12月22日の手紙 人類と気候の10万年史
拝啓
今日は冬至です。
一年で1番、夜が長い日です。
いただきものの小さな柚子があったので、お茶パックに入れて、湯船に浮かべました。
良い香りです。
冬の寒さと柚子の香りはとても合います。
冬は揮発性の高い柑橘系の香りは飛びやすいということですが、こたつにみかんの文化があるからか、それともこの冬至の柚子湯などがあるからか、
日本の冬には柑橘系の香りもしっくり来ます。
日照時間の関係もあるかもしれません。
ヨーロッパの方の方に比べると、日本の日照時間は長く、冬にもあたたかで明るい日差しが差し込むことがあります。
あの光は、ちょうど、みかんのような色です。
寒さはこれから厳しくなっていくはずですが、
今日が過ぎれば、段々と夜は、短くなっていくのです。
寒さが厳しくなったとしても、夜が短くなっていくことは、ありがたいことだなぁと思います。夜が少しずつ短くなる中、それでも冬を耐えれば、きっと春がやってくるというのはとても詩的にも思えます。
それは、北半球に住む人間が、おそらく民族を超えて信じている季節の流れとも言えるでしょう。
最近、ブルーバックス、中川毅「人類と気候の10万年史」という本をAudibleで聴きました。
そう、今回のAudibleは、いつもとは違います。
好きな推理小説でなく、研究者が一般読者向けに書いた科学読み物です。
どうして、推理小説を選ばなかったのか?
それは、好きなジャンルでないものでもAudibleで楽しめるかを、試したかったのです。
推理小説でなくても、家事やエアロバイク、トレッドミルになるのか?というのを確認しておきたかったのです。
もし、推理小説以外でも、可能、その上で、科学読み物でも可能なら、読書の幅、知識の幅がぐんと広がります。
SFに興味があるものとして、科学知識をもっとつけたいという気持ちもあって、挑戦してみることにしました。
おすすめに出てきて目に止まったのがこの本です。
福井県にある水月湖の年縞の研究者、古気候学者である中川毅先生の本です。
福井県にある水月湖という湖では、近年「年縞(ねんこう)」と呼ばれる湖底の堆積物が発見されました。堆積物の内容によって、色が変わり、シマシマに見える部分があるので、年縞と呼ばれるようです。
この年縞、どこにでもあるというわけではなく、いくつかの条件が揃った湖にしかないそうです。
水月湖、その中でも、さらに、かなり長い間、7万年ほどの堆積物があるのです。
水月湖の年縞を地質年代の「世界標準ものさし」とするべく研究し、その研究から明らかになりつつあることを専門家でない人間に噛み砕いたのが本作です。
理系でない人間には、難しい部分も多いのですが、作者の文章力が高いので、なんとかついていけます。わかりやすいたとえや丁寧な説明は、むしろ、文章力の勉強にもなる…と感じいった次第です。
平易な言葉、イメージしやすいたとえを駆使しながら、自らの考えや理論を説明する作者の表現力に感嘆しました。
全く知らない人間に、研究の理論背景や意図、方法を説明することのなんと難しいことか…。
真に頭が良い方は、文章も上手いわけです。
また、たくさんの図や表、写真は、Audibleでもきちんと確認できます。
安易な結論ではなく、データに基づく理論展開、わからないことはわからない、予測できないと言いきる潔さ、小説家とはまた違う、文章の良さがあります。
また、水月湖研究については、プロジェクトXのような数々のドラマがあったようです。
地道な研究の裏に、様々な人、そして人のつながりがあるのです。NHKの朝ドラになっても不思議ではない展開でした。各国研究者との協力だけでなく、国内の研究者同士の助け合い、地元の掘削業者の協力などがあります。研究も人なのだなぁと思わされます。
もちろん、その研究からわかったことにも非常に興味深かったです。
つまり、気候というものは、人間由来の環境破壊がなくとも、常に安定しているものではないということです。
冷期も定期的にやってきているとか、今がたまたま温暖な時代であるなんて、考えたこともありませんでした。
また、気候は時には突然、カオス状態になることがあると知りました。
地球の長い歴史の中では、数年で10度近くの温度変化が起きることもあったようです。
夏が来て秋が来ること、そして、冬が来て春が来ることがあたりまえでないということです。
また、大きな変化の前には、急な変化が多発するそうです。
2023年を振り返ると、気候はかなり不安定でしたね。どうも正月はひどく気温が高いようですし、今後、大きな気候変動が待ち受けているのかもしれないと思わずにはいられません。
地球そのものだけでも、気候は大きく変動するものであり、その長期的予測は難しいようなのですが、
そこに人間由来の温暖化が加わるとなると、おそらく、これまでのデータからの予測というのもかなり難しいのではないか…と考えてしまいます。
気軽な気持ちで選んだのですが、かなり面白く、勉強になった本でした。
ここまで面白かったのは誤算と言えば誤算です。
面白くて、家事も運動も捗ったので、
今後は、科学系の本もAudibleで聴いていこうと思います。
でももしかしたら、この作者が文章がうまいというだけのことかもしれませんが…。
また、読み手の方のややゆっくりだが力強くハキハキした読み方が、この作者の文体や内容にとてもあっていたと思います。
落ち着いた声とテンポ、内容で、忙しない師走中旬にはかえって、気持ちが落ち着いてよかったです。