ダリ劇場美術館50周年記念でダリの世界にどっぷり浸る
サルバドール・ダリと言えば、スペインのカタルーニャ州が誇るシュールレアリスムで知られる画家。誰でもいくつか彼の絵を見たことがあると思います。
そしてカタルーニャ州の州都であるバルセロナでもサルバドール・ダリの肖像良く目にします。インパクトのある髭で有名なダリ。
そのダリは、バルセロナから北東に140キロ、フランスとの国境からは僅か40キロのところにあるフィゲレスという町の出身。
そのフィゲレスにはダリ自らが創設したダリ劇場美術館があります。1974年9月28日に創立してちょうど50周年。その記念行事が行われるとのことで今回訪れてみました。
ダリといえば、マドリードのソフィア王妃芸術センターのダリの絵画のコレクションも素晴らしかったです。以前こちらで書いています。
ダリのオブジェが並ぶガラ=サルバドール・ダリ広場
ダリ美術館の正面とその右手にあるガラ=サルバドール・ダリ広場。小さな広場ですが、ダリの彫刻やオブジェがいくつかあります。
ダリらしいシュールレアリスムの作品。
ダリの友人で哲学者であったFrancesc Pujolsの像
何を象徴しているのかこのオブジェもいくつかあります。
木の幹の天辺に卵の頭、そして銅像や彫刻が埋め込まれている不思議な像。
美術館に入る前からダリの作品を楽しめます。
奇抜なダリ美術館の外観
ダリ美術館の正面玄関を少し離れたところから見ると、昔ながらの劇場の建物の後ろにガラス張りのドーム。このドームはダリ美術館のために50年前に作られたドーム。
1930年代のスペイン内戦で廃墟となった劇場を改装してできた美術館で、劇場の舞台や観客席を存分に活かした造りになっています。
内戦後、廃墟と化した劇場。
現在の姿。
一見スペインでよく見るようななんの変哲もない建物ですが、正面ファサードの装飾をみると鎧兜の上にパンが乗っています。なんでもパンはダリのフェティッシュの対象だったそうで、度々パンを描いています。そして金色に輝くのはアカデミー賞のオスカー像もどき。
ぐるっと裏に回ると写真でよく見る上に大きな卵が乗った塔。これは中世の城壁一部だった塔だそう。
建物の壁の黄色いぽつぽつは良く見ると…
古くからカタルーニャ州にあるCrostonsと呼ばれるパン。このインスタの3枚目の写真はダリが帽子としてかぶっている姿です。
外観をぐるっと周るだけでも楽しいです。
ダリ美術館ツアーでダリの世界に
さて今回のダリ美術館創立50周年を訪れた一番大きな理由が、無料のガイドツアー。普段は普通見学でも拝観料はそこそこするのでまたとないチャンス。
そしてこの日のもう一つの特典は、入場者にもれなく「ダリの髭」が配布されるとのことでこれも楽しみにしていました。鼻の穴に突っ込んで固定させるタイプで誰でも皆ダリになれます。
入口を入るとビジターの数の割にはこじんまりした玄関。ダリの写真などが飾られています。
ダリが演じる劇場のステージ
まずはもともとの劇場の舞台だったホールへ。ここが美術館の中心です。
天気が良かったのでドーム上に真っ青な空が映え、眩しい光が降り注いでいました。舞台から観客席の方を見ると、観客席があった部分は現在は屋根はなく、中庭のようになっています。2階以上のギャラリーは木造で内戦の戦火で焼けてしまったそう。
舞台には目の錯覚を利用した絵などがありなかなか面白かったです。ネタバレになってしまうと面白くないのでここではさらっと全体の景色だけ。
そしてこの舞台の中心に何があるかというと、分かりますか?
この真下にはダリ本人のお墓があります。下の階に降りてみると墓石がありました。目立ちたがり屋で突拍子もないことをしてきたダリにしては随分と地味でびっくりしました。ただ、劇場の舞台の真ん中に自分の墓を設けたということは、やはり自分は主役というアピールなのでしょう。
キャデラックと不思議なオブジェの中庭
中庭にはダリが実際に使用していたキャデラックと不思議なオブジェ。逆さまの舟から雨が降っています。
改装前の中庭にダリが立つ写真が残っています。
中庭の窓にもオスカー像もどきがずらり。てっぺんに見える白いTの字のようなオブジェは、Roca社製造の洗面台。エンジェルを模しているそうです。
細かいところまでこだわりがあるのでいろいろ探してみると面白いです。
ダリにとって特別の思いがある風の宮殿
ダリは、わずか14歳の時にこの劇場のサロンで初めて個展を開いたそうで、この劇場が如何にダリにとって特別な場所だったことが分かります。その個展が開催されたサロンには天井にダリの絵が一面。すでに高齢だったのでフレスコ画は描かずに、自宅でキャンバスに描き天井に張り付けたそう。
そしてダリといえば溶けてる時計。ここにも描かれています。よく見る溶けている時計の絵はニューヨークのMOMAにあるので、こちらでも見れるとは思っていませんでした。ほかにも、良く知られている足の長い動物たちも背景にいます。
こちらにも。
ダリはこのサロンを「風の宮殿」と名付け、美術館開館後の晩年はこの宮殿に住んだそうです。ダリの寝室がそのまま残っています。なんとも奇抜なベッド。
当時美術館にダリの絵を見に行ったら、ダリ本人がローブを纏って出できたなんてことがあったりしたのでしょうか?想像するだけで面白いです。
普段目にしないようなダリの絵画の数々
普通の絵画もいくつかの部屋に分けて展示されています。
シュールレアリスムに到達する前に描いたキュービズムの作品。
ダリの妻、ガラ・ダリがモデルの絵。
ダリの女性像と言えばいつも妻のガラ。ガラはダリが買い与えたフィゲレス郊外のお城に住み、ダリは事前に許可を得ないと彼女の家を訪問できなかったそうです。もともとオープン・メリッジの関係だったそうで、仲が良かったのかどうなのか微妙な関係のようですが、ダリは溺愛していたようです。
マドリードのプラド美術館にあるベラスケスの「ラス・メニーナス」を題材にしたダリの絵。ピカソも独自に解釈した「ラス・メニーナス」を描いていますが、ダリも描いていました。スペイン人画家としてはやはり避けて通れない絵なのでしょうか?
ダリらしい風景に「ラス・メニーナス」。
マティス?と思った作品もダリでした。
こちらがマティスの絵でやはり似ています。
ピカソの青の時代?と思った作品もダリ。
ピカソの肖像画もありました。
「ソフトな自画像とベーコン」という題。ダリ本人の自画像です。
石から成る人物画の絵画もいくつもありました。
シュールレアリスムの作品。フィゲレスやダリの住んだカダケスを思い起こす景色。ダリの風景画はどこか寂し気です。
こんな中世の本の挿絵のような絵もたくさんあり楽しいです。
1時間のツアーで、そのあと1時間見ていないところをゆっくりまわりました。まだまだたくさん面白いものがありましたが、ここではほんの一部だけ紹介しました。
ダリがデザインした眩いジュエリーの数々
最後に、出口を出たところのすぐにあるダリのジュエリー展。かなり目立たないところにあります。中に入るといきなりこれ。
宝石店に依頼されて作ったものらしく、ダリのデッサンが素晴らしいです。
これが実際のジュエリー。
実物のジュエリーよりダリのデッサンに惹かれました。
いろいろな宗教画も描いたダリ。十字架もダリが描けばこの通り。
歯が全てパールになっているアクセサリー。
第二次大戦後は、「金儲けに走った」として批判されることが多かったダリ。ジュエリーデザインやテレビコマーシャルなどすぐお金になる仕事をたくさん引き受けたといいます。ダリ本人も「お金は自分に自由を与えてくれる」と認めています。
チュッパチャップスのロゴのデザインをはじめ、ポップカルチャーのアイコン的存在にもなったダリ。
ダリ劇場美術館は晩年にダリ主導によって完成した美術館で、いかに人々に楽しんでもらうかよく考えられた、美術館というよりはダリによる「ワンマンショー」と言っても過言ではないと思います。アーティストという枠を超えて完全に「エンターテイナー」。50年以上経っても人々を魅了してやまない、今でも新しいと思える彼のアート。やはり本人が言うように「天才」なのでしょうか。
カタルーニャの伝統、巨大なダリ夫婦が舞う
そして、この日は夕方から50周年記念の式典が行われるとのことでした。カタルーニャ州のお祭りのお決まりである巨大人形の舞や伝統の踊り、プロジェクション・マッピングやバルセロナのセレブ・パティシエ、クリスチャン・エスクリバによる巨大ケーキ披露などが予定されていました。残念ながら、電車の時間の関係で後半は無理そうだったので一番最初の巨大人形の舞だけ見ることにしました。
市庁舎前広場に行くと、ダリと妻ガラの巨人がすでにスタンバイしていました。
しばらくすると鼓笛隊の音楽と共に軽やかなステップで踊り始めます。伝統的な音楽と踊りですが、実在の人物の巨大人形は見たことがないのでなかなか面白いです。
ちなみにエスクリバ氏による巨大ケーキは建物の外観だったよう。
ダリの世界にどっぷり浸かった1日でした。次回はフィゲレスのまち歩きでダリに縁のある場所を訪れます。
フィゲレスへの公共機関での行き方はこちら。