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どこいくアメリカ、わたしのMAGA家族のこと

トランプ政権、おっぱじまりました。

初日から信じられないような大統領令が次々と発令されて、大混乱のアメリカ。第一期の時もそうだったけど、派手な政策・発言はスケープゴートで、実は別のアジェンダから目をそらす目的もあるので、思う壺にならないように注意が必要ではある。

それにしても、一体なにがどうなってアメリカはこうなったのか?

今回はその中の3つの要因について。

一つ目。新自由主義とグローバル化によって損なわれた労働の尊厳。

4~50年前から始まったネオリベラリズムと言われる新自由主義的グローバル化が貧富の差を信じられないほどに拡大させた(貧富の差を米粒で表したビデオをご参照ください)。新自由主義とは、政府の経済活動への介入を最小限に抑え、市場原理に基づいた自由な競争を促すことで、経済の効率化と発展を促す考えのこと。

 民主党(トランプじゃない方)の中道左派も、この金融主導で市場寄りのグローバル化を受け入れてきた。

新自由主義的なグローバル化は、国外生産のコストを下げ、消費者としての米国人を助けたが、その代償として、生産者としての米国人に深刻な打撃を与えた。生産を安い国外に頼れば、米国人は仕事がなくなる。衰退し錆びれた中西部の工業都市では、人々は最低賃金のパートタイム労働で健康保険にも入れず細々と暮らしている。そうした人々が、自分たちは国に見捨てられたと感じてきた。

2つ目。能力主義によって分断された文化。

往々にして太り気味の労働者階級と、彼らの揶揄する「Woke(意識高い系)」と言われる食や運動にこだわるエリート階級。彼らを隔てる大きな壁が、大卒か大卒ではないかという点だ。大学は教育のみでなく新しい生活スタイルへの社会化を促す場として機能しており、人前や職場での身の処し方、食事の内容、子どもの人数と育て方、お金の管理方法など、大卒者と大卒ではない者との間に文化的格差が存在している。それだけなら別にライフスタイルの違いだと流せば良いことなんだけど、そうはならないのには、意識高い系と労働者階級を分断する「能力主義」にある。

ビル・クリントンも、オバマさんも、ヒラリー・クリントンも「グローバル経済の競争に勝ちたければ大学に行け。どれだけ稼げるかは何を学ぶかにかかっている。努力さえすればなんとかなる。」というメッセージを打ち上げてきた。

そもそも不平等をもたらしている構造的な原因、つまり新自由主義的なグローバル化の欠陥には目をつむり、温存しながら、経済で苦しんでいるのなら、それは自分のせいだと思わせる労働者への暗黙の侮辱が、このメッセージには含まれていた。

現実の世界では、既に98%のピザは2%の富裕層が独占していて、残り2%のピザ切れを98%の人々で奪い合っている状況なのだから、ピザ切れの配分が変わらない限り、大卒者を増やしたところで取り分は減るばかり。

更に富裕層たちは傲慢にも、その成功は自分の能力と努力によるもので、苦労をしている人はそれに値する道を選んできたのだと考えるようになっていった。実際は生まれた家庭や環境がその後の道筋に大きく影響しており、能力主義と言いながら、社会階級の温存になっている。素晴らしい能力を持って生まれても機会に恵まれず埋もれていく才能は蟻の数ほどある。まれに貧困からのし上がれた人がいるのも事実であるが、だからと言ってその限られた少ない椅子に座れなかった人たちの能力や努力が足りなかったとはならない。

能力主義に込められた労働者への暗黙の侮辱を受けて、労働者はエリートたちが自分たちを見下し、自分たちの仕事に敬意を払っていないという不満や憤りを募らせてきた。そこにエリートに対峙する代弁者を装うトランプのようなデマゴーグがつけこんだわけだ。そもそも、トランプは一期目に労働者のためになるような政策には取り組まなかったのにね。

実はバイデン政権の方が、新自由主義から脱しようと労働の尊厳を取り戻す政策に意欲的に取り組んでいた。大卒ではない人の雇用を生むインフラへの巨額投資や、グリーン経済化で政府に積極的な役割を与え、独占禁止法を厳格に執行し大手ハイテク企業への権力の集中に対抗しようとした。これがテック富裕層の反発を招いたわけだけど。これらの政策の恩恵が労働者に行き渡るのには時間がかかるもので、その功績は目に見えにくかった。

せめてニューディールをやったルーズベルトの時のように、これが全く新しい政治哲学なのだと、自身の様々な政策の象徴するもっと大きな意味を、国民に分かりやすく感動的な言葉で語れたら良かったんだけど、バイデンは議会との法案の交渉には長けていても、レトリックには長けていない大統領だった。本当はそれは悪いことじゃないんだけど。

さて、これからどうすればよいか。

経済権力の集中を牽制する機関としての政府による、もう少し上手にピザを分け合えるシステムの構築(ヨーロッパの一部の国々はこれを既にしている)。能力主義からの脱却と再定義。働くことの尊厳の回復。そして分断ではなく寛容。課題は山積みだ。急進的と言われたけど、この辺はやっぱりバーニー・サンダースさんの打ち出していたところに近いんだよなぁ。2016年に民衆が選んだ通り民主党はサンダースさんを選んでいれば…。

寛容性に関しては、自分はここに属していて、お互いがお互いに影響を及ぼし合っているのだと感じられる、多様な階層の人が物理的にお互いを感じられるような場所づくりが必要かもしれない。ニューヨークの電車などは良い例で、空間を共有することで、色んな人の存在を感じられるし、同じ社会に生きる市民なのだという感覚が自然に湧く。地方都市でも、そうした空間の再構築ができればいいのかもしれない。

と、ここで私の義実家MAGA (Make America Great Again)家族を見た考察を少し足したい。そしてこれが、私の考えるアメリカがトランプを選んだ要因の3つ目になる。

義父も義兄たちもウェストバージニアの炭鉱夫なので(義父は元炭鉱夫)、いわゆるMAGAど真ん中。親族の中で私の夫だけが唯一大学を出ている異端児で、学生ローンで院まで出たので、今も毎月多額の返済をしているんだけど(これもまた富裕層から大学を出た人と、貧困層から大学を出た人のスタートラインに差を作る大きな要因の一つになっているんだけど)、彼らと私たちの似ても似つかぬ最大のポイントは、言葉で考えるのが苦手か得意かってところと、迷信深いか現実主義かってところだ。

義家族のMAGA男子は感覚とノリで生きていて、何事も、「まぁまぁまぁ」とうやむやにして、感覚としてのブラザーフット感で乗り切りがちというか、それでも人に優しく寛容であればいいのだけど、排他的で人種差別的なのである。そして排他的で不寛容なことについて言葉で指摘されることをすごく厭がる。

義実家のMAGA女子たちも、すごく感情的というか、薄い表層の決めつけやステレオタイプで誰かを責めたり批判することで自分は大丈夫だと脆弱な地盤の上で大騒ぎしているようなドラマクィーン的生き方をしている。これもまた、本人たちの自由であるが、排他的差別的となると話はそうシンプルではなくなる。

そして、MAGA家族は超常現象にギラギラしがちで非常に迷信深い。Xファイル的な世界で生きているというのか、彼らの世界は危険や怪奇現象に満ちている。夢に出て来たキリストの言葉とかをマジで信じたり(いいんだけどさ)、キリスト教の中でもカルト的グループに属していて、独自の教義を信じていたりする。それで、彼らの心が平安であるのなら別にそれに文句を言うつもりはないけど、問題なのは、その教義の中に強烈にLGBTQIA+の人たちへの嫌悪や人種差別や気候危機陰謀論などが含まれている点。

しかも、その教えに従わなければ、マジで地獄に落ちると信じていて、義父によれば、地獄というのは火に焼かれるとか云々ではなく、全くなにもない虚無の空間に、自分の意識だけが永久に閉じ込められる状態、というので、そりゃ怖いわ!と危うく納得しそうになる。つまり、すごく感覚的に生きてるのだ。

なので、ご察しのとおり、フェイクニュースや陰謀論にめっぽう弱いのである。エリート云々、能力主義云々、経済云々のもう一個前、子どもの頃から前頭葉、メタ認知を鍛える教育をするのがまず大事では?という気がする。はたまた、すごく感覚的なところでストンと腑に落ちる「仲間意識」というか、「そうはいっても人間みんな同じだよな」みたいな感覚を得られる経験をできればいいのかな?とも思うけど、謎のカルト的宗教観がそこに混ざると、それもすごく難しい。

考えることを考える力、メタ認知の教育、やはりここかな。今学期も頑張ろっと。

*この記事を書くのに参考にしたのは、ニューヨークタイムズの記事あれこれと、朝日新聞デジタルのハーバード大学の米政治哲学者マイケル・サンデル教授へのインタビュー記事(2025年1月23日掲載)とコロンビア大学の米政治哲学者マーク・リラ教授へのインタビュー記事(2025年1月9日掲載)です。

**アメリカ在住の方で、なにかしたいけど、なにをどうすれば良いか分からないという方、ACLU https://www.aclu.org/ の活動のサポートや、アクティビズムへの参加ならIndivisible https://indivisible.org/ という団体が個人的にはお勧めです。


そしてついでに、今週のポッドキャストも、あやさん主導回、フェミニズム第2話「個人的なことは政治的なこと」女性の抱いた名前のない問題や妊娠中絶権問題など、60年代のラディカルフェミニズムのお話です。