突然の介護、日常の育児
祖父がボケた。元々ボケ老人だったが、認知症を発症したという。4月から祖父母とも入退院を繰り返している。ちょっとやばいかもしれない。慌てて大阪の実家にエン様(子どものあだ名、1歳)と一緒に帰ってきた。
実家までの道中、父親から連絡がくる。
「じっちゃんが119かけた」
想像の斜め上を行っていた。前にも119かけたらしい。本人は病院に連れて行ってほしいのだという。今日は病院に行く日ではないと伝えても、「俺はいつでも病院に行っていい契約になってるんや」「市長に電話したらわかる」「あと2時間で車が来る」
この2週間で急速に悪化したらしい。きっかけは祖母が入院し1ヶ月いなかったこと。典型的な認知症発症パターン。家事のできない男は女がいなくなるとやっていけなくなる。
家に入る前、少し緊張した。いつもは祖父母揃っておかえり、と迎えてくれるのに、今回は祖母しかいなかった。
その後荷物の整理を済ませ、祖父に会いに行った。家の一番奥の部屋に介護用ベッドを置いて、そこで仰向けに寝て天井を見つめていた。
私とエン様が来るとすぐにわかり、「⚪︎⚪︎か、よく来てくれた。◻︎◻︎くん(エン様の本名)、◻︎◻︎くん、元気かー」
その後の受け答えもふつうにできた。全然ボケてるとは思わなかった。3日間実家に滞在しても、その印象は変わらなかった。
祖父と一緒に住んでいる祖母、父、弟は祖父をボケて手のつけられない人になってしまったと言う。でも私から見ると、祖父の言動はエン様のそれにとても似ていた。
何か要求があるのにうまく伝えられなくてわめくエン様。
病院に行って処置してもらいたいのに家族に理解してもらえず119をかける祖父。
大人の場合、泣きわめくだけじゃなく話したり行動に起こせてしまうのが厄介である。でも脳の機能が落ちて(未発達で)困りごとが発生しているのは、認知症も子どもも同じだ、と思った。
私が滞在してる間にも、テンプレの虚言(せん妄?)があった。病院に行きたい、連れて行ってくれと主張している。
それに対して父はピシャリと言い放つだけだった。「今日は日曜日で病院閉まってるって言ってるやろ」
これは絶対間違っている。育児やってる人なら正解がわかるのではないか。「そうか、病院行きたいね。どこがしんどい? ここ手当てしてもらいたいの。そうか、しんどいね」
こんな感じで繰り返していたら祖父は落ち着き、またベッドに戻って行った。
子どもの気持ちを肯定する。育児の基本のキが、育児をやっていない男(父や弟)にわかるはずがない。しかもここ2週間で急に悪化したとなると、家族側が追いつかないのもわかる。父や弟を責めるつもりは全くない。ただ、ここに私がいてあげられれば……と思った。育児をしている母は介護にも適性があるだろう。育児も介護も同じケア。
私はエン様のおむつを替え、着替えさせ、祖父のおむつを替え、着替えさせた。やることは一緒でどちらが良いも悪いもない。私が手伝っている間、祖父は「すまんなぁ」と繰り返していた。やはり私には祖父がボケてるとは思えない。人としての尊厳が祖父にはしっかり残っている。
ここにいてあげられれば……と思う一方で、私の住んでいるところと大阪の実家は遠く離れており、仕事や育児を考えると現実的ではない。家族にとっては焼石に水かもしれないが、せめて帰ってくる頻度を増やそうと思う。
≪終わり≫