10月27日の手紙 寿司レーンの速度
拝啓
先日、友達と久しぶりに食事をしました。
仕事あがりに、ああでもないこうでもないと、話し合いながら、少し2人で悩んだ結果、回転寿司屋へ行きました。
駐車場はいっぱいでしたが、人影は見えず、階段を上がった店の入り口もがらんとしていました。ドアを開けて入ると、座席を指定する機械が、空気を振るわせるくらいの音量を張り上げています。あまりの音量に、ひび割れた音になり、内容が頭に全く入ってきません。
音を聞かないようにして、画面をタップすると、座席が案内されました。27番の席のようです。お手拭きを2枚とります。
レジ前を通って、すぐ突き当たりの壁に画面に大きく27という数字が書かれていました。一番通路側のボックス席でした。こちら側の列には奥に3つほど同様の席があり、人が座っていました。通路を挟んで反対側の席には誰も座っていません。
座席に座りながら、テーブルにお手拭きを起き、寿司が流れてくるレーンの上に伏せて山積みしてある湯呑みを2つ取りました。
友達は箸を取ろうとしていました。箸は醤油やわさびが乗ったプラスチックの蓋を引き上げると取れるようになっています。こちらがサッと引き上げると、箸を2膳取り出して、1膳を渡してくれました。
それぞれ、緑茶の粉を入れて、お湯を注ぎます。ずいぶん熱そうです。
さて、この回転寿司屋は、スマホでオーダーができるタイプの店です。スマホを取り出し、カメラを使って、レーンの上の画面に写されているQRコードを読み取ります。
ポップアップした画面には、有名アニメとのコラボグッズが当たるガチャポンをやるのか、やらないのか、また、追加料金を出せば、当選確率を上げられるがどうするかというボタンが現れました。
有名アニメは決して嫌いではないですが、追加料金を払ってまでグッズが欲しいかと言われればそうではありません。もし、あたれば嬉しいかも、という程度です。ですから、ガチャポンをやるをタップしました。
ようやく、お寿司のメニューが見えるようになりました。
今月のおすすめをタップします。そう珍しいメニューはありません。季節の珍しい食べ物があったら食べたかったのですが、ラーメンやうどんそしていくら丼があるくらいでした。穴が開くくらい、メニューを眺めてから、イワシと赤貝とつぶ貝を1度に注文しました。
これはいつも選ぶネタです。
あまりハズレがなく美味しく感じるネタと言っても良いでしょう。
醤油をかけて、失敗したことに気づきました。普通の醤油でなく、とろみのある、あなごにかけるつめのような醤油でした。イワシの上に、かかるとろりとした醤油に疲れを感じます。
光り物にのるてらてらした醤油、疲れの凝ったもののようです。
そのあともう1度、同じことを繰り返したところ、友達が普通の醤油を目の前に置いてくれました。
わざわざ、スマホで注文して、レーンの上を流れている寿司を選ばないのは、好みのネタがないからではなく、透明なカバーをうまく開けられないからです。何度やっても手が引っかかります。
友達は国産肉厚ホタテを注文しました。
2人ともマグロにもサーモンにも興味がありません。
それぞれがその後、好きなネタをぶつぶついいながら、注文し、「それ、いいね」とか「美味しそう」と合いの手を入れます。
その間には、寿司レーンのモーター音と寿司レーンの向こう側の席から聞こえる子どもの叫び声と寿司の到着を示す、チャイムが聞こえています。
あら汁が欲しいという話になって、友達はアオサ入りのあら汁を、こちらはアサリ入りのあら汁を頼みました。蓋つきのお椀がプラスチックの留め具で固く、とめられていました。外してみると、アオサしか入っていません。友達のあら汁でした。交換するとアサリが妙に多く、あら汁なのに汁が少なめです。いつもなら喜ぶところですが、この日は出汁を味わいたかったので、ハズレを引いたような気持ちになってしまいました。勝手なものです。
寿司レーンのモーター音の強弱で、自分のところへくるものかそうでないかわかるようになってきました。
この席は一番キッチンから離れた場所です。
だから寿司レーンのモーター音が1番長くそして、大きく唸っていると、このテーブルが注文した品です。
モーター音は、何かを巻き戻すような音にも聞こえます。
友達との長い付き合いを思い返しました。
これまでも数えきれないほど、回転寿司を共に食べに来たこと、
それぞれ年齢と経験を重ねたこと、
変わったことも、変わらないことも沢山あること。
そんなことは、口には出しませんでした。
友達も感傷的なことは何も言いません。
それでも、「とうもろこしの唐揚げを頼むか悩んでいる」と言った時、「頼むべきだね」と答えてくれました。
そして、寿司レーンを高速で走ってきたとうもろこしの唐揚げを、「かなり熱いよ」「確かに熱い」と言いながら、分け合って食べた時、
いつか、この時間を懐かしく思い出すだろうと思いました。
過去と現在と未来が一瞬真っ直ぐに繋がったような気持ちがしました。
当たり前の日常を尊く思い返すことがあることをもうすでに、知っているからです。
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