お題をもとになんか書くマガジン 毎月第2、4週目の木曜日と金曜日の境目に更新。 参加者募集中。お気軽にご参加を♪
またやってしまった… そう気づくのはいつもすべてが終わったあとだ。 なんの事はない学生時代のイツメンと宅飲み。 感染症が猛威を振るっていた学生時代には、考えられなかったことだ。 青春を取り戻すように酒を そんな中、急に一人だけ走り出したやつがいた。 坂道を駆け上るように彼の言葉は加速して、重力から開放されたよう浮遊感すら満ちている。 彼が振り返るとバツの悪そうな顔をした友人が、遥か彼方で俯いている。 それが何を隠そう俺だった。 その後はいつも同じ。 昇りのエスカレーターを駆け
戸締りの旅と日本神話プロローグ 今では誰も近寄らなくなった廃墟。かつて盛況を呈した温泉街の中央のドームにはひっそりと佇む一枚の扉。 この物語は、主人公の、岩戸鈴芽の扉との出会いから始まる。 現代の神話をもう一度新たに紡ぐ物語。 そこに描かれる姿は、鈴芽という一人の少女の焦心苦慮に留まらない。 現代の人間が世界と対峙し調和を目指す、現代人への示唆が込められている。 本作は母を失った少女の岩戸鈴芽が3本足の椅子に姿を変えられた宗像草太と共に宮崎(日向)から岩手(蝦夷)まで扉
シャワーヘッドから伸びる冷たい筋が、頭にあたって後頭部へと抜ける。 ひたひたと浴槽にたまる水は、心の平穏を担保するように私を無心へと導く。 服を着たまま浴槽に入れられた私を母が真剣な目で見つめている。 その隣には××が立っていて。何かしきりに唱え続けてクジを切っている。 私はその手の動きを何とはなしに見つめていた。 どこかから王子様が業火を引き連れてここを焼き尽くしてくれる。 そんな光景を夢見ていた。 お前ら!次の授業までにちゃんと組を作っておけよ。 HR終わり
巣から落ちたヒナを助けたかった。 雨が降っている。 その事実に気づいたのは、下駄箱で外の景色を見た時だ。 生憎、傘を忘れた私は正面玄関の庇の下で立ち往生していた。 街を見下ろす丘の上に建てられたうちの高校は、その余りに辺鄙な立地から駅どころかコンビニですら、かなり歩かないとたどり着けない。 このまま雨が止むのを待つしかないのだろうか。 今朝家を出るときは抜けるような晴天で、雨の気配なんて1ミリも感じなかった。 「今日雨降るってテレビで言ってたから持ってきなさいよ
まるい音がした 僕が彼女の音を初めて聞いたのは雪の日だった。 放課後の音楽室からはブラスバンド部のジャカジャカした音が飛び交っている。 少し廊下を行くと先ほどの喧噪が嘘のように静謐な空気に切り替わる。 まるで目に見えない空気の幕を通りぬけたみたいだ。 廊下の突き当りにある美術室、そこはめったに人が通らないシンとした空間。 ドアに手を伸ばすとまるいシャボン玉のような音が壁から染み出してきた。 ピンポン玉くらいの大きさのその玉たちはしばらく空中を飛び回り、力尽き、ぽ
アラームの音が響く 今日はもう3回もスヌーズ機能を使ってしまった。いよいよ起きないとやばい。 っえいや!っと布団から飛び出るとさっきまで自分を追い込んでいた寒さや眠気は大した事無いもののように思えてくる。 急いで制服に着替えてリビングに向かう。 「ごめん、今日は朝いいや」 「ダメ!味噌汁だけでも食べていきなさい。」 ドアを開けると始まる喧噪 何処にでもある普通の家族 どこかで満足を覚えつつ玄関を出る。 僕がこの家に来て5年目、最初はつたなかったが、やっと本物
つぎ‐こ・む【▽注ぎ込む】 [動マ五(四)] 1 液体を器の中へつぎ入れる。そそぎこむ。「タンクに水を―・む」 2 ギャンブルに溺れて救いようの無い者が発する言葉 「なあ!頼む!絶対に返すから、100%勝てるレースがあるんだよ。」 智也は額を掌に擦り付けるようにして私を拝む。 「なあ、いいだろ、またとないチャンスなんだ。まなみ、もうお前しか頼れないんだよ。頼む!一生のお願い」 こいつの一生は何度あるんだろうか。 こんなのが元彼だと思うとつくづく情けなくなる。 「
「小春、父さんの仕事はな地図に残る仕事なんだ」 小春日和、昔は春の言葉だと勘違いしていた。 秋の終わり、木枯らしが吹く中でも日の光は暖かく。 麗らかが通る道を脇にそれて私は寂しい道をたどる。 毎週末この丘を登るようになってからもう2年も経っていた。 奥の方に見える民家には黒地に黄色の文字がデカデカと書いてある。 『ネコと和解せよ』 見るたびにうんざりする。 看板の前では猫が体を舐めて寝転んでいる。 「やれるもんならやってるっつうの…」 私は猫に一瞥をくれる
滝が見たい。 そう言ったのは恵(けい)だった。 田舎の山道を車で登るとなると骨が折れるかと思ったが案外そんなことはなかった。 海沿いの街に生まれ育った私たちにとって山道は新鮮だ。 道の左右には棚田がどこまでも続いている。 もう秋が始まろうというのに棚田にはまだ青々とした苗が植えられていて、ところどころ田植えをしているトラクタの姿が見える。 一面緑の景色の中を赤のスポーツカーで走るのは色で世界を切り裂くみたいで爽快だった。 どうせだからと思ってレンタカー屋で一番高
「A-41とA-72それと、C-82」 「C-82?それ、おまえ写ってなくないか?」 写真部の小嶋が驚いて顔を上げる。ひょろっとした顔に大きめの眼鏡をかけた彼は一昔前ならガリ勉と揶揄されただろう。 「いや、まあそうだけど…」 「ふーん」 小嶋は写真を確認するとニヤニヤしながら顔を寄せてきた。 「好きなのか?柳のこと。」 小嶋への誤解を解くのには苦労した。 そりゃ、柳さんは美人だしクラスでも人気があるし、彼女の写真が欲しくないと言えば嘘になるけど、僕の本命は柳さ
ッフュン!ッフュン! 秋とはいえ夜の校庭は身を切るように寒い。 オーライ! 広い校庭に野球部の掛け声や素振りの音が飛ぶ。 成長戦略によって労働生産性を向上させ、その成果を働く人に賃金の形で分配し、労働分配率を向上させることで、国民の所得水準を持続的に向上させるのです! 選挙選に向けた選挙カーの演説がエコーになって校庭にぼわと広がって抜けていく。 来年こそは全国に行ってくれ 先輩たちは悔しそうにそう言っていた。 成長しなくてはいけない。いつからそう思うようになっ
キリキリとネジを巻く、もうこいつもそろそろガタが来てるな。 ごめんな、いままで無理をさせて。 その年季は過ぎた去った時間が既に長すぎたことを物語っていた。 名前が彫られていた場所は、僅かにその痕跡が確認できるが殆ど解らない。 僕と半生を共にしてきた銀時計は僕の手で解体される。他でもない僕のために。 僕がその懐中時計を貰ったのは小学四年生の2分の1成人式の時だった。 クラスで銀色の懐中時計が全員に配られた。 「その時計は皆さんのこれから生きていく時間を刻んでくれて
「心配しないで、私は海に帰るだけだから」 彼女はそういって病院のベッドで眠った。 そうして二度と目覚めなかった。 長い間手入れされずに伸びた髪は彼女を繭のように包み込んでいた。 30年という短い人生のうち3年間を彼女はこの病室で過ごした。 彼女は生前、宝石を集めるのが趣味だった。 病室の本棚には集めた宝石を円形に並べて配置していた。 そのとき、眠る彼女の耳からはさらさらとした砂が流れ落ちた。 僕はそれをこっそりと瓶に集め病院を後にした。 「私ね。海で生まれ育
「ねぇ、伊藤さぁ、シュレディンガーの猫って知ってる?」 夏の日差しが照りつける中、ベンチで休んでた俺にマネージャーの鈴鹿が声をかけてきた。 切ったばかりの短い髪が汗で顔に貼りついている。 「え、なに、それ」 正直、野球部の練習をサボってるのを見つかって後ろめたかった。今思えば彼女はそこに付け込んできたんだと思う。 「なんかね、私もよく知らないんだけど、箱を開けるまで猫が生きてるか死んでるか分かんないんだって」 「本当によく知らないんだな」 彼女はテヘッと舌を出し
ッシュボ…… シュボッシュボ…… そこここで炎が上がる 「よっし!こんなもんだろ」 ケイスケは満足気に言った 「ホントにやるの?」 怯えた顔のミツオはメガネを押す指すら震えていた 「当たり前だろ?これをやらずに夏を終えれるかよ。去年は海水浴行った先でやる予定だったのに、色々あってできなかったからな」 中学生の僕らは夏休みの最終週、百物語をすることで現実から目を背ける最後のあがきに入っていた。 夏とはいえ夜の墓場は少し冷える。 そんななか固形燃料の温もりを頼
高校三年の夏、 近づく台風のお陰で学校は午後から休校になった。 空は雲ひとつなくて、学校の慌ただしさが嘘みたいだ。 でも、高校に入ってから伸ばし始めた長い髪がわずかにパサついて雨がもうすぐ来ることを密かに教えていた。 帰りに紗矢がゲームセンターに誘ってきた。どうせ家は近いし台風が来るまでには帰れるだろう。折角休校なのになにもしないなんてもったいない。私は喜んでOKした。 私たちはいつものプリクラコーナーに向かった。プリクラ機の手前に初めて見る筐体が置いてある。それは