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「バビロンの塔」テッド・チャンで宇宙を感じて円環の理を知る ※ネタバレ有

1.神話のようなSF「バビロンの塔」


ハヤカワ文庫「あなたの人生の物語」を読んでいる。

テッド・チャンが2002年にまとめた個人アンソロジーで、映画メッセージの原作になった表題作が収録されている。

今日は1編目の「バビロンの塔」について。

1990年に書かれたこの短編は、古代都市バビロンに建てられた塔について神話チックに描かれている。

何世紀も昔から何世代にもわたって高く高く煉瓦が詰まれてきたこの塔。

どんなに遠くからでも、天高く続く塔を眺めることができたとあるが、

どのくらい? ブルジュ・ハリファ(828m)くらい?

と思いながら読み進めると(最上部に派遣された鉱夫の視点で進んでいきます)

雲を越え…

月を越え…

太陽や星々を越え…宇宙へ…
(どうやって息してるのー)

さすがテッド・チャン、我々一般人の想像力なんて足元に及ばないほど、どんどん天高く想像の塔は反り立っていきます。

宇宙空間を越えてどんどん伸びていく塔を何か月も登っていくうちに、どちらか上でどちらか下か分からなくなるような感覚に陥る主人公。

そりたつ大地とそりたつ天を、塔が一本の綱のようにつないでいるというイメージにくらくらしました。

また、人間でも恐怖を感じる高さの塔を、家畜たちは恐怖を感じないよう目隠しをされて登っていきます。かわいい。いや可哀そう?

一度も地上に降り立つことなく天空で生まれ天空で暮らす人々が居たり、

太陽を越えたエリアでは植物は下にある太陽に向かって生えていたり、

神話のようなSFでありながら、人々の暮らしが描かれているところが牧歌的でもあり楽しく読めました。

2.バビロンについて調べてみた

バビロンは、紀元前18~6世紀の古代メソポタミア地域における主要な王国だった。その名をとどろかせる首都が、ユーフラテス川沿いに建設された。
ユーフラテス川を挟んで両脇に建設された都市は、川底トンネルで結ばれていた。(Wikipediaより)

だそうです。

古代でも川の底にトンネルを掘るくらいの建築力があったことに驚きました。

エジプトのピラミッド然り、どんどん高く煉瓦を積んだ塔も本当にあったのかもしれない。

太古の昔の話なのに、未来や技術力を感じさせるSFチックな小説が好みなんですよね。

うまく喩えができませんが、「三体Ⅲ」でも壁に文字を刻んで何万年も先へメッセージを残すというくだりがありました。
SFという自由な設定の世界のなかでは、壮大な時の流れを一瞬で筆でえがくことができるところにロマンを感じます。

3.まとめ

ラストシーンの衝撃は、しばらく忘れることができなそうです。

前時代に信じられていた天動説・天体球を通説として描かれたこの短編。

今自分が信じている科学的常識がゆさぶられるような体験ができるのがSF小説をよむ醍醐味なのかもしれません。

地球だって宇宙なんだ。


さて、つぎはいよいよ空飛ぶばかうけならぬ「メッセージ」の原作へ。

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