大学授業一歩前(第95講)
はじめに
今回はTokyo Academic Review of Books(通称TARB)の運営をなさってらっしゃる横路佳幸先生に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中作成して頂きありがとうございました。是非ご一読下さいませ。
プロフィール
Q:ご自身のプロフィール
A:横路佳幸(よころよしゆき)と申します。南山大学の社会倫理研究所というところで、哲学と倫理学をやっています。研究テーマは「=」で表される同一性の解明とその応用です。その成果として、2021年8月に慶應義塾大学出版会から『同一性と個体』という本を出しました(これはギリ、宣伝ではなくプロフィールです)。他には、Tokyo Academic Review of Booksというやたら長い名前のジャーナルを他分野の研究仲間と運営しています。読み応えのある書評が無料で気軽に読めるので、是非のぞいてみてください。
オススメの過ごし方
Q:授業のオンライン化の中でのオススメの過ごし方を教えて下さい。
A:現在の社会状況が落ち着いた後も、オンライン化の流れは止められないでしょうから、苦手な人はもう慣れるしかありません。すでに慣れた人にとっては、通学せずに済んだ時間を有効利用できるチャンスです。やるべきこととやりたいことのバランスをうまく保ちつつ、若いうちに趣味や遊び、勉強を精一杯楽しめるといいですね。期待したキャンパスライフとは違っても、柔軟に対応して新しい楽しみ方を見つけられる人は強いです。
必須の能力
Q:大学生に必須の能力を教えて下さい。
A:圧倒的に「締切を守る能力」です。何を今さらと思われるかもしれませんが、自分もいずれは「締切を課す側」に回るだろうと思い至れば、この重要性は強調してもしすぎることはありません。社会は締切や納期に溢れているので、大学生のうちにその習慣を身につけられるとよいですね。締切をただ守るだけで評価されるシチュエーションすらあるはずです。…横文字がたくさん並ぶ安っぽいビジネス書のような話で恐縮です。
学ぶ意義
Q:先生にとっての学ぶ意義を教えて下さい。
A:会社の会議室とは違って、大学の教室は本来、年齢も地位も実績も関係なく誰もが対等に参加できる空間です。なのでオンラインに移っても、貴重な場を活用してどんどん発言し、ときに先生たちに学術的な論戦を挑んでみてください(怖い先生の場合を除く)。きっと敗北すると思いますが、「学びの意義」はそこから自然と浮かび上がってくるでしょうし、将来の財産にもなるはずです。ちなみに、私は学生さんとの論戦に普通に負けます。
オススメの一冊
Q:今だからこそ読んでおいてほしい一冊を教えて下さい。
A:岩波書店編集部編(2021)『アカデミアを離れてみたら——博士、道なき道をゆく』岩波書店です。アカデミアを離れた総勢21名の博士号取得者が、キャリアの変遷についてときに楽しく、ときに名残惜しそうに綴ったアンソロジーです。…と紹介すると読者層が限られてしまうようですが、お一人お一人の「転機」がどれも印象的なので、ノンフィクションとして読んでも抜群に面白いです。榎木英介さんの「あとがき――博士号取得者の苦難と希望」も必見です。なぜこの本を取り上げたのかというと、再びCMぽくなりますが、大学院生のメンタルヘルス問題についてちょっとした文章を書いたことがあるからです。アカデミアとメンタルヘルスは切っても切り離せない関係にあります。
メッセージ
Q:学生に向けてのメッセージを最後にお願いします。
A:すぐれたるものはみな、稀有であるとともに困難である(スピノザ)。尊敬する師から贈ってもらったこの言葉は、今でも私の宝物です。なので、全力で虎の威を借りますが、この言葉をメッセージ代わりとさせてください。最後に、こういった貴重な場を設けていただいた明治大学の島倉雄哉さんに心よりお礼申し上げます。
おわりに
今回はTokyo Academic Review of Books(通称TARB)の運営をなさってらっしゃる横路佳幸先生に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中作成して頂きありがとうございました。オススメの一冊でご紹介して頂いた『アカデミアを離れてみたら——博士、道なき道をゆく』は私も販売日に早速買いました。意外と研究は身近にあるのかもしれない、そんな淡い希望を頂けた一冊でした。次回もお楽しみに!!