一層あわただしく、加速的に押し寄せる"変化"の連続は、ぼくらを幸せに、豊かにしてくれているのだろうか。 | 『PERFECT DAYS』 / 監督:ヴィム・ベンダース
道を掃く竹ぼうの音で目を覚まし、ヒゲの長さを昨日と同じにし、スカイツリーともにその日のカセットテープを流し、"職場"に向かう。
こうして、彼にとっての完璧な一日が始まる。
見知らぬ人からも、兄弟からも、年下の同僚からも価値のない仕事として見られる「トイレ清掃」という仕事に真摯に向き合う。この仕事も、完璧な1日の一部。
彼は世間や周りからそれがどういう価値にあるのか、ということを気にせず、それの中に自分にとっての心地よさや好きを見つけ、そのものを堪能する。それの多くは、過去のものとされたり、価値のないものと烙印を押されたり、見落とされているもの。平山は、下を向くことはほとんどなく、よく空を見上げる。その仕草と表情が、彼が前向きに日々を送っていることを教えてくれる。
周りから見ると几帳面なまでにルーティンをこなし、同じ毎日を送っているように映るかもしれないが、きっと彼にとっては同じ行いや景色の中にも微細な変化や動きがあり、それを見つけ、見つめることこそが豊かな時間。
彼の信じるものを疑う者、そこに魅力を見出す人。様々な人との出会いや触れ合いが彼の完璧な一日一日に揺さぶりをかける。それによって、揺らいだり、揺るがなかったり。変えないことに固執するわけでもなく、そのときそのときに起こることに純粋に反応していく。
「今度は今度、今は今」
「どうして変わらないでいられないんだろうね」
自分の感覚を大切に育て、心の声に耳を傾け、素直に生きる。平山はとても人間的だ。
こんな人いるのかな、と思わされる序盤から2時間経つ頃には、平山は確かに存在しているように感じる。役所広司が名優と言われる所以は、演技の上手さなんて次元のものではなく、この実在感なのではないだろうか。
変化に必死にしがみつくのでなく、立ち止まり、目の前のものに面白さを見出すことができる。この姿勢と生き方こそが、本来的に豊かということなのではないだろうか。ただこんな生き方の人が生きていくには、ますます生きづらくなる社会環境。変化に対して冷静になり、平山のような価値観を持つ人が、「変化を起こす側」にも増えてくれることを切に願う。
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