【海外小売DX事例】中国アリババが買収した銀泰百貨店(インタイム)のニューリテール変革
0. はじめに:ニューリテールとは?
「ニューリテール」とは、中国のアリババグループが最初に提唱した戦略で、小売業のDXを実現し、オンラインとオフラインを融合させた(OMO:Online Merges with Offline)新しい顧客体験を提供することです。
中国ではすでに様々な企業が試行錯誤しながら、このニューリテール戦略を実践しています。少しでも日本企業のDX化のヒントになるように、これから数回に分けて、いくつかの事例を取り上げていきたいと思います。
1. 銀泰百貨店の紹介
銀泰商業グループ(インタイム・リテール・グループ)は1998年に設立された中国の大手老舗百貨店です。営業面積、売上実績、いずれにおいても中国小売業のトップに立っています。そして2017年にアリババに約3000億円で買収されたことをきっかけに、銀泰百貨店は急速にDX化が進み、オンラインとオフラインを融合させ、ビッグデータを活用しながら、百貨店の原型にとどまらず、テナント企業/ブランドにとっての販売ソリューションプロバイダに生まれ変わろうとしています。
銀泰百貨店は百貨店業界の新しい小売変革をリードしています。「顧客・消費・売場/チャネル」のDX化を通じて、会員管理・商品販売・サービス提供の全面バージョンアップを実現しています。銀泰百貨店中国で初めて有料会員制のINTIME365を提供したり、サプライチェーンのデジタル化を図りました。また、自社のMiaojieアプリ、ライブ配信やクラウドストア(雲店)など、様々なデジタル施策に取り組み、オンラインとオフラインを融合したニューリテールへの変革に成功しました。
2. 【顧客】オンライン・オフラインの両面で最高な顧客体験を提供
2.1. オンライン:アプリによるデジタル百貨店
従来の百貨店で買い物をする場合、消費者は実店舗に足を踏み入れたときにしか、ブランドや商品のプロモーション情報をが目に入れませんでした。そこで、顧客に事前に貴重な情報を提供し、購入を後押しする手段/チャネルとして、銀泰百貨店は自社のMiaojieアプリを運営しています。2021年末までに、Miaojieアプリの会員数は3000万人を超え、かつ毎月数十万程度の新規入会数で増え続けています。顧客が銀泰百貨店のMiaojieアプリを開くと、デパートにどういうブランド/テナントが入居しているか、デパートに空き駐車スペースがあるかを、来店前に把握することができます。さらに会員登録を行うすると、全商品のキャンペーン情報を確認できて、オンラインでそのまま商品を購入することができます。商品価格はオンラインもオフラインの実店舗も同じです。
2.2. オフライン:銀泰式ショッピング体験
2021年のダブルイレブン(中国全土のショッピング祭りの日)において、銀泰百貨店は360度全方位的な「銀泰式ショッピング体験」を生み出しました。配送・モビリティ・会員サービスなどをカバーした8つの主要サービスが全面アップグレードされ、顧客により良い顧客体験の提供に努めています。
配送サービス
タイムリー配送:実店舗の5km範囲内は最速1時間以内配送、10km範囲内は半日以内配送。配送が予定時間より遅れる場合は賠償金が支払われます。
ワガママ配送:顧客は銀泰百貨店でショッピングする場合は重い荷物を持ち続ける必要がありません。買った商品は、店舗内で設置された配送ポストで預けることができて、そのまま自宅まで届けられます。
会員サービス
タクシー手配代行:中国では、ピークタイムにタクシーを中々拾えない事情があるため、銀泰百貨店のコンシェルジュが顧客の代わりにタクシーを手配します。
衣料品クリーニング半額:衣料品のクリーニングが半額になります。製作工程が複雑で価格の高いオーダーメイド衣装(ロリータ服・民族衣装など)も対応可能です。
特別なショッピング体験
旦那様専用VIP休憩室:奥様がショッピングしている間に、同伴している旦那様がVIP休憩室で待機できます。休憩室にはゲーム機と漫画が設置され、旦那様がゆっくりしたり、時間を潰すことができます
フォトジェニックな試着室:おしゃれな内装とインテリアを配置した試着室がいくつかのテーマで用意されています。若い女性の友達グループが一緒に試着したり、そのままSNS用の写真を撮影することもできます
コーディネーターサービス:銀泰百貨店は自社のコーディネーターチームを育成しています。顧客はオンラインでコーディネートのコンサルティングを受けることができます。さらに、実店舗でコーディネーターのアドバイスを受けながら、一緒にショッピングすることもできます。
2.3. 中国で百貨店として初めての有料会員プログラム「INTIME365」を提供
2021年末、銀泰百貨店は有料会員プログラムの優遇内容のアップグレードを発表しました。年間365元(約6700円)の会員費を支払うと、95%以上のブランドが通年10%割引対象になるほか、顧客が銀泰百貨店で一日過ごす中で利用し得るほぼ全てのサービスをカバーしています。あるユーザーの試算によると、有料会員プログラム「INTIME365」に加入すれば、仮に買い物をせずに飲食や他サービスを利用しただけだとしてもも、1年間約1,000元(約2万円)節約することができます。
特筆すべきなのは、銀泰百貨店が業界内で初めて「アパレル商品は60日間無条件交換・返品OK」と「商品交換・返品は集荷も含めて無料」を打ち出したことです。この施策により、交換返品が受け付けてもらえなくて、手続きが面倒くさいというペインポイントが解消されることで、顧客はより安心して買い物ができます。
<有料会員プログラム「INTIME365」の優遇内容>
ショッピングは通年10%割引
毎月特別クーポン配信
(福袋・1元洗車・1元クリーニング・1元タピオカサービスなど)衣料品クリーニングサービスは50%割引
洗車サービスは50%割引
レストラン利用は40%割引
ポイントを貯める・つかる
モバイルバッテリーレンタル6時間無料・ロッカー2時間無料/日
駐車代は10%割引(2時間無料駐車券付き)
アパレル商品は60日間無条件交換・返品OK
商品交換・返品は集荷も含めて無料
3. 【商品】有名ブランド初出店 × サプライチェーンのDX化
3.1. 大都市で有名ブラント初出店を狙う戦略
銀泰百貨店は「大都市での有名初出店戦略」を狙うリーシング戦略を掲げています。過去5年間でアパレル・飲食・エンタメ事業において、約500件有名な海外ブランドや中国新興ブランドの全国初出店/某都市初出店を果たしました。
2021年は杭州・西湖・寧波・温州・西安銀泰百貨店などでリニュアルを実施し、中国主要都市におけるコアな競争力を確立できました。2021年の中国ゴールデンウイーク(10月1週目)前後だけでも、全国の銀泰百貨店で50以上の新しいブランドがオープンしました。 例えば杭州の銀泰百貨店では、Valentino Beauty に加え、ニッチなハイエンドブランド LauraMercier、英国発コスメブランド CharlotteTilbury、そして銀泰百貨店がアリババの Tmail とコラボしたバッグブランド IncollecTion も 、実店舗とMiaojieアプリで同時に初出店しました。IncollecTion は2021年4月に出店後、毎月10%程度で売上が伸び続けています。
その他、オンラインネイティブだった中国新鋭ブランドやデザイナーズブランド(Amazing Song、FOSTYLE、INJOYLIFE、IRI、JW PEI、北山制包、PECO、Sei Carina Y、WANACCESSORY、大犬乌马、古良吉吉など)も続々と銀泰百貨店に初出店し、オンラインからオフラインへのチャンネル拡大を実現できました。
3.2. サプライチェーンDX化とラストワンマイル配送強化
銀泰百貨店に参入しているブランドは、マーケティング・販売・配送などに関して、End to EndでサプライチェーンのDX化を実現しています。銀泰百貨店はUber Eatsのデリバリーと同じように、商品を顧客の家に正確かつ迅速に配送できるように心がけています。現在中国26都市の50店舗において、顧客はMiaojieアプリで注文すると、実店舗の5km範囲内は最速1時間以内配送、10km範囲内は半日以内配送が約束されます。配送が予定時間より遅れる場合は賠償金が支払われます。
このスピード配送の裏では、銀泰百貨店がアリババの物流サービスCainiao(菜鸟)とコラボしながら、百貨店業界に最適化したデジタル倉庫とロジシステムを構築しています。銀泰百貨店はビッグデータとアルゴリズムを駆使して、先ずは実店舗の売れ筋商品を選び抜いてデジタル倉庫に入庫させています。そして注文を受けてからの注文票印刷・仕分け・検査・梱包・配送の全てはこのデジタル倉庫で完結しています。これにより、実店舗で働くスタッフによる手作業が全く不要となり、バックエンドにおける作業効率も大幅に向上しました。 DX化により、2021年にはMiaojieアプリで「タイムリー配送」を指定した注文数は2020年の5倍になり、全注文数の約40%を超えました。 また、最近「ナイトエコノミー」が新たな消費の成長点となって、午後11時から午前2時までの間は、Miaojieアプリにおける注文数の顧客単価は1時間過ぎるごとに1,000元ずつ上昇していくような形になっています。そのニーズに応えるために、一部の銀泰百貨店の「タイムリー配送」の配達時間が夜の22:00まで延長されました。
4. 【売場/チャネル】時代の潮流を踏まえた斬新な販売手法と店舗スタイル
4.1. ニューリテールの王道となるライブ配信
ニューリテールが席巻する中、ライブ配信は決して一過性の流行りものではなく、ECとコンテンツマーケティングが深く絡み合ったことで、すでに小売業の新たな成長ドライバーになってきています。2018年に銀泰百貨店とアリババのTaobao・Tmallが共同で「淘柜姐」というライブ配信コラムを立ち上げました。銀泰百貨店のショッピングガイドの専門スキルをフル活用しながら、幅広いチャネルでライブ配信とショートビデオの形で発信を行い、より多くのお客様のニーズに応えてきました。
デジタル化された銀泰百貨店のショッピングガイドは、Miaojieアプリ上でリアルタイムで顧客とインターアクティブな交流を行っています。またTaobaoのライブ配信を活用して伝統的な小売業が直面する時間と空間の制約を打ち破り、約9割の新規顧客を銀泰百貨店に誘導できるようになっています。ショッピングガイドはライブ配信というニューリテールの王道とも言えるチャネルを通じて、地域・店舗・ブランド間の壁を乗り越え、商品と顧客をシームレスに結びつけることができました。
4.2. 「クラウドストア(雲店)」モデルの探索
クラウドストア(雲店)は、近年銀泰百貨店が生み出した「オンラインとオフラインの境界線を無くす」エース級の店舗コンセプトです。 その最大の特徴は、オンラインとオンラインの両方のショッピング体験が一つの店舗で同時に行われることです。そのために、顧客・商品・売場(チャネル)はすべてデジタル化されており、オンラインとオフラインが完璧に融合されています。 クラウドストアの店舗面積は一般的に40〜80㎡であり、最大のクラウドストアでも1,500㎡を超えることはありません。限られた店舗の中で、銀泰百貨店で爆発的な人気があった商品がびっしり展示されています。 言い換えれば、クラウドストアは、百貨店でのトレンドと売れ行きがはっきりと商品の陳列に反映されているショールームです。
全てのクラウドストアにおいて、トライアル品のみが用意されており、逆に販売用の商品在庫がありません。顧客は大きな画面の「クラウドスクリーン」というデジタルサイネージを使って商品を選択して、ショッピングガイドの解説に従ってMiaojieアプリをダウンロードします。会員登録後、オンラインで注文して会計します。
これまで、クラウドストアは様々な場所で出店して、利用シーンを拡大してきました。例えば、大学キャンパスの中でも積極的に出店して、不定期に大学生向けやキャンパス特有のプロモーションを実施しています。また、通常の銀泰百貨店の中でもさらにクラウドストアを構え、該当地域の実店舗が取り扱い対象外の商品もその場でトライアルできて、そのままオンラインで注文できるようになっています。
本質的に、銀泰百貨店もクラウドストアも、オンライン・オフライン問わずに同じ価格で同じ商品を販売していますが、クラウドストアは小さくて柔軟性があるため、より広い市場とニーズに向けて、容易に拡張できるようになっています。同時に、小さなクラウドストアの中でも必ずプロのショッピングガイドがいるため、単純なオンライン販売よりも売上が高くなっています。
5. 最後に
銀泰百貨店も前述のように、いくつかの段階を踏んでニューリテールへのDX変革を果たしました。第一段階はリアルビジネスをオンラインに移行することです。Miaojieアプリによって会員とタッチポイントを作り、ライブ配信やラストワンマイル配送を強化して、オンラインで商品を売れるようになりました。その次の段階は、クラウドスト(雲店)のようにオフラインとオンライン上で在庫の制約がなく商品の選択肢が豊富である同時に、オフラインできめ細かなサービスも体験できるところに強みがあります。
時代の潮流に合わせて、綿密な事前準備とDX変革が実行できたからこそ、銀泰百貨店はついにデジタル百貨店に進化し、中国の小売業をリードし続けられています。
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