【小説】弥勒奇譚 第二十八話
文殊は何か吹っ切れたように口を開いた。
「弥勒には話していなかったが普賢はわしら夫婦の子供ではなかったのだ。そこの水場のほとりに捨てられていたのを拾ってわしらの娘としたのだよ」
「このような里だからどこかで子供が生まれればすぐに分かるし。と言って子連れの旅人がいた訳でもなく全く不思議だった」
「わしらには子がなかったのでその子を引き取って育てたのだ」
「すると私と普賢には血の繋がりは無いのですか」
「弥勒とどころか私とも血の繋がりはないのだ」
「今までこのような夢を見るのも血の繋がり故と思ってきましたがそうではなかったのですね」
「思うに普賢は龍神の化身だったのではないか。今から考えるとそう思える事が幾つかあった」
「普賢は小さい時分から天気を良く言い当て、雨乞い神事に巫女として努めるようになってからは過たずに雨が降るようになった」
それも、我々の見る夢もすべて龍神の神威の成せる
業なのでしょうか」
「そうとしか考えられない」
二人はそれ以上言葉を交わすことなく天井を見上げていたのだった。