helwaコンテンツfor「英語史ライヴ2024」出品作品③密室と英語語源辞典

タイトル「私たちを密室から外へ連れ出す「英語語源辞典を読む」」

 つい最近、20代若者のあるボヤキを聞いた。育った自宅のトイレはもちろん洋式。ところが、小学校に通うと和式のトイレしかない。親からは「同じようにやりゃあいい」と言われていたので、やってみるのだがなかなかうまくいかない。仕方がないので片方のズボンだけ脱いで済ませ、その後はズボン全脱ぎで対応していたという。そして、二十歳を過ぎ、ひょんなことから和式トイレの使い方を知るって茫然、失われた20年にため息をついたという。 

 私たちは家庭や学校において生きるために必要な知識を学び、身につけていく。もちろん、正しい知識を身につけるのが一番だが、たとえ間違っていても周囲が気づけば注意してくれる。が、例外がある。密室における場合だ。間違ったやり方をしていても誰も気づかない。修学旅行の大浴場でいきなり湯船にザブン、先ほどの若者の例でいえば、ずっと不必要な行為をやり続ける、ということになる。

 「英語語源辞典を読むシリーズ」が好評だ。コアリスナー・lacolacoさんの提案ではじまったこの企画もすでに8回。堀田先生と藤原さんが、毎回一つの単語を選んで、語義から語源、関連情報へと進んでいく。とにかく情報量の多い辞書である。略語や記号の読み解きがカギとなる。それをプロの二人があれこれ言いながら読み進める。英語史初学者にとってこれほど心強いことはない。

 私たちは小学校以来、実にいろんな辞書を使ってきた。もちろん、平易な日本語で書かれているので、手にしたそばから引くには引いたが、意味さえ分かればそれでおしまい、となっていた。しかも、辞書を引くときは大抵一人。言うなればその密室性が我流をそのまま温存させ、結果、辞書は意味を調べるだけのものとなる。宝のありかを教える暗号の解き方も、大海を渡るとき使う羅針盤の存在も知らぬまま辞書を引きつづける人のいかに多いことか。これもまた密室が作り出す悲劇である。

 その密室から私たちを連れ出してくれるのが、「英語語源辞典を読む」シリーズである。プロの二人が、英語語源辞典を手に、英語史という暗闇の世界を案内してくれる。ときに魔法の呪文で未知の扉を開き、ときに複雑な迷路に紛れ込んだ私たちを元の道に戻してくれる。「辞書の引き方なんて今さら聞けない」、そんな貴方にこそ是非聴いてもらいたい。

2024年8月20日

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