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この、奇妙な椅子取りゲーム
高橋幸宏率いるMETAFIVEが2016年に発表したアルバムに収録されたナンバー「Musical Chairs」。
Musical Chairsとは椅子取りゲームを意味していて、その歌詞はメタファーに満ちています。
操られる苦痛の世界で
誰も気にかけない狂気の中
繰り返される椅子取りゲーム
勝者なき悪夢に囚われて
やめたいのに抜け出せない
要約すると、こんなことを訴える歌詞です。
ここで語られる奇妙な椅子取りゲームとは、競争社会を象徴しているのでしょう。
欲しいものが全員に行き渡ることは稀であり、その希少性によって競争は激しさを増します。やがて、本来は結果にすぎない「勝ち負け」が目的化し、歪んだ人間関係やしがらみを生む原因となっているのではないでしょうか。ミクロレベルでは職場の出世競争などがその一例だと思います。
私たちがこのゲームを止められないのは、競争が社会のルールとして組み込まれているからです。ルールがなければ統制が失われ、資源の無秩序な消費を招くため、競争は必要なのでしょう。
しかし、競争結果にこだわりすぎることは、ちっぽけな個人にとってストレスを呼び寄せるだけ。「競争を超えた共生社会」を夢見たりしますが、現実はどうにもなりません。
さて、先ごろ、自国の利益こそ最優先と主張する人物が大国の元首に返り咲きました。
ジェンダーフリーやカーボンニュートラルの潮流を否定し、ともすれば勝者総取りの椅子取りゲームを標ぼうする言動に、端から見れば「これからどうなるのだ?」とネガティブなイメージしか浮かばないのですが、これもかの国の民に支持された結果です。
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言葉にできないモヤモヤした感情を言い当てられた瞬間、ヒトに強い共感が生まれると言われます。
椅子取りゲームから抜け出したいと願う一方で、ゲームの終わりが見通せなくて、多くの人々がそこで続けざるを得ない幻想を奥底で抱かされていることを、かの元首は見抜いているのかもしれません。
このゲームから降りる勇気こそ、次の未来を創る鍵…なのでしょう。