新規事業で最も大きく成否を分けるプロセスは何か?
新規事業の工程は、長い。
アイデアを考えて、調査して、数字をはじいて、企画書にまとめて、会議にかけ、商品やサービスを作って、売る。
短くて数ヶ月というケースもあるが、ほとんどの企業の場合、アイデア着想からリリースまで1年以上かかる。2年以上かかることも決して珍しくない。
最も成否を分ける重要なプロセスは?
そんな新規事業の各工程で、最も成否に関係する重要な工程をあえて一つ選ぶとしたら何になるだろうか?
アイデアだろうか?プロダクト作りだろうか?
私の考えではそれは「営業」だ。
アイデアは「最も重要」ではない
アイデアが最も重要と言えない理由
アイデアはあくまでも「初期仮説」と言える。その後のプロダクト作りや、市場の反応によりプロダクトが磨かれ、変化していくためだ。
これは「良いアイデア」は「アイデア一発」で成功するのか?に詳しく書いているので興味があれば読んでいただきたい。
「アイデアに価値はない」
やや極論ではあるが、「アイデアに価値はない」という見解すらある。
Googleの創業者ラリー・ペイジやホリエモンの見解である。
まずはラリー・ペイジ氏の見解。
「アイデアを思いつくことは、素晴らしいものを生み出す上で最も重要なことではない。正しいアイデアとセンスも必要だが、実行とデリバリーこそが重要なのだ。」
この「実行とデリバリー」の部分は「顧客への価値提供」とも言い換えられる。
それは更に言い換えれば、プロダクト作りであり、もっと直接的には営業・マーケティングだろう。
続いてホリエモンの見解。
2人に共通するのは、アイデアを思い付いたその後の実行が重要と強調している点。アイデアは実行よりも相対的に重要度が低いという考えなのだ。
余談だが、新規事業界で有名な「アイデアに価値はない」という台詞はラリーペイジの言葉として知られているが、実際にはガイ・カワサキ氏の下記の言葉を意訳したもののようだ。このnoteを執筆中に分かったこと。プチ共有。
港内と外洋
アイデアは、実行より重要度が低い考えを紹介したが、ではなぜ営業が最も成否を分けるほど重要なのか?
それを説明するために、まずは営業とそれ以外の工程の性質の違いを見てみよう。
新規事業の工程に見る境界線
新規事業の工程を大きく分けた時、下記のようになる。
考案する(主にアイデア)
検討する(プロダクト詳細、戦略、事業計画)
作る(開発)
売る(営業・マーケティング)
上記を「供給側コントローが大きく効く工程」と「効きにくい工程」で分類するとどうなるだろう?
1~3、4の二つのグループに分けられるはずだ。
サービスや商品を提供する供給側がコントロールできるのは、1-3だ。新規事業を考えた会社が社内で企画書にしたり承認を得るプロセスとも言い換えられる。
明らかに性質が異なる「売る」のフェーズ
では「4.売る(営業・マーケティング)」はどうだろう?
明らかに1-3とは異なる。もちろん商品を売る売らない、どれだけの人員やプロモーション費用を投下するかなど社内にはかることはあるものの、その成否が自分たちだけの手の中に無い。むしろその度合いは少ない。
供給側の会社の幹部が企画承認の社内プレゼン時にどれだけ深くうなづいたかどうかは、おさいふを開く需要側には一切関係ないのだ。
港内と外洋
つまり、アイデアや開発(1-3)はまだ安全な「港内」。
他方、営業やマーケティング(4)は、自社の意向だけでは成立しない。
市場と言う名の「外洋」なのだ。
新プロダクトをリリースした後は、それ以前と全く別世界に突入することがお分かりいただけただろうか。
再び余談だが、unlockのブランドモチーフは「船による航海」だ。
新規事業は、道もない、毎日状況が違う、予報がしょっちゅう外れる、あらゆる人やモノが船を乗り降りする、誰も到達したことのない領域へ到達できるなど挙げるときりがないほど航海と似ている。
※トップの画像は筆者が鹿児島県の長島に旅行した時にフェリーから撮ったもの。島娘というこの島でしか買えない芋焼酎を飲めば完全に優勝できる。
「新規事業の営業」は「普通の営業」とは違う
新規事業での営業と、新規事業以外のいわゆる普通の営業は違う。特に目的が異なる。
まず両方に共通する目的は、そのネーミングが表す通り「販売」であり「受注」。
普通の営業が「販売」や「受注」ができれば良いとも言える仕事である一方で、新規事業はそれに加えて「調査」という目的がある。
新規事業の営業は「販売」であり「調査」
なぜ調査なのか?どんな調査なのか?を一つずつ解説していきたい。
まず「なぜ調査なのか?」だが、新規事業として顧客に接触している時点でおそらくそのプロダクトはまだリリースして日が浅い。大きく言えば「初期仮説」の状態だ。これは前述の通り。
初期仮説であるため「仮説の検証」が必要な状態なのだ。
検証は、目の前の顧客が買ってくれるかが全てとも言えるが、それだけでは検証精度が粗すぎると考えている。
「買ってくれたか?」はいわば結果指標(KGI:Key Goal Indicator)。
「検証」という意味では、結果を生むための中間指標(KPI:Key Performance Indicator)にあたる情報を営業活動を通じて「調査」し、より多くの市場の反応を集める必要がある。
何のためか?
それはプロダクトやプライシング、そしてターゲット顧客のペルソナなど様々な初期仮説とのズレを確認し、より短期間で正しくPMF(Product Market Fit)を実現するため。
さきほどの「どんな調査か?」の調査内容がまさに上記にあたる。参考までにリスト化してみる。
新規事業の営業における「調査項目」
プロダクトの仕様、機能
プロダクトの使いやすさ、見やすさ
価格が高すぎないか、安すぎないか
料金プランは、無理がないか
ターゲット仮説は正しいか?会社のタイプは?アプローチすべき部門や職種は?役職は?
アプローチ経路は適切か?
訴求ポイント、訴求文言/コピーは刺さっているか?
そもそもこのプロダクトが前提としている課題を感じているか?
その課題について現在どのようにしているのか?競合商品を使っているのか?なぜか?いくらか?
[余談:営業出身社長・最強説]
またまた余談だが、会社員時代、何度か仕事を干されたことがある。
そんな社内失業中にやっていたのが分析だ。私は何か不遇や苦境に陥ると分析する癖がある。
分析と言っても当時はエクセルでの自由研究だが、これが少なからず今に生きている。
大手はいい。社員としてはタダで扱えるデータが大量にある。
当時契約していた帝国データバンクに「社長のタイプ」といった項目があった。帝国データバンクの社員は何を見てそんなことを決めつけられるのかと悪態をつきつつ(やさぐれていた)「面白いな」と思った。
確か、営業型、技術型、企画型の3つだったか、そう大別できるものだった。
業績、業歴、倒産などの軸で分析してみたが、全てダントツで営業型がポジティブな結果を出していた(もちろん営業型の社長の数が多いことは考慮した割付にしている。ヒマだったのだ)
当時は「ふーん」ぐらいにしか思わなかった。
ちなみに、その時(今から10数年前)から「営業不要論」は存在していたが、ビジネス界に長く居ればいるほど実感を伴って理解できる。
むしろAI時代でも最後まで残る仕事の一つだったりするのではとも考えている。
なぜ営業が最も成否を分けるほど重要なのか?
これまで見てきた話をまとめると、答えはこうだ。
営業が成立して初めて、新規事業の成果となる。そしてその成果は、自分たちだけでは決められず、市場の評価を受けて初めて成立する
アイデアは初期仮説であるため、市場の反応を元にプロダクトや価格、訴求方法に反映する必要がある。営業はいわばその「調査」にあたる行為でもある
まとめ
新規事業で最も重要で、成否を分けるプロセスは営業だ。そしてこのプロセスが最も苦しい。しかしいきなり代理店に任せるのは悪手だ。前述の通り、自社でやるからこそ貴重な情報が手に入る。
新規事業の営業の目的は、単に売るだけにあらず。
まだほやほやの初期仮説であるプロダクト、その価格など検証・反映しなければならない情報が山ほどある。
新規事業の営業は、販売行為であると同時に、調査なのだ。
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