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【検証】 虫に合う酒を探してみた
虫を食べるときは、どの酒を合わせれば良いのか?
それを一刻も早く確かめなければならなかった。
理由は分からない。
ただ、「虫で酒を飲みたい」という衝動に駆られ、気づけば渋谷にある「昆虫自動販売機」の前に立っていた。
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あまりの虫の生々しさ(と値段の高さ)を前に、悩むこと5分。
コオロギの佃煮(800円)、カイコのサナギの煮干し(700円)、ミルワーム(700円)を購入した。
計 2100円。地味に高い。棒が刺さってるハンバーガーと同じくらいの値段である。
そんなわけで、今回検証に使う虫と酒はこちら。
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酒:日本酒、赤ワイン、ビール、ウイスキー。
うわぁ…これは….
完全にフレンチだ。
純白の皿の上に並べられた虫達。その芸術的なフォルムは、まさに見た目の美しさを重視するフランス料理そのものである。
そう、コレはフレンチなのだ。
フレンチ。コレはフレンチ。完全にフレンチ。僕は今からフレンチを食べるのだ。フレンチ。フレンチ、フレンチ、フレンチ….
そう自分に言い聞かせ、何とか意を決して検証を始めた。
〜検証方法〜
検証方法は至ってシンプルだ。
まず、虫をそのまま味わう。
その後、虫一種類につき、用意した4種類の酒を合わせていく。
虫と酒の組み合わせごとに、10点満点で点数をつけていく。
点数は僕の主観で決める。
では、早速コオロギから頂いていく。
・コオロギ(佃煮、ソース味)
食感は硬い。中身の入っていないエビに、エビの殻を詰めたような食感だ。
噛むと外骨格はすぐ粉々になるが、翅だけはバラけずしばらく口に残る。
正直、口当たりが良いとは言えない。
薄いソース味がするばかりで、幸か不幸かコオロギ自体の味はほとんど感じられない。
これでは検証にならないので、コオロギエキスをしっかりと感じるため、舐めるようにゆっくりと食べてみた。
徐々にバラバラになっていくコオロギ。
僕の口内は、まるで冬の始まりの様相を呈している。
脚、頭、翅。
噛んだ時と違って、それぞれのパーツをしっかりと認識できる。
ふと、ほのかな苦味を感じとった。何とも形容し難い苦味だ。
雑草の苦味のような青臭い感じでもなく、魚の内臓のような苦味とも違う。
でも不思議と嫌な感じはしない。
これがコオロギの味なのかは分からないが、その苦味とソース味、そして僅かな塩味以外は感じ取ることができなかった。
・コオロギ x ビール 3/10 点
前述の通り、コオロギは噛んだ瞬間、粉々になる。
ビールと粉々のコオロギが触れ合った瞬間、なぜか突然めちゃくちゃ泡だった。口の中でコオロギ粉とビールの泡が混ざり合い、地獄のメレンゲが出来上がる。
最悪な喉越し。こんなにビールと合わない食材は初めてだ。
・コオロギ x ワイン 4/10 点
弱すぎるコオロギの味が、ワインの渋みで全部消えてしまう。
口に残るのはワインで湿ったコオロギの翅だけ。
不味くは無いが、コオロギの存在感が一切なくなってしまった。
・コオロギ x 日本酒 6/10 点
キリッとした日本酒の風味が、コオロギ佃煮のソース味と塩味を引き立たせる。
正直日本酒はあまり好きでは無いが、一番コオロギの佃煮を楽しむことができた。ただ、あくまでも佃煮と相性がいいだけで、コオロギと合っているかは疑問だ。
・コオロギ x ウイスキー 5/10 点
驚くべき事が起きた。
ウイスキーを吸収してふやけたコオロギは、噛めば噛むほどウイスキーの芳醇な甘味がする。ウイスキーガムに早変わりしたのだ。
文章にすると気味が悪かったので、2点減点した。
総評:
全体的に低い点となってしまった。サクサクで薄味のコオロギは、ヘルシーなスナック感覚で食べるには丁度良いが、酒と合わすには物足りなかった。
・カイコのサナギ(煮干し、甲州味噌味)
正直サナギを食べるのはかなり抵抗があった。僕は昆虫のサナギがめちゃくちゃ怖い。まるで意味が分からないからである。
しかし、だからと言って拒絶するのは、サナギに対して失礼である。それは僕の倫理観が許さない。
少しでもサナギに歩み寄り、恐怖感を和らげるため、Wikipediaでサナギの事を調べてみた。
蛹は成虫の大まかな外部形態だけが形成された鋳型である。その内部では一部の神経、呼吸器系以外の組織はドロドロに溶解している。蛹が震動などのショックで容易に死亡するのは、このためである。幼虫から成虫に劇的に姿を変えるメカニズムは、CTスキャンで観察できる[1]ものの、未だに完全には解明されていない。
調べなきゃよかった。
ここまで食欲を削ぐ文章が他にあるだろうか。とんだ怪文書である。
楳図かずおの漫画を読んでいる時と同じ気持ちになった。怖い。怖すぎる。そしてキモい。
しかも、未だに完全に解明されていないらしい。
せっかく歩み寄ろうとしたのに、サナギ側から拒絶されてしまった。
失礼すぎる。
サナギを調べたのは完全に裏目だったが、ここで諦めるわけにはいかない。
700円もしたのだ。
恐怖心を押し殺して、カイコのサナギを口に運んだ。
何だこれ…めっちゃ美味い…
煮干しにされたカイコのサナギは、まるでナッツのような食感。
味も完全にナッツである。これがカイコか。先程は腹を立ててすみませんでした。
口に入れた瞬間はあまり味がしないが、噛んで3秒後くらいに突然、濃厚でまろやかなカイコの味が口に広がる。多少の土臭さはあるが、そこまで気にならない。
飲み込んだ後もしばらく口の中にまろやかな風味が残っている。
確信した。これは絶対に酒にあう。
・カイコ x ビール 6/10 点
ナッツでビール飲んでる感じ。普通のナッツより後味が残りやすく、ビールを飲み込んだ後もカイコの味が口に広がっている。
ただ、カイコにうっすら甘味がある(味噌の味?)のが、微妙にビールと合わない。
・カイコ x ワイン 8/10 点
コレは…めちゃくちゃ合う。ワインの渋みと合わさると、カイコの濃厚なミルキーさが際立つ。喧嘩する事なく、お互いの味を引き立てあっている。完璧なマリアージュだ。
・カイコ x 日本酒 7/10 点
日本酒の辛みが、カイコのマイルドさで中和され、とても飲みやすくなった。日本酒が苦手な僕でも、カイコと一緒ならバンバン飲める。
・カイコ x ウイスキー 6/10 点
うーん。悪くない。悪くないけど、美味しいものを別々に口に入れている感じ。混ざらない。引き立て合わない。
総評:
食べる前はあんなに怖かったカイコのサナギも、今はとても愛おしい。まさか、こんなに優しい味がするとは思わなかった。お母さんのようである。
優しいが、しっかりとした味わいで、重みのある酒にも決して劣らない存在感だ。
・ミルワーム
見た目は相当グロテスクだか、カイコのサナギを食した僕にもう怖いものなどない。虫を食べることに一切抵抗が無くなった。
一匹だと小さすぎて味が分からないので、数匹を摘んで口に運ぶ。
サクサクして、とても軽い食感だ。
カイコのような濃厚な味わいは無い。
しかしよく噛んでいるとだんだん、香ばしい風味と程よくコクのある油感が口の中に広がる。
クセがなく、コオロギやカイコと比べても圧倒的に食べやすい。
虫でさえなければ、大人気食材間違い無しである。
・ミルワーム x ビール 10/10 点
最高だ。サクサクとした食感と後に残る香ばしい油の風味がビールを引き立たせる。居酒屋のお通しで出てきても驚かない完成度。THE ビールのおつまみである。飲み込んだ後も、暫く心地の良い香ばしさが口の中に残り、余韻に浸れる。
・ミルワーム x ワイン 5/10点
悪くないが、ワインと合わせるには味や食感が軽すぎる。
白ワインならまだよかったかもしれないが、2種類のワインを用意する経済的余裕は僕には無い。
・ミルワーム x 日本酒 5/10 点
日本酒を口に含んだ瞬間、ミルワームの香ばしさが洗い流されてしまう。
それはそれで良いのかもしれないが、僕は少し物足りなさを感じた。
・ミルワーム x ウイスキー5/10 点
ワインと同様、ミルワームの味がウイスキーに負けてしまう。
癖がなく食べやすい反面、重い酒のアテにするには淡白すぎるのかもしれない。
総評:
見た目に反して、味にクセがなく、食感もいいのでとても食べやすい。しかしそのせいで、ウイスキーやワインと合わせると物足りなさを感じてしまう。
飲み初めにビールと一緒につまむのなら、最適な虫だ。
◇
こうして、無事に検証は終わった。
一口に虫と言っても、種類が違えば味も全く違ってくる。
昆虫食の世界の奥深さを垣間見ることができた。
「虫で酒を飲みたい」という怖いもの見たさの衝動は、「他の虫も食べてみたい」という純粋な好奇心へと変わっていた。