「あなたの人生の物語」テッド・チャンはSF哲学だった ※後半~ネタバレ有
映画メッセージの原作であるテッド・チャンの「あなたの人生の物語」を読みました。
人気SF作家テッド・チャンの名作短編『あなたの人生の物語』を「プリズナーズ」「ボーダーライン」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化した感動のSFドラマ。ある日突然地球に飛来した謎のエイリアンとの意思疎通という重責を託された女性言語学者を待ち受ける衝撃の運命を描く。主演はエイミー・アダムス、共演にジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー。ある日、宇宙から飛来した巨大な楕円形の飛行体が地球の12ヵ所に突如姿を現わし、そのまま上空に静止し続ける。その目的が判然とせず、世界中に動揺と不安が広がる。やがて、最愛の娘ハンナを亡くした孤独な言語学者ルイーズ・バンクスのもとに、アメリカ軍のウェバー大佐が協力要請に訪れる。こうしてアメリカに飛来した飛行体の内部へと足を踏み入れたルイーズだったが...
映画のあらすじはざっとこんな感じ。
1.ばかうけ
ところで、映画は公開当時”空飛ぶばかうけ”として話題になっていました。
公式同士がコラボしたポスターを比べてみると・・・
うん。
これは紛うことなきばかうけ。
形は加工されていないのだろうか。これはすごい。
本編以外でもこんなお祭り状態だったわけですが、何よりも物語としての仕掛けや構成が抜群で話題になっていました。
という訳で今回は数年前に映画を観た状態で原作を読んでみました。
※以下ネタバレ有です
2.現在と未来を受け入れること
地球に飛来した異星人ヘプタポットと、彼らの言語・文字を通してコミュニケーションを図る言語学者である主人公のルイーズですが、娘の記憶が随所で差し込まれます。
映画よりも小説の方が、その娘の記憶が過去のものなのか夢なのか分からないように描写されている気がします。
ヘプタポットB言語の習得をとおして、彼らの能力である『未来を見通す力』を手にした彼女。
徐々にゆるやかに彼らの能力と同期していくため、いつから?どこから?どうやって?が読者に分からないように書かれています。確定された未来に向かって現在を進んでいくルイーズ。
現在:ヘプタポットの言語を学び、地球人との通訳として交信を続けている
↓ 25年後
未来:自分の娘を失う
絶望の未来に向かって歩み始める彼女の姿が強烈で、(まだ産んでいませんが)母親としての力強さ、逞しさを感じました。
未来の哀しみと絶望を回避するために、違う行動をとることはできないのか。そもそも改変が不可能だと知っているのか。
だとしたら彼女が伴侶を選び子供を作ることを”選択”したのではなく、逃れられない運命を”決意”したといった方が正しいかもしれません。
たとえ絶望が待っていても、失われるであろう25年分の幸福な時間を夫と娘と過ごすことのかけがえのなさを希望に持っているのでしょうか。
何をもって生きる目的・意味とするのか、考えても結論のでない難しい問題です。
これは異星人を通して人間に問いかけられたSF哲学なのかもしれない・・・
いやーテッド・チャンは凄い。
3.おまけ
映画版は「メッセージ」となっていますが、小説版の「あなたの人生の物語」という題名がわたしはとても好きです。
「わたしの」ではなくあくまで「あなたの」
産まれ、そして亡くなっていく娘に宛てての母親からの手紙のようにも感じられます。