それは、ありがとうから始まった
感染症の拡大によって、全面リモートワークとなり、通勤の必要がなくなった。
それは自由に使える時間が増えたことを意味したが、気軽な外出もままならなくなり、家族以外の人と直接顔を合わせることが激減した。
仕事以外のオンラインのコミュニケーションは、どこかでだれかとつながりを共にすること以上に新しい世界も提供してくれた。
例えば、かつての朝の通勤時間帯にオンライン英会話を予約するようにしてみた。
ほとんどの講師はみな明るく元気で親切に、超低空飛行のわたしの語学力を受入れ、根気よく付き合ってくれた。どんなハチャメチャな英語でも否定せず、"Have a nice day!"だの”Stay safe” ”Stay healty”でクロージング。
クラスの流れのテンプレート・おまじないのようなものだとしても、クラスでポジティブなエネルギーを朝いちばんにチャージして、始業時間を迎えるのは、メンタル維持には効果的だった。
あるいは、平日の夜にオンラインスクールに参加。
リモートワークになる前は、平日の毎週固定曜日に仕事を定時で終わらせ会場に向かい何かを学ぶなど超絶ハードルが高く、実現可能性はかなり低くてあきらめていた学び。
それが、仮に少し残業をしたとしても、仕事のPCを閉じてしまえばすぐにプライベートのPCでライブ参加ができ、遅刻欠席しても残された動画でキャチアップ。
リアルでは会えないままだったかもしれない、多様な学びの仲間たちとの出会いは、今も続く大切なつながりとなって、わたしの思考空間・行動範囲・他への影響力を広げた。
あるとき、「MC力アップ」がテーマのエクストラ講義に参加した。
イベントや講義のMCのみならず、会議のファシリテーション、同僚やチームメンバー・家族・友達との会話の場でも応用できる「MC力」。
講義・デモなどに続くワークの時間。
オンラインで2人1組になって、二人とも画面で顔出し。
講演終了直後という設定で一人はMC役、もう一人は登壇者役と言うワーク。
ワークの内容は「MCが登壇者に講演のお礼を言って〆る」というもの。
具体的には
MC「はい。以上、○○さんのお話でした!
(登壇者へ、向かって)
○○さん、素晴らしいお話をありがとうございました。」という。
登壇者役はこの間黙って、画面に映ったままMC役の言葉を聞く。
講師からオーダーされたポイントは
「相手の顔をみて、本気で心を込めてありがとうをいうこと。」
1回毎に向き直り、3回続けて言う。その後交代。
両方がMC役と登壇者役をやる。
わたしの相棒はオンライン初対面で組合せになった人。
知らない人すぎて最初はいささか照れる。
ワークをやってみると、「講演」にあたるものは何もなく、
この〆の言葉を、お互いに言うだけのワークなのに、
MC:次第にテンションが上がるのか、血流が良くなって体温が上がる感じ。
登壇者:何にもやっていないのにお礼をいわれる恥ずかしさが最初はあるが、これも回を重ね、いい気分になる。
そして、おもしろいことに初対面同士でも、ワーク終わるころには古くからの友人のような親しみやすさや共感にあふれた状態になるのだ。
ワークが終わり講義のエンディング。
講師から「みなさんどんな感じだったでしょうか。明日から、心を込めてありがとうを言ってみるとMC力も上がりますよ」の言葉で終了となった。
翌朝
ゴミ出しの曜日だった。
通勤していた頃は、朝早くマンションのゴミ置き場に袋を置いていた。
リモートになって、マンション規則のゴミ出し時間ギリギリかちょっと過ぎたことにもっていくのが習慣になっていた。
その時間にもっていくと、マンションの清掃パートさんがゴミ置き場で作業を大概している。
いつもなら、パートさんの顔も見ずに「おはようございまーす」とうすっぺらな挨拶だけして、そそくさとゴミを置いて立ち去っていた。
しかし、この日の朝は違った。
よしパートさんに心を込めてありがとうを言ってみよう。
ドキドキしながらパートさんの姿を認識する。
どのタイミングで言おうか、いや言えるだろうかわたし。
ゴミ袋を所定の場所へ置きながら、ヨシ!
「おはようございます。いつもありがとうございます。」
その瞬間パートさんの顔がさっと変わり、雰囲気が変わった。
隙ができたというか、雰囲気が和らいだというか。
「い~え、仕事ですから」
少し弾んだ声。
ちょっとパートさんとつながった瞬間だった。
そこからも、ゴミ捨てに行って会うたびに、こころを意識して
「ありがごうございます」
「いつもきれいにしてくださって、ありがとうございます。」
と伝えていると、今日の天気やマンションのことなど
たまに立ち話するようになり、今に至る。
ネームプレートの(今までもしていたのに気づかなかった!)
お名前で呼ぶことも増えた。
天気の悪い日などは、「大変な中ありがとうございます」や
「寒い/暑いのにありがとうざいます」と言うと
「いえいえ~、仕事仕事っ」と、とても明るく返してくれる。
会社の仕事でいちいち落ち込んでいる自分の器が小さく思えるくらい、
パートさんからは元気をいただく。
オンラインクラスで教わった「こころをこめてありがとう」は
MC力だけでなく、自分の周りにひととのつながり力、
仕事への心構えの実践者との出会いも広げるメソッドだった。
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