大学授業一歩前(第117講)
はじめに
今回は日本語研究者の石黒圭先生に記事を寄稿して頂きました。大変お忙しい中作成して頂きありがとうございました。是非、ご一読下さいませ。
プロフィール
Q:ご自身のプロフィールを教えて下さい。
A:石黒圭と申します。東京都の立川市にある国立国語研究所という国内最大の日本語研究機関で日本語を研究しています。同時に、立川市の隣、国立市にある一橋大学大学院言語社会研究科の連携教員として大学院生の指導に当たっています。日本語についての本を書くのが趣味で、単著だけで23冊、共著や編著を合わせると42冊になります。
オススメの過ごし方
Q:大学生にオススメの過ごし方を教えてください。
A:高校までと大学とでもっとも異なる点は、高校までは「与えられた問いを解く」こと、大学では「自分で考えた問いを解く」ことです。大学では、人から押しつけられた問いでなく、自分で立てた問いを解いてよい。その自由さが大学での学びの最大の魅力です。
そのため、大学時代の過ごし方としては、自分が心惹かれる研究テーマを見出し、そのテーマをめぐる自分らしい問いを立て、その問いを卒業論文という最終ステージで解ける研究力を4年間かけてじっくり磨くことをお勧めします。事実、大学の4年間のカリキュラムはそのように作られています。
必須の能力
Q:大学生に必須の能力はどのようなものだとお考えになりますか。
A:現代社会、とくにインターネットの世界には、主観的な言説に満ちています。自分の思いこみが正しいと信じこみ、調べず、考えず、根拠も示さずに書きこむ人が後を絶たないからです。そうした嘘の情報、誇張された情報に残念ながら多くの人が影響を受け、社会の形を歪める深刻な要因になっています。
大学で学ぶ人は、このような考えない人になってはなりません。自分の思いこみを疑うこと、そして、世界にむけて情報を発信しようとするときに、よく調べ、データに基づいて論理的に考えたことだけを厳選して書く姿勢が大事です。調べ方、考え方、書き方の三つが大学生に必須の能力であり、この三つが揃って初めて「与えられた問いを解く」力が身につきます。
学ぶ意義
Q:先生にとっての学ぶ意義を教えてください。
A:今まで誰も気づかなかった問いを、世界で初めて自分の手で解くワクワク感です。自分の考えてきたことの誤りに気づき、一段高いステージに上がることで、異なる地平が開けてきます。
学ぶことは、自分のなかに知識が増えることだと誤解している人が多いのですが、学ぶことは、自分の内面がドラスティックに変化する体験です。自分の認識の誤りに気づき、「そうか、そういうことだったのか」と気づくことで人は成長します。失敗を恐れず、変化を楽しみ、人として成長することが、学ぶことの醍醐味です。
オススメの一冊
Q:今だからこそ読んでおいてほしい一冊を教えてください。
A:我田引水になりますが、石黒圭(2021)『文系研究者になる―「研究する人生」を歩むためのガイドブック』研究社です。このページを編集されている島倉雄哉さんが私のことを知るきっかけとなった本で、人間を研究することの魅力と方法を語ったメッセージをぎっしり詰めこみました。
メッセージ
Q:最後に学生に向けてのメッセージをお願い致します。
A:聖書に出てくる有名な言葉に、「あなたがたは真理を知り、真理はあなたがたを自由にする」(「ヨハネによる福音書」8章32節『聖書 聖書協会共同訳』)があります。大学は、先入観や偏見から自由になり、データに基づく真理を学ぶところです。夢中になれる未知の対象と出逢い、自分が変わる「学び」という不思議な体験をなさることを心から願っています。
おわりに
今回は日本語研究者の石黒圭先生に記事を寄稿して頂きました。大変お忙しい中作成して頂きありがとうございました。先生の著書『文系研究者になる―「研究する人生」を歩むためのガイドブック』は大学院進学を目指し、さらに研究を生業にしたいと考えている私の支えともなっている一冊です。
確かに、文系の大学院に進学をすることは大変リスクが高くなってしまっていますが、それでも知りたい、深めたいという自分の欲求を無視することは出来ないのです。
この言葉を胸に、私もまだまだ卵にひびが入った身ではありますが頑張って参ります。次回もお楽しみに!!