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くっしゅ くしぇ

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お題をもとになんか書くマガジン 毎月第2、4週目の木曜日と金曜日の境目に更新。 参加者募集中。お気軽にご参加を♪
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2021年10月の記事一覧

濃密な、愛の  #くっしゅ

「シーフードって、変な言葉だよね」っていつものように唐突に君が言いはなった 「だって ”海の食べ物” ってことでしょ?」って。 そこまでいっておいて「あ、ならおかしくないのか」って本気で困った顔をするのが面白いやらかわいいやら。 たまらずくすくす笑ってしまったらめちゃめちゃ怒られた。 いつもの流れ、いつものこと。 しっとりと流れる、時間。 好きだなぁ、って。 ああ、好きだなぁ、って。 そんな僕にはめもくれず、君は続けている。 「なんか! シーフードって言っちゃうと海藻が入っ

砂の女[し:シーフードヌードル]

「心配しないで、私は海に帰るだけだから」 彼女はそういって病院のベッドで眠った。 そうして二度と目覚めなかった。 長い間手入れされずに伸びた髪は彼女を繭のように包み込んでいた。 30年という短い人生のうち3年間を彼女はこの病室で過ごした。 彼女は生前、宝石を集めるのが趣味だった。 病室の本棚には集めた宝石を円形に並べて配置していた。 そのとき、眠る彼女の耳からはさらさらとした砂が流れ落ちた。 僕はそれをこっそりと瓶に集め病院を後にした。 「私ね。海で生まれ育

#11 さ:殺人犯 「エデンの蛇」

「これは毒味です。」ある人がそう言った。 あっちゃんがそんなことするわけないじゃん。 あっちゃんはいつも天使みたいに笑ってるよ。 このりんごだってすごく美味しそう。 でも時折あっちゃんは私といる時より楽しそうにしている時がある。 いつものように「さおりー!」ってかけよってくれるけど、いつもよりそれは軽快なステップを踏んでるの。 あっちゃんはいつも憧れだよ。 背が高くて、スラッとしてて、黒髪に真っ赤なリップがよく似合ってる。 あっちゃんはいつもみんなの虜なんだ。 ほら、な

未必の恋[さ:殺人犯]

「ねぇ、伊藤さぁ、シュレディンガーの猫って知ってる?」 夏の日差しが照りつける中、ベンチで休んでた俺にマネージャーの鈴鹿が声をかけてきた。 切ったばかりの短い髪が汗で顔に貼りついている。 「え、なに、それ」 正直、野球部の練習をサボってるのを見つかって後ろめたかった。今思えば彼女はそこに付け込んできたんだと思う。 「なんかね、私もよく知らないんだけど、箱を開けるまで猫が生きてるか死んでるか分かんないんだって」 「本当によく知らないんだな」 彼女はテヘッと舌を出し

懐に入り込んだモノ  #くっしゅ 11

「かわいいとは思ってたよ。料理はうまいし、住まわせてくれたし。 まあ、でも。 過信してたのかもしれないね あんなに、脆いと思ってなかったんだよ。 だってさ、ほら いつもはしばらくしたらちゃんと起き上がってギャアギャア喚くじゃん? 何回やったって起き上がってくるし家のことはしてくれるしさ ほら、毎日そこにいるからさ ちょっとずつ、ちょっとずつ、まあ、強くなってたのかもしれないけどさ まさか、あれぐらいで、ねぇ。 血も出てなかったし、まさかねえ。 そんなもんなのかなぁ、人