濃密な、愛の #くっしゅ
「シーフードって、変な言葉だよね」っていつものように唐突に君が言いはなった
「だって ”海の食べ物” ってことでしょ?」って。
そこまでいっておいて「あ、ならおかしくないのか」って本気で困った顔をするのが面白いやらかわいいやら。
たまらずくすくす笑ってしまったらめちゃめちゃ怒られた。
いつもの流れ、いつものこと。
しっとりと流れる、時間。
好きだなぁ、って。
ああ、好きだなぁ、って。
そんな僕にはめもくれず、君は続けている。
「なんか! シーフードって言っちゃうと海藻が入ってない感というか、”海ってそんなに限定されてなくない? 感” とか、アザラシとかラッコとかシーフードって言わないよね!? え? 言わないよね、いいんだよね。それはいいとしても海鳥はどーすんの? とか、ああそうしたら日本語で言う ”海産物”と同じだからおかしくないのか!? いや、海藻は海産物だぞ!! んーーー????」
あ、なんか勝手にドツボにハマってる。
おもしろいなぁ。
ほんと、おもしろいなぁ。
一人でにクルクル回って太鼓叩いて笛吹いてるあれみたい
独り言なのかなんなのか曖昧なの大嫌いなんだけど
ミツエのこれは、なんだかすごく好き、なんだ。
まぁいいや、お昼できたんだよお昼が。
「なやんでるとこ、わるいんだけどご飯だよ。うどん」
一瞬、邪魔すんなとばかりにキッ!と睨まれたけど、食欲には勝てなかったようでミツエはいそいそとテーブルにやってきた。わかりやすい。
今日のお昼はワカメとエビ天、・ちくわの乗った、うどん
ミツエがこの頃気に入ってるカツオ出汁がよく効いている麺つゆを使ったからきっと気に入ってもらえることだろう。
ほかほかふあふあ、湯気がするりとたたちのぼる。
鰹と昆布の、優しい香り。
よし。
さっきまでへの字だったミツエの唇がぐるんとvの字になってる
今日のうどん、旨そうにできた自信あるもんね。
向かいの席にガタンと急いで座ったゲンキンなお方はまず、くんくんとこれからお口に入っていくべきものの匂いを嗅ぎなさった。猫かよ。うん、お行儀あんま良くないけど気持ちはわかる。
カツオにわかめー! とわかりやすくお喜びになっている……あれ?
いきなり止まった。なんだ?
「ねぇ……これさ、シーフードヌードルってよぶの? よんでいいの?」
「え。あ、鰹出汁と、ちくわと……?」
「ちくわはシーフード!たぶん!! それよりもわかめだよ、鰹出汁だよ。それシーフードなのどうなの? 出汁には身が入ってないからだめなの? 余計わかんなくなった………あ、ねえねえ、鰹と昆布の合わせだしのかけうどんは!? おぼろそばは? っていうか、この器の中で麺だけが部外者じゃない? 異邦人小麦。陸からの侵略者……English man in NY? Land plants in the Sea food soup? ていうか、シーフードって言うくせにリバーフードとかランドフードとか聞いたことないんだけど! ああ、かけうどんはどっちなのかやっぱりわからない……」
心底悲しそうな顔をする同居人に、僕は笑顔で答えた
「なんでもいいからさっさと食え!」
うどんは伸びたし
ミツエはむくれた。
麦茶の汗が、じわりと滴る
むくれたまま、ぱくっとエビを口にしたミツエは悲鳴のように声を上げた。
「ああっ!! 衣! 衣も異邦人じゃん、異邦人に仲間がいたよ!」
ジワジワ、蝉が鳴いていた。
#くっしゅ 11 「シーフードヌードル」
サポートいただけたらムスメズに美味しいもの食べさせるか、わたしがドトります。 小躍りしながら。