呪詛抜きダイエット

呪詛抜きダイエット
田房永子・大和書房
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いわゆるコミックエッセイになるんだと思いますが、日頃紹介しているコミックエッセイに比べると、なんといいますか…通常の漫画ぽいと言いますか…。通常の漫画てのも変な話なんですが、あれですよ、コミックエッセイという響きに含まれる、明るく読みやすくちょっとお得な情報が入ってて気楽に読めてほっとするみたいな…そういうのとはこちら、ちょっと違いますね…
いや元々コミックエッセイてそんなジャンルでもないと思うんですけれど、こう、気軽に手に取れるものって感じがね、イメージとしてあるんですよねあのジャンルの響き。

著者の田房永子さんは「母がしんどい」という著作でご存知の方も多いかもしれません。過干渉……距離なし、て言い方もしますかしら…の母親に育てられた苦悩やそれらの問題の解決にかけての話を、諸々の著作で細かに描かれておられます。「毒親」という表現もこの方の作品以降広まったのかと認識していますが、別の方からなのかしら…親兄弟について無闇に耐える必要のあった昭和の価値観が、ああ、血縁から離れる選択ももう取っていい時代になったんだ、と感じることが出来たのがわたしにとってはこの方の著作だったんですよね。
「母がしんどい」を読んだことで、
「そうか…あれはやっぱりおかしいことだったんだ…」
と、親(他人全般?)と自分の距離感について気づけた人が増えたのではないかと思ってます。良い仕事をしてくださった…ありがとうありがとう……

その田房さんのダイエット本ということで、しかもタイトルがタイトルですから「どんなもんだろ…」と興味津々で読んでみたんですが、いやぁ…これダイエットの皮をかぶったメンタルケア…セルフケア…の、本じゃないでしょうか。メンタルケアというか…呪詛抜き。ほんと、タイトル通りの呪詛抜きですね。
ダイエットて、自分にかかった呪いに気がついたきっかけであり結果としてそのくくりになったのかなと思ってて、通り道は完全に「憑き物落とし」だと思って読んでました。自分にかかった呪いを落としていく作品。体重は「気づいたら落ちてた」の部類。
いやこんな書き方すると「オカルト本なの?」て怖がりの人がはらはらしちゃうかもしれないんですけれど、この場合の呪いって怨念がどうとかというよりは、あの、京極夏彦先生のシリーズものに出た「呪い」のくくりかと思います。人から言われた言葉に縛られるというやつ。それがすごくロジカルに解説されていて、こうだからこうなったんだ、これの原因はあれだったんだ、なのでこれをこうしてこう変えよう、といった、「自分自身の説得」で、親や親戚などからかけられた「呪詛」を自分から抜いていく様子が一冊にまとまっているんですね。これ、過去に誰かに投げつけられた言葉にがんじがらめになっている人にはすごく光明を見いだせる一冊なんじゃないでしょうか。

確かツイッターからの話だと思うんですけれど、あの、片付けのね、こんまりさんいらっしゃるじゃないですか。ネトフリであの方の番組があって、それをご覧になった方が「あれは憑き物落としではないか」と表現していて、ああーーすごいしっくり来る!て思ったりしたんですよね。


こんまりメソッドのロジックと宗教性について - Togetter https://togetter.com/li/1323952

こんまりさんの御本はわたし紹介してないんですけれど、興味のある方はぜひ。可能ならネトフリで番組見るほうが、より上記のTogetterが面白く読めると思います。揶揄とかでは全然なくて、人の執着の落とし方を言語化・手順化しているという点で、あの方は素晴らしい「プロフェッショナル」だと思えるんじゃないでしょうか。
お好みでなければ別に片付けはしないでいいと思うんですよ。執着からの切り離し方に注目して本を読んでみていただくと、別の視点が加わって面白いかと思います。
この「執着を落とす」が「呪詛抜き」て表現になってるのが本書です。霊だの恨みだのではなく、普通の人の普通の発言が記憶の澱のようなものになって、案外と人を大人になっても縛り続けているものだとよくわかります。

さて、田房さんの御本。
こちら、別に連動した作品のつもりでは描かれていないと思うんですが、
「キレる私をやめたい」という本も出されてまして、そちらと今回の作品は少し時期や対処がかぶっている模様です。「キレる~」も拝読したんですけれど、正直をお伝えしますと、そちらに描かれているものよりこちらの「呪詛抜き~」に描かれている内容の方が、「ヒプノセラピー」の効果について詳細かつ御本人への影響が非常にわかりやすかったです。そこはお好みもあるかと思いますが、お財布に余裕のある方はぜひ併読してみていただけると、より田房さんの「呪いからの解放」がわかっておすすめです。

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キレる私をやめたい
田房永子・バンブーコミックス エッセイセレクション
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「呪詛抜き~」は、「自分はこんなに太っていることがイヤなのに、なぜ【太る行為】をやめることが出来ないのか」「食べることについて【体が何かにのっとられたような食べ方】をしている」を発端に、「なぜ食べてしまうのか」を探っていく目的で自分の記憶を辿ったら、きっかけに思い至ってゆく…といった流れです。
田房さんがあった「ひどい目」はなかなかハードなものですが、わりと多くの人が近しい何かしらに思い当たるのではないかというほど「よくある」ことかとも思います。症状が誰にどれぐらい出るのかなんて人それぞれですし、感情や辛さは比べられるものではないですから、この作品を読む時は事象や内容の重さ・軽さ、自分と比べてどうか、よりも、解決方法へのアプローチや、考え方を参考にする、といった読み方が良いかと思います。
自分に思い当たらない話が出たら
「こう思ってしまう、ここに至ってしまう人がいるんだな」
でokです。

この本に描かれている解決方法は、正直誰しもが取れるものでは無いと思います。まず通えるところに良い設備があるかどうかもありますし、田房さんの憑き物落としが読者ひとりひとりに当てはまるものとも思えませんし。
ただ、「こんなのがあるんだな」「こういう考え方をすればいいのか」の参考は非常に多くのバリエーションで描かれているので、何かしらの解決のきっかけ…の、ひとつぐらいにはなるのではないでしょうか。人それぞれ呪いからの解放にはタイミングがあると思っているので、この本を読んですぐに解放に至る人もいれば、5年や10年経ってから急に
「これはああいうことだったのか!」
と自分と合致する、て人もいると思います。

人って理由があれば納得するとか、中身よりその納得感こそが欲しいとか、何かがあった際にわかりやすい原因が欲しいとかがあると思います。
それが真実かはともかくとして、自分の中で整合性がつくことで落ち着くのであれば、いくらでも辻褄を合わせて良いんじゃないかな。
作品内でも田房さんが
「いったん認めてみよう 私はお母さんにいじめられてた」
と、思い至った考えを肯定することで呪いを解くシーンがあります。
「親からの呪い」
だなんて、親子仲がいい人とか、特別良いほどでなくてもごくごく普通のご家庭で育った人には全然理解してもらえないんですよね。なので、親にひどい目にあった人がだいたい言われたことがあるのが
「お父さん(お母さん)だって●●だと思ってるのよ」
だとかの、親側を擁護する言葉なんですよね。理解を求めて丸く収めよう、親子の距離をくっつけようとするんですよ。過干渉を受けた人間からすると、毒キノコ無理やり食わされてるようなもんで、ほんと勘弁していただきたいんですよアレ。ココ大事なのでよろしくお願いしますねホント。
なんで迷惑を被った側が許しを強要されねばならぬのか。被害者は加害者から少しでも多くの距離を取らないと安心して生活出来ないんですよ。

ちょいちょいとここのnote記事でも漏れてしまってますが、私も父親について積もり積もった感情がありまして。
田房さんをはじめとした親関係の色んな本やインタビュー記事やらで、親に対して
「しっかり恨みきる期間が必要」
「思い切り嫌う」
「覚悟を持って自分と相手を切り離す」
という行為を「してもいいんだ!」と知った時の解放感ったらなかったです。
まだちょっとゴロゴロしたものがあるんですけれど、もうだいぶ小さくなって追々溶けて消えるかなと思ってるのでそこは落ち着いてよかったなあと思う日々です。

ご家族仲が良く、命を脅かすような悩みも無く日々幸せに暮らしている方であれば、こちらの本は不要なのかなと思います。その幸せ、しっかりと続けて下さい。とても良いご家族・ご家庭で本当に羨ましいです。あなたはそれで良いです。
残念ながらそうでなく、また、思い出に苦く重く黒いものがこびりついてままならない、前に進めない、という方にこそ読んでいただきたいです。ダイエットが不要でも、晴れないお気持ちを抱えている人は機会があればご一読をと思います。一つ前の「ほめ日記」もいいけれども、もっと動けなくなってしまっている人はぜひぜひ。

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進藤ウニ
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