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【禁煙小説】離煙生活の真髄vol.6【山口裕介】

【離煙生活ー2日目ー】

山口「どんどん肩身が狭くなりましたね」
パーカー男「そろそろやめどきかな、あはは」


そういうと男は夜の暗がりに消えていった。

俺もそろそろやめどきだろうか。
このコンビニで仕事を始めたとき、俺は番号を言ってもらえなければ客のほしいタバコもわからない青二才だった。しかし、銘柄を一つ覚える度に、タバコに興味を持ち始め、今では立派な喫煙者だ。



しかし、社会の流れは喫煙者を排除するように、タバコの値段が上がるのと比例して嫌煙の風潮は高まっている。

1,2年前なら堂々と公園で一服できたものだが、今では園庭のない幼稚園、保育園も増えたせいか、昼間は公園を園児達が独占しており、タバコなぞ吸えたものではない。
コンビニの灰皿もどんどん撤去が進み、物理的にも喫煙者はどんどん端に端にと追いやられている。そういえば歩きタバコを目にすることも増えた気がする。

タバコを一本吸い終えた俺は、コンビニに戻り、トイレの洗面所でニオイ消しに手を洗ってバックヤードに戻った。
スマートフォンを手に取り、ネットでくだらないYouTuberの動画を見る。別に興味もない内容で、タイトル詐欺の子供だましとわかっていながら、いつの間にか交代の一時間が経過していた。



A「山口さん、時間でーす。交代してもらっていいですか?」
山口「あきゃんきゃん!あぁ、わかってるよ。Aも一服しに行かないとね。」
A「ありがとうございます。そういえば、山口さん、実は俺…」

俺は、直感でAがタバコをやめたのではないかと思って、なんだか寂しい気持ちになった。

A「俺、実はこの一週間タバコ吸ってないんですよ。」

あぁ、なんだ、禁煙ではなかった。仲間が旅立ってしまうのでは、と思ったが…。安心した。

山口「そうなんだ、体調でも悪くした?」
A「はい、ちょっと風邪気味で…。少し吸わない時期作ろうかと思って。」
山口「そっかそっか、でも吸いたくなるでしょう。」
A「それが全然平気なんですよ。これ見てください。」

そう言うと、Aはおもむろに大量のガム、飴、グミ、を見せつけてきた。

山口「あきゃんきゃん!なんだそりゃ、すごいな」
A「そうでしょう。でもこれのおかげで、別に全然吸いたいイライラとか感じないんですよ。ニコレットもいらないですよ。はは」
山口「あっそ。じゃあね。」

俺はAとの会話に飽きたので、サイコパスのごとくいきなり話を切り上げてレジに向かった。困惑するAの表情を思い出すとゾクゾクする。あのクソ青二才が、セッターを1日2箱も吸うヘビースモーカーのくせに。得意げになりやがって。なぜだか知らないが悔しさがこみ上げてきた。


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