2022年読んで面白かった14冊
2022年読んだ本のメモを見たら、100冊ほどで、過去最低の冊数だった。過去の記事を読んでも、これは本当に少ない。
本をよんでそこからいろいろ考えることが多いので、それに比例してぜんぜんものを考えなかった一年だった。考えるよりもやることがいっぱいあって、それを処理することでいっぱいいっぱいになってしまっていたのだ。
息継ぎをするように軽いエッセイを読んでいた気がする。息が続かなくて長くて重いものは読めなかった。正確には、読んだことは読んだのだけど、水が合わなかった。
そういう生活のなかで読んだ本から14冊面白かったものを選んだ。ざっと眺めてここからおすすめするなら、「ちょっと踊ったり……」と「母親になって……」かな。
とりあえず小説とその他にわけて紹介していきます。
■小説
・『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』
なろう系の人気作品ということは知っていたけれど、読んだことはなかった。アニメ化を期にそちらを見たら、めちゃくちゃ面白くて気になってしまい続きをマンガで読み、さらに続きが気になったので小説を読み、さらに最後まで読みたかったので、なろう版も読んだ。
主人公の幼少期から、最終的に老人になって死ぬまでが描かれる大河ドラマなのだが、よくこれほど長い作品をずっと終わりまで書けたなと関心してしまった。物語の構造自体もすごい。こればかりは全部を俯瞰して説明しないと伝わらない。
ものすごくギリギリ単純にふわっと言うと……この物語は、実は、フラグを操作しているプレイヤーと翻弄されるキャラクターの対立構造として動いている。そして最終的にキャラクターとプレイヤーが調和する(それが見せかけであっても)物語だ。
以下、説明する。
ここからネタバレします!
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普通の物語では、主人公と対立者がいて、支援者がいて、だいたいそれほど役割がかわることはない。
ところが、本作はちがう。途中でこの役割がかわってしまう。
主人公ルーデウスと、支援するヒトガミ。対立するオルステッド。この構図が、最終的にオルステッドを支援するルーデウス、それらと対立するヒトガミ。というふうに変わってしまう。
主人公だったはずのルーデウスが、(少なくともこの世界のなかでは)主役ではなく、オルステッドが実は主役だ。……主役、というと誤解が含まれるので、勇者、といったほうがいいのかも(ヒトガミを倒すためにループしている勇者、といったところか)。
さらに言えばヒトガミは、上位概念としての「プレイヤー」とも言うべき存在であり、主人公ルーデウスは「プレイヤー(ヒトガミ)」、のコマかNPCのように扱われる。
ルーデウスはそもそも物語の主人公ですらなかったはずなのだ。
ところがルーデウスの家族とオルステッドは協力して、逆にヒトガミのフラグを折り続ける。
この物語は、全能の空虚で無限のプレイヤー(ヒトガミ)が、豊かな有限のキャラクターたちに敗北するという物語だったのではないか(ヒトガミの姿にこれといったキャラクター性がないのも象徴的だ)。
前世クズだった人間が、偶然転生させられ(前日譚を読むと、ある種の超越的な力が作用しているのだが)、まっとうに努力して、勇者(オルステッド)に協力し、プレイヤー(ヒトガミ)を逆攻略する、まさにゲームマスターとキャラクターがいれかわるようなメタ構造すら見て取れる。
そうした超絶技巧がほどこされているのに、読んでいるあいだはほとんどそんなことを気にせず、とにかくただただ面白い(主人公がちょっとクズっぽいところが、嫌いな人は嫌いだろうが……)。
そのあたりのバランスも実はめちゃくちゃいびつで、実はものすごく変な作品だと思う。
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ここまで。
世界観になにか馴染みがあって、「アリスソフトのゲームっぽいよな……」と思って、気になってしまい同人誌のインタビューなどを取り寄せて作者の発言を調べてみたら、やはりアリスソフトのゲームがルーツとしてあげられていた。わかる!わかるよ!
いや、ほんとに久しぶりに夢中になって読みました……。
・『ディア・アンビバレンス』
イングランドの田舎町で発見された、少女の陰惨な全裸死体
美女刑事エミリーと、口髭紳士が犯人を追う!
この年読んだ国内ミステリでは一番良かった(あまり書店で見かけないせいか、ほとんど読まれていないのは不幸)。
すばるの書評連載でも取り上げた、ゲームクリエイターであるSWERYさんの初小説。世界観や出てくるキャラクターにいちいち味がある。バディものなんですが、最後にある仕掛けなんかもふくめてこのミスにランクインしてもおかしくなかったのだが。
知る人ぞ知る作品になってるのもこの作品っぽい。
・『明け方の若者たち』
ゲームライターjiniさんの記事をみて、読んだ本。
いわゆる○○もの、というふうに言えてしまうのかもしれないけれど、切実さがあって、ひさしぶりに新しい人の小説を読んだな、という気分になった。この作者のことが気になって他の本も読んだけれど、どれにも新しさが感じられてすごくよかった。
・『ミーツ・ザ・ワールド』
ここ数年の金原さんの作品に対する共感度がどんどんあがっている。
ここでいう共感というのは「あるある」ではなくて、「ああ、これは理解されないだろうな」という、狭い共感、まさに正しく小説的な共感だ。
もちろんそれは一歩間違えれば、マイノリティぶった小市民的なものになりかねない。でもその狭い共感はどこかうしろぐらくて、本当は共感したくないものだったりするから困る。
こういうのを自分もちゃんとやっていかないとな……と、書き手としても嫉妬混じりに思うところがある。
・『翼の翼』
中学受験もの。武蔵小杉の駅の書店で平積みになってたのを見つけて買った。出たときは大変だなあと思っていたら自分の家にも受験シーズンがやってきて、シャレにならなくなってきた。
この時期は、「すべての親は毒親である」ということを考えていろいろ読んだ。
・『わたしはあなたの涙になりたい』
ライトノベルをそんなに読まなかった年だけど、このような剛速球ど真ん中の球は自分にはもう投げられないだろうなという意味でおもしろかった。
なにかを迷いなく信じることができるのは美しいな。
■エッセイ・その他
2022年はエッセイが豊作だった。とくにこれ、
・『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』
デイリーポータルZのライターである古賀さんの、これがほんとうにすごい。生活と感覚をものすごい速度と角度できりとっていく、その手腕があまりにもあざやか。ほんとうにびっくりした。こんな才能のある書き手がまだいたのか……うおおお、すげえ、めっちゃおもしれえ、人生ええなああ、と珍しく生きることにちょっと希望を持ってしまったり。ともかく感情がぱんぱんになった本。
Kindleアンリミテッドで読めるようになっていたが、いまはない……が、朗報。なんと2023年に書籍化される。豊かさがある!
・『じゃむぱんの日』
「豊かさ」といえばこれもすごかった。
赤染さんのエッセイ集。新潮社をやめて自分で出版社を立ち上げた加藤木さんの一冊目。赤染さんのエッセイ読んだことがなかったのだけど、読み始めると止まらず最後まで読んでいた。こんな人だったのか。芥川賞とってるからもっとお硬い人かと思っていた。
しかしこれはエッセイなのだろうか。ほとんどサイケデリックトリップのようなナチュラルにあっち側の世界に片足を突っ込みながら生きている稀有な妄想家の記録。ほぼ小説。こんなふうに世界を見ることができるのだな。
・『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』
今年、地方都市から首都圏にかえってきてあらゆる生活がガラッと変わってしまい、いよいよこれは生活をととのえないとこの先やっていけないぞと思っていたところで読んだ本。タイミングがよすぎた。
著者が生活を改善していく……そのまんまなライフスタイルエッセイなのだが、その姿はだれにでも共感できる地に足付いたものになっている。
生活改善……やっていきたいぜ……と思ったあなたにぜひ。
・『無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記』
山本文緒さんに会うことができなかったのは、ぼくのなかで悔やまれることのひとつだ。いろいろなジャンルの小説を読んできたけれど、20代のある時期、山本さんにやたらとはまってずっと読んでいた。昔ならいわゆる「中間小説」といわれた書き手なのだろう。ジャンルわけができないタイプの作家で、とにかくすべて面白い。ぼくは山本作品から人間の心理を多く学んだ。まさかガンで闘病生活にはいるとは。そしてその記録が本になるとは。
死ぬ間際の人間ってあんがいこういう心理なんじゃないかな……という想像とはちがい、淡々と死へむかっていく。
うわさには聴いていたけれど、淡々と人生はすすんで、おわっていく。
・『料理の四面体―東西美味発見法』
九鬼周造の『いきの構造』を思わせる料理の四面体。こんなふうに構造化するタイプの理論が好き。
・『母という呪縛 娘という牢獄』
深夜3時42分。母を殺した娘は、ツイッターに、「モンスターを倒した。これで一安心だ。」と投稿した。2018年に起きた殺人事件。犯人は9年間医学部浪人をしていた娘だった。母と娘――20代中盤まで、風呂にも一緒に入るほど濃密な関係だった二人の間に、何があったのか。気鋭の女性記者が、殺人事件の背景にある母娘の相克に迫った第一級のノンフィクション。
ぼくのエッセイの読者ならわかると思うが、身近に医学部で9年浪人した人がいるので、他人事ではない。教育という名のもとに、いつしかそれが虐待になってしまう場面はいくらでもある。それでもここであきらかにされる母の態度には言葉を失う。
・『母親になって後悔してる』
NHKでも特集が組まれた。
いま、世界で大きな反響を呼んでいる「母親になって後悔してる」。この本に描かれている「後悔」という感情は、決して「子どもを産まなければよかった」という感情ではありません。
子どもは愛しているけれども、母親であることを後悔してしまう。
このことについては自分のエッセイの最後で書いた。つまり「個人ではなく役割に殺されること」はなんであろうが人を苦しめる。母だろうが父だろうがそうだ。
だけど、母と父は同じではない。明らかに母のほうが社会的におしつけられるイメージが重い。「母になって後悔している」と思うのは当然のことだし、べつに思ってもかまわない。そのことを社会が共有すべきだ。
・『君は君の人生の主役になれ』
中高生に向けて書かれた毒親脱出マニュアル。誰かに自分の人生の選択肢を委ねると、どんどん生きる力を失っていくのは確かだと思う。書かれていることはおおむね首肯できることばかりだ。世代の格差と認識のちがいについても身につまされてしまった。
親は子をあらゆる形でコントロールしようとする。それは今の時代、巧妙に、そうと気づかないようになされる。パターナリスティックに「これをやれ!」ではなく、「どっちでもいいんだよ」というふうに優しくコントロールする。たしかにそうだ。
この本は中高生の側に対して書かれている。だからあえて書かれていないのだけれど、子もまた親をコントロールしようとしている。子のコントロールも親とおなじくらい厄介だ。
家族や親子という概念やレッテルをはがして、その枠自体をとりのぞいてやることでしかこのコミュニケーションはうまくいかないのかもしれない。
他者の問題には徹底的に介入しないようにつとめることのほうが、結果的にはうまくいくような気もしているのだが。永遠に答えは出ない。
以上、
2023年はもっと余裕を持って、ネットやスマホを見る時間を読書にあてて豊かに過ごしたい。
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書評がはいっている。マガジン買うとあとで増えたのも読める。
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