EC関係者必見!Thrasio(セラシオ)を始めとするAmazon Aggregatorの動向とビジネスモデルを解説(後編)
1. Thrasioの紹介:グローバルで圧倒的にNo.1のAmazon Aggregator
先日は前編の記事で、グローバルでAmazon Aggregatorの全体動向について紹介させていただきました。
今回の記事では、No.1プレイヤーである米国Thrasio社の戦略とビジネスモデル、具体的な買収基準/金額/プロセス、そして買収後の運営手法について、深堀って解説したいと思います。
2018年に設立された米国ユニコーン企業のTherasio社は、Amazon サードパーティーブランドを買収するAmazon Aggregatorとしてはグローバルで最大手であり、すでに合計34億米ドル以上を資金調達しました。
Thrasioは米国、ドイツ、英国、中国、日本を含む5か国にオフィスを構え、世界9つの主要部門に2,100人以上のスタッフを擁しています。現在、Thrasioは世界で6,000以上のブランドについてデューデリジェンスを実施し、150以上のブランドを買収しました。現在は様々な商品カテゴリーで22,000以上の売れ筋商品の販売と運営し、Amazon Top.5 セラーにもランクインしています。
2. Thrasioの戦略:Amazonブランド買収+専門的な運営によるバリューアップ
Thrasioを始めとするAmazon Aggregatorのビジネスモデルを一言でいうと、”Amazon上のブランド買収+専門的なグローバル運営チームによるバリューアップ”です。
「買収+運営」という新しいビジネスモデルにおいて、買収はあくまもで出発点に過ぎず、買収後の運営こそThrasioの見せ所であり、ブランド運営能力・商品開発能力・チャネル開拓能力・データ分析能力はThrasioの核心的競争力になっています。ブランドが買収された後、Thrasioはブランドの運営状況について詳細な分析を行った後に様々な改善策を講じます。 ブランドごとにカスタマイズした改善プランは、商品開発・マーケティング・サプライチェーンおよび物流など、ほぼ全ての領域をカバーしています。その結果、ポテンシャルが大きいブランドは、買収後に売上高が8倍になったという爆発的な成長を達成しました。
Thrasioの買収対象はブランドと事業そのものであり、売り手のチームは含まれていません。なぜならば、このアプローチのほうがスピーディーに根本から改善を行えるからです。売り手側はブランドを売却する前に必ず人材不足に陥っているため、買収後に元体制を維持しつつ、新しい人材の紹介/トレーニング/すり合わせを行うやり方は、Thrasioの新しいチームがまるっと受け継ぐよりもかえって非効率的になります。また、売り手にとっても完全なるエグジットは大きな魅力です。いざ買収が完了すると、売り手は豊富な資金を手にしつつ、元のチームと再出発して新規事業を立ち上げることも可能です。実はThrasioの買収案件のうち、約半分は過去Thrasioに売却経験があるリピーターが再度立ち上げたブランド、もしくはその人たちによる紹介で獲得した案件でした。
3. Thrasioの買収基準:3Rモデル(Reviews・Rating・Rank)
Thrasioはブランド現在の規模よりも、将来のポテンシャルにフォーカスしていますので、年間GMVが1億米ドルの大規模なブランドから、200万程度の中小規模ブランドまで、幅広いレンジでブランドを買収しています。一つの評価基準として、過去1年の純利益が40万ドル以上であることというものがあります。
また、Thrasioは膨大なリサーチとビッグデータ分析により、「3R」というブランドの買収基準を確立しました。3RはReviews・ Rating,・Rankを指しています。Reviewは口コミのコメントであり、ブランドの評判がダイレクトに反映されています。Ratingは口コミのスコアであり、ブランドの商品開発及び運営能力が反映されています。そしてRankは商品のランキングであり、その競争力とSEOの優位性を示しています。
規模:年間GMVは200万ドル~1億ドル
純利益:過去1年の純利益は40万ドル以上
Reviews:500個以上のオーガニックのクチコミが存在(主にポジティブなコメント)※コメントの信憑性が重要(サクラコメントはNG)
Rating:スコアが四つ星以上 ※コメントの信憑性が重要(サクラコメントはNG)
Rank:検索ボリュームが大きいキーワードで上位にランクイン ※現在のランキングのみならず、将来のポテンシャルを重視
4. Thrasioの買収金額:ブランド譲渡時買収金額+安定性ボーナス+収益性ボーナス
Thrasioが売り手に支払う買収金額は、「ブランド譲渡時買収金額」+「安定性ボーナス」+「収益性ボーナス」という3つの部分で構成されています。ThrasioによるAmazonブランドのブランド譲渡時買収金額は、通常ブランドの直近1年の純利益の3〜5倍です。ブランドの譲渡が完了すると、資金の全額が最短で7日以内に売り手に支払われます。しかし、それは最終価格ではありません。ブランド譲渡時買収金額に加えて、Thrasioは買収したブランドの最初1~2年間の利益の一部を売り手に渡しています。
ブランド譲渡時買収金額:ブランドの直近1年の純利益の3〜5倍
安定性ボーナス:Thrasioがブランドを買収した後の初年度に関して、ブランドが生み出す純利益が買収前と同じ水準を維持できれば、売り手に安定性ボーナスが支払われます。
収益性ボーナス:Thrasioがブランドを買収した後の1~2年目で、もしThrasioの運営の下で実績が大幅に伸びていれば、買収前よりも超過した純利益分の40~50%が、収益性ボーナスとして売り手に支払われます。
専門のAmazon運営チームと潤沢なリソースを持つThrasioは、買収後にブランドを成長させ続ける能力を持っていますので、Thrasioのボーナスプランは売り手にとっても、エグジット時のキャピタルゲインを上げるための絶好なチャンスです。ほとんどのブランドは、Thrasioに買収されてから1年以内に純利益を200%以上増やすことができました。つまり、売り手がブランドを売却してからの実績次第で、ブランド譲渡時買収金額よりも40~50%ほど多めにボーナスを受け取れる可能性がありますので、Thrasioへの売却は魅力的なエグジットになります。
5. 買収対象ジャンルと企業:日常的な需要が安定している商品カテゴリが中心
どのカテゴリを買収するかも肝です。ThrasioはThrasioはブティックブランドを好んでおり、SKUは少ないものの、日常的な需要が安定している商品カテゴリを主な買収対象にしています。例えば、インテリア・ベビー用品・ペット用品・パーソナルケア・リモートワーク用品・アウトドアグッズ・スポーツグッズなどです。そしてカニバリゼーションを避けるために、細分化されたカテゴリで最大3つのブランドしか買収しません。これらの商品カテゴリは一定の検索ボリュームを有していますので、検索キーワードで上位にランクインすれば、安定したトランザクションを獲得することができます。
一方、Thrasioは強力なデザインセンスを必要とするファッション・アパレル系ブランド、もしくはバージョンアップが激しいハイテク製品には手を出しません。また、創業者の離任による失敗リスクを伴うブランドも買収対象外です。
そして意外なことに、Amazon以外の独自販売チャネルは、Thrasioによる買収の意思決定にほとんど影響を与えません。確かにマーケティングに工夫してファンを持つことは素晴らしいです。しかし、Thrasioのロジックで言うと、25,000人の顧客とタッチポイントを持つことで、売上全体の5%を上昇させたとしても、仮にAmazonが明日このブランドを凍結したとしたら、その5%の売上は焼け石に水でしかないからです。
6. 買収プロセス:最短45日間で買収契約を締結してクロージング
ThrasioのHPによると、以下の買収プロセスで最短45日間で事業譲渡契約を締結できるようになっています。事業売却でよくあるケースとして、デューデリジェンスの段階でテクニカル的な手法を用いてより安い買収金額で売り手を納得させようとするも多いですが、Thrasioは目先の買収金額よりも、売り手にとってもフェアでスピーディーな買収になることをゴールとしています。実際にThrasioと基本合意書を締結したブランドのうち、約98%は無事に買収をクロージングできています。
0-14 日目:事前協議、基本合意書の締結
NDAを締結してから、財務状況について簡易的な分析を行い、概算買収金額について交渉します。Thrasioの管理層が初期の交渉段階より案件に参加することで、よりスムーズに意思決定ができます。
ブランドと接触してから、Thrasioは通常5営業日程度に買収基準を満たしているかどうかを売り手側に通知します。買収基準に一致する場合は、Thrasioから基本合意書書を送付します。
買収基準に一致しない場合でも、Thrasioから売り手にオススメのエージェントを紹介しますので、売り手にとってThrasioとの交渉は決して無駄になることはないです。
5-25 日目:デューデリジェンス
基本合意書を締結してから、ブランド側が全ての運営資料・Amazonアカウント・財務情報・著作権関係書類・契約書類などをThrasioに開示します。これらの資料を元に、Thrasioがより詳細なデューデリジェンスを実施します。このプロセスでは、Thrasioの専門チームが売り手側の各種準備を全面的にサポートします。
25-45日目:事業譲渡契約の締結
デューデリジェンス完了後、Thrasioと売り手が事業譲渡契約の締結に入ります。Thrasioは買収プロセスのトランスペアレンシーを担保し、売り手にとってフェアな取引になるように努めています。買収資金も一旦エスクロー口座*に振り込まれます。
*エスクロー(Escrow)とは、契約当事者の間に第三者である金融機関が入り、譲渡金額を決済することで、代金決済などといった取引の安全性を確保する仲介サービスのことThrasioは同時に売り手と競業避止義務契約も締結します。買収完了後、売り手は同じ商品カテゴリで出品してはいけません。ただし、Thrasioがかなり細かい粒度で商品カテゴリを規定していますので、例えば紙コップを売ってきた人が今度ガラスコップなら再出品OKのように、売り手は類似性が高いカテゴリで再度ブランドを立ち上げることもできます。
45~60日目:資産の移行
事業譲渡契約の締結完了後、資産の移行が行われ、売り手にブランド譲渡時の買収金額が指定口座に振り込まれます。潤沢な資金があるThrasioは最短7日間で決済を完了させています。
7. 買収後のロールアップ:データドリブン+専門チーム+標準化かつ高速なオペレーション
Therasioは買収後に、該当ブランドは厳密に決められたコンベアー式のようなプロセスに入ります。約6人が結成されたコアチームは、このブランドの約500個のチェック項目におけるパフォーマンスを全方位に分析します。サプライチェーン・マーケティング・法務及び他の部門の専門家も一緒に、平均34日間の詳細な調査を実施して、商標・製品パッケージ・マーケティング素材・物流・法律準拠などあらゆる改善事項を洗い出し、ブランドごとにオーダーメイドした改善プランを策定します。その後、800人を超えるAmazonエキスパートが在籍するグローバル専門チームによって、下記のように様々な領域からブランドのバリューアップと成長を推進していきます。
ブランド戦略策定
プロダクト開発
プロジェクトマネジメント
KGI・KPI策定・分析とマネジメント
プライシング戦略策定
ファイナンス、予実管理
SEOマーケティング
マーケティング戦略と実行
パッケージとデザイン
クチコミ・スコアリング管理、カスタマーサポート
サプライチェーンマネジメント
各地域の規制・法律・税務対策 など
細かな改善例を挙げると、例えば画像が大きければ大きいほどクリックされる傾向があるため、クリエイティブチームは、各プロダクトには少なくとも7つの高解像度画像を用意しています
サプライチェーンとグローバルでの仕入面について、Thrasioの該当チーム責任者は過去世界最大の海運会社で、140か国/地域を管轄して約20億ドルのトランザクションをマネジメントした経験があります。また、Thrasioは自身のスケールを利用して、ブランド買収後にボリュームディスカウントを適用させることができます。
マーケティング面では、Thrasioは過去GoogleとFacebookのTopマーケティング会社を経営・売却した経験を持つ責任者を迎えて、少人数の精鋭マーケティングチームを作り上げています。
このようにデータドリブンの意思決定、専門的な運営チームと豊富なノウハウ、標準化かつ高速なオペレーションこそ、Thrasioの最大な競争力になります。多くのEC会社は5~10個のブランドを運営すると、成長率が鈍化する傾向にありますが、Thrasioが有する専門チームは150個を超えたブランドの運営を同時に支えることができています。また、Thrasioのチームは定期的にAmazon本社にも訪問して、Amazonプラットフォームの最新運営メカニズムや市場動向について研究しています。今まで、Thrasioは自社傘下約86%のブランドについて、販売地域とチャネルを買収前より拡大させることに成功しており、Thrasioに買収されたブランドは平均156%の成長率を達成しています。Therasioは同じやり方で300回ほどブランドの買収を繰り返していますが、毎回10倍、あるいは20倍以上のバリューアップを実現できており、次世代のP&Gとも言われるようになりました。
8. 今後の挑戦:Stay in Amazon or Go Outside?
Thrasioは間違いなくAmazonで成功を収めてきましたが、いくつかの課題と挑戦に直面しています。
先ず、2020~2021年に渡って競合となるAmazon Aggregatorsも次々と出現しました。先行者利益を得てきたThrasioは、今後同じペースで優良ブランドを買収し続けて、かつ買収後にAmazon市場で勝ち続けるかは、これから正念場になると思います。特にAmazonでは中華系セラーが約40%のシェアを示していますので、中国でのブランド買収・サプライチェーン統合が大きなテーマになります。同時に、中国でもNeburaのような競合が出現し、中国本土の大規模~中小規模のVCやファンドも同じ市場を狙っていますので、今後競争がますます激化すると思われます。
また、Thrasioが依存するAmazonプラットフォーム自体も挑戦に満ちています。D2Cの台頭により、2020年にECプラットフォームのShopifyは急成長して、すでにAmazonのマーケットプレイス事業の売上の40%に達しています。今後ShopifyもAmazonに追いつこうとして、巨大な投資を講じて事業を拡大させています。Thrasioもこれらの市場トレンドの変化を認識しています。 Amazonが今のところ主要な戦場でありながら、今後2〜3年でD2Cブランドを買収したり、Shopifyや他の販売チャネルでの事業拡大も模索する動きが加速されると予測します。
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