大学授業一歩前(第157講)
はじめに
今回は大学で倫理学と政治哲学を勉強してらっしゃる、くちなし様に記事を寄稿して頂きました。是非、ご一読下さいませ。
プロフィール
Q:ご自身のプロフィールを教え下さい。
A:大学で倫理学と政治哲学を勉強しています。清く正しく小賢しくというブログで、読んだ本のメモなどを公開しています。
関心と研究テーマ
Q:現在、研究している内容とご自身の関心を教えて下さい。
A:ジョセフ・ヒースというカナダの哲学者について勉強しています。
ジョセフ・ヒースはビジネス倫理学という分野で、「市場の失敗アプローチ」(Market Failures Approach)の提唱者として知られています。市場の失敗アプローチ(を含むヒースの倫理学のアプローチ)の特徴は、①既存の制度や実践に暗黙に内在する規範を明示化・再構成するというアプローチをとっていることと、②パレート効率性を重視していることです。
①と②のどちらも倫理学の議論としてはかなり特殊ですが、ヒースの議論も当然ながら無から生まれてきたものではありません。簡単にまとめるなら、①については批判理論、②については現代社会契約論という分野でなされてきた議論が背景にあります。こういった点について理解を深めて、ヒースの議論はわけの分からない、得体の知れないものではなく、一見したところよりずっと説得的なものだ、ということを示すのが当座の目標です。
オススメの一冊
Q:オススメの一冊を教えてください。
A:ヒースに関心を持った方にはヒースの著書を読んでいただくとして(ただ、上で書いたような話は、邦訳されている著書で明示的に扱われているわけではないのでご注意ください)、ここでは飯田高先生の『法と社会科学をつなぐ』を挙げさせていただきたいと思います。
コンセプトとしては、タイトル通り法学と社会科学の接点となるようなテーマの概説ということになるのでしょうが、(私のように)法律について何も知らない人でも社会科学の入門書として楽しく読むことができると思います。「規範」や「ルール」といったものと関わりの深い、経済学や心理学の概念・知見が色々紹介されています。自分が読んだのは最近ですが、高校生の頃に出会いたかったなと思う本でした。
ご自身の読書術
Q:ご自身が実践されている読書術を教えてください。
A:読書術というほどのものでもないですが、図書館で借りた本は通読を目標とせず、自分にとって重要だと思う箇所だけ読んで、覚えておきたいなと思った箇所はScrapboxにメモするようにしています。Scrapboxはまだまだ使いこなせていませんが、検索性が高く、ページとページを繋げてネットワークを作っていけるのが便利です。また図書館本は返却期限というしめきりが設定されているので、メモをとる作業を先延ばししにくくさせるようなプレッシャーがかかっている、というのも重要かもしれません(結局、返却期限間際に追い詰められるようにメモをとることが多いですが……)。
読書メモをとるようになってから本を読むのがどんどん億劫になっていっているので、あんまり人に勧めていい読み方なのか分かりませんが、単純に前に読んだ本の内容を確認しやすくなるだけでなく、理解度と記憶の定着度が明らかに増している感じがするので、今のところは気に入っています。
あとこれは単なる注意喚起ですが、(出先で自分がどんな本を読みたい気分になってもいいように)リュックにいつも何冊も本を詰めていたら、とうとう腰がおかしくなってしまったので、外で持ち運ぶ本は最低限にした方がよいと思います。
メッセージ
Q:最後このnoteを読まれている方へのメッセージをお願いします。
A:「大学授業一歩前」はコロナ禍での大学のオンライン化を受けて始まったとのことですが、私もコロナ禍の中、部屋にこもって鬱々としていた時期にブログを始めたので、僭越ながらなんとなく共感するところがあります。
私自身はコロナ禍もあって大学での交友関係はほとんど広がりませんでしたが、ブログやSNSを通じて知り合いができたので、大学で知り合いがいないという方はそういう機会を活用してみるとよいかもしれません。
コロナ禍初期のことを振り返ると、毎日気分が塞いでいて、勉強にも身が入らなかったことを思い出します。今にして思うと、そういうときは何が憂鬱の種になっているのか自分に問いかけるよりもまず、「自分は空腹や体調不良なのではないか」と疑ってみて、どちらでもなければとりあえず外の空気を吸ってみるべきだったなと思います(もちろんこれは、自分の気分の塞ぎ方がその程度で解決するレベルのものだった、ということなので、誰にでも当てはまるものではありませんが)。
コロナ禍初期と今とでは状況も大きく違いますが、気分が塞いでやる気が出ないという人は、一度「問題は表層的なレベルで生じているのかもしれない」という方向で状況を見直してみてもよいかもしれません。
おわりに
今回は大学で倫理学と政治哲学を勉強してらっしゃる、くちなし様に記事を寄稿して頂きました。
コロナ禍を経て、再びキャンパスライフ≒「飲み会」、「サークル」といった世界を指すという観念が強くなってきているのではないでしょうか。ですが、キャンパスライフは何も「キャンパス」に限定されたものでは無く、SNSにもあり得るし、身近な場所にもあり得ると思います。もし、現在のキャンパスライフが何か違うなぁ…と感じている人は別の世界や空間もあると考えるだけでも、そのモヤモヤは減ると思います。次回もお楽しみに。