読まれることのない、

自分がそのときに何を考え、何を感じていたのか。顧みられることのないそれらの、ほんのほん…

読まれることのない、

自分がそのときに何を考え、何を感じていたのか。顧みられることのないそれらの、ほんのほんの一部だけでも。

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「怒られ」は、はじまりである。 | 『怒られの作法』/草下シンヤ

決してタイトルに騙されてはいけない。これは”作法”について教えてくれる類の本ではなく、生きる姿勢や精神性について語られた本である。「怒られ」という、できることなら避けて通りたい事象を通して、他者とどのような関係を築きたいかを読者自身が問うきっかけになる、またそういった内省が促されるような本。 本書の主旨を、このように受け取った。これは「怒られ」という事象に対する見方が180度変わる、鮮烈かつ説得力のある指摘。 いわば、「怒られる」という一方的に押し付けられる絶望から、「関

    • この作品が突きつける”真実とはなにか”という問いの深淵さ、答えのなさになんとも言えない気持ちになる。 | 『落下の解剖学』/監督:ジュスティーヌ・トリエ

      事件の真相を突き詰める行為とは、事件の当事者とその周辺にいる人物、そしてその人間関係を解剖(解体)する行為である。その解剖作業は赤の他人が担い、法廷という場で事件とはまったく無関係な傍聴人にまで晒され、ときにはメディアを通して、国中にまで知れ渡ってしまう。ミステリードラマの真相を予測するかの如く、無関係な人々の日常会話の題材にまでなってしまう。 真実を明らかにするためとはいえ、よくよく考えてみるとなんともむごい構造だ。”100%事実だと証明できる客観的な事実”なんてものはほ

      • 一層あわただしく、加速的に押し寄せる"変化"の連続は、ぼくらを幸せに、豊かにしてくれているのだろうか。 | 『PERFECT DAYS』 / 監督:ヴィム・ベンダース

        道を掃く竹ぼうの音で目を覚まし、ヒゲの長さを昨日と同じにし、スカイツリーともにその日のカセットテープを流し、"職場"に向かう。 こうして、彼にとっての完璧な一日が始まる。 見知らぬ人からも、兄弟からも、年下の同僚からも価値のない仕事として見られる「トイレ清掃」という仕事に真摯に向き合う。この仕事も、完璧な1日の一部。 彼は世間や周りからそれがどういう価値にあるのか、ということを気にせず、それの中に自分にとっての心地よさや好きを見つけ、そのものを堪能する。それの多くは、過去

        • 本当の「その人らしさ」とはなんだろうか。そもそも、唯一無二の「その人らしさ」なんてものは存在するのだろうか。|『ある男』 / 監督・石川慶

          出自、名前、国籍、職業、経歴、役割、ルックス、といった"ラベル"。 その人間が持っているラベルに付随する情報や性質によって、その人間のことを素早く理解する。そういった人間のある種の防衛本能が、その人自身の本質とは関係なく、他者から見た「その人らしさ」を形成する。そして、その人の言動行動がそのラベルに当て込まれ、「やっぱり、あの人はああいう人だから」と都合よく断定されていく。 本当の「その人らしさ」とはなんだろうか。そもそも、唯一無二の「その人らしさ」なんてものは存在するの

        「怒られ」は、はじまりである。 | 『怒られの作法』/草下シンヤ

        • この作品が突きつける”真実とはなにか”という問いの深淵さ、答えのなさになんとも言えない気持ちになる。 | 『落下の解剖学』/監督:ジュスティーヌ・トリエ

        • 一層あわただしく、加速的に押し寄せる"変化"の連続は、ぼくらを幸せに、豊かにしてくれているのだろうか。 | 『PERFECT DAYS』 / 監督:ヴィム・ベンダース

        • 本当の「その人らしさ」とはなんだろうか。そもそも、唯一無二の「その人らしさ」なんてものは存在するのだろうか。|『ある男』 / 監督・石川慶

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          そのひと限り、そのとき限り。感情も、コンディションも。|『夜明けのすべて』 / 監督・三宅唱

          映画を観て、その時に抱いた気持ちや考えを書き残しておく。気が向いたときに、自分の感情の記録として、自分のために行っていたその行為を、誰かのために残してみようと思った。閉じた場所で行っていた、その行為を開いてみようと思った。 「誰かが遺したものが、いつか意図しない形で、見知らぬ誰かの心を動かし、そこから生まれた行動が、また誰かの心をも動かしうる」 この映画を観て、そのことのかけがえのなさを感じ、自分だけの感情の記録を他者が触れられる場所に開いてみることにした。かといって読ま

          そのひと限り、そのとき限り。感情も、コンディションも。|『夜明けのすべて』 / 監督・三宅唱