけですね。ミハルカ監督は復元版の編集に携わっていなかっただけに、オーディオコメンタリーで「この場面もしっかり戻ってる!良かった!当初の編集に近いぞ」と積年の無念がほぐれて嬉しそうに発言していたのは何とも微笑ましかった。「オリジナル完全版」というわけではないものの、これでようやくどっしり落ち着いて『血のバレンタイン』のレビューが出来るんですね。有難いことですね。

 1981年というと、血に飢えた観客たちを狂喜させようとする殺人鬼映画の全盛期でありながら、現実の凶悪事件による暴力批判が叫ばれる、表現と商業的には難儀な葛藤の時代。この頃は『ハロウィンⅡ』、『13日の金曜日 PART2』、『バーニング』、『ローズマリー』、『ヘルナイト』などが台頭し、イタリアではルチオ・フルチ、ダリオ・アルジェント、セルジオ・マルティーノらが精力的にサスペンスホラーの新作を手掛けている頃ですね。実に刺激的で血生臭い映画時代に製作された『血のバレンタイン』はカナダの野心作で、"記念日ホラー"の代表的一作にまでなりました。

 ということでこの映画は1年で最も愛らしい日が、最も残酷な日になりますよ、とハートマークを逆さまにしてみせる、いかにもなブラックジョークですね。ジョージ・ミハルカ監督と脚本のジョン・ベアードは、単なる亜流ホラーで終わらせまいと作為を入れています。不注意な若者が目の前の死体に気づかなかったり、アゴから貫通したツルハシが目玉をビョーンと突き出したり、残酷すぎて笑ってしまうようなブラックなギャグを混ぜ込んでます。そして炭鉱を舞台にした惨殺ストーリーにミステリを与えているところ。なんでも犯人役の俳優にまで殺人者の正体を内緒にしたまま最終日まで撮影していたという無茶苦茶さ。最後の最後、呆気にとられるようなクレイジームードを漂わせながらのカナディアンバラードによってきっかいな余情をふりまいてみせた。炭鉱の町に酒と音楽に浮かれる炭鉱夫たち、その若気と殺戮と血だらけのプレゼントというのが、この映画の風変わりな珍しさでした。坑道が舞台になるので、作業用トロッコが出てくるんですが、監督は昔ながらの西部劇オマージュとしていますが、ホラー映画でトロッコを使ってみせるのは珍しい。面白い使い方をしてみせましたね。このあたりも映画ファンらしい監督の粋な演出だと思います。

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