なぜ女性は35歳で転職を諦めるのか。 日本のジェンダーギャップで触れられない「経済」の大問題 パート2
わたしは日本企業の採用には大きな問題があると考えている。
そこで、きょうは、ジェンダーギャップが生まれる理由の「雇用の入り口」についてもう少し深堀してみたい。
転職のリミット
働く女性を悩ます問題に年齢問題がある。30代が近づくと女性は落ち着かなくなる。居心地のいい職場であればいいのだけれど、転職を考えている人は大変だ。その理由は、今でも働く女性には年齢制限があるからだ。
嘘でしょう?この時代に、とお思いの方も多いだろう。けれど、今でもネットで求人を捜すと、35歳までと書かれている会社が多い。
だから女性たちは30代を前に悩むのだ。このまま働き続けようか、それとも転職しようかと。30歳を過ぎたら選択の機会がグッと狭まる。
政府は働く人に転職を勧める。けれど、現実にはそれはいうほど簡単ではない。
年齢差別
わたしは先日、下記の記事で、年齢差別について書いた。
欧米にあって、日本にないのが雇用差別禁止法。そう、日本には、企業から働く人を守るための採用の差別を禁止する包括的立法がない。
で、現在の立法で差別についてかき集めてみると、労働基準法では、国籍、信条、社会的身分による労働条件差別、それから賃金の性差別が禁止されている。
ここで足りないのが年齢差別を禁止する法だ。
それを解消するために2001年に雇用対策法ができた。これは厚生労働省の省令だ。しかも中身スカスカ。なにしろ努力義務規定なのだ。本気で雇用対策を考えているわけではない。
それが2007年の改正で、労働者の募集・採用において年齢制限をつけることが原則禁止になる。
それなのに、今でもネット上で35歳までという記載がある。
ここが問題なのだ。
企業に優しい厚労省
なぜ原則禁止となった年齢差別が今も残るのか。実は、この省令には罰則がない。これも日本の法律ではよくあることだ。
因みに、雇用対策法は、2007年の改正から名称が変わり、現在は労働施策総合推進法になっている。この法律に違反した場合は、行政上の助言・指導・勧告、職業安定所における求人申し込みの不受理などがある。
そう、罰則じゃなくお叱り程度。
こうした省令からも、厚労省が企業に親切なのが良くわかる。
なぜかといえば、この罰則無しの省令には例外が複数あるからだ。その例外に該当すると、年齢差別してもおとがめなし。しかもそんな例外が6つもある。
だからこそ、今でもネット上に35歳までという女性の募集記事がある。そこには、
と書かれている。これが厚労省が企業に与えた特別枠だ。
年齢制限禁止は文字だけなのか
そこで、考えてみる。
先の、長期業務によるキャリア形成を図るためは、どう考えてもおかしな話だ。たとえ45歳過ぎていようが、長期にわたって業務をする人ならいるだろう。この文字を添えることで、年齢差別が正当化できたとは到底思えない。
けれど、このいいわけを記載した上で募集をかけた場合、合法だ。そんなルールを作ったのだ。それに該当するなら、企業は堂々と年齢差別ができる。馬鹿げている。働く人の権利を全く無視したルールだ。
また、たとえこうした文言がなかったとしても、わたしたち採用される側にとっては企業側が年齢差別をしたのか否かを確かめるすべがない。証拠がなければ裁判でも戦えない。だからブラックボックスなのだ。
そこにあるのは、ゆるい企業制裁のみ。
かつて日本では、女性たちが民法に訴え出た。民法ではたとえ同じ会社の同僚が同じような差別を受けていたとしても、それぞれが個別に裁判に訴えるしか道はない。お金も時間もかかる。けれどそれをした、孤独に戦った先人たちがいたのだ。だからこそ、日本には女性の35歳~55歳までの定年制が無くなったし、結婚した女性は退職しなければならないというルールもなくなった。
そう、おかしいことは、たとえ立法化されていなくてもおかしいとおもわなければならない。今のルールが最終ではない。おかしいものは変えなくてはと思う。なぜなら、現在この国には、差別を正当化するルールがあるのだから。
おわりに
わたしたちは、昔から続いてきたものや、前例や判例に弱い。けれど昔から続いて来たものや、知識人が考えたものが正しいとは限らない。
女性が長期勤めるために35歳という年齢を打ち出すことが差別ではないという例外を設ける厚労省はナンセンスだ。これではいったい日本では誰が、最も弱者である働き手を守るのだろう。差別はどう言い訳しても差別だ。日本は国が差別を公式に許可しているということだ。こんなおかしなことはない。
政府も経団連もジョブ型を推奨するのであれば、ジョブ型の基本は平等であることを忘れてはならない。差別に特例などあるはずもない。
女性が35歳までしか転職のできない国は希望のない国だ。この国でなぜ女性が働き続けられないのか、国は手を胸に当てて考えて欲しい。
さらに、企業は管理職になりたがらない女性の話しをアピールするけれど、それは企業内で女性をそのように扱ってきたという証でもある。見直すべきは企業側の考え方だ。
ジェンダーギャップが縮まらないのには訳がある。
※参考図書 『詳解労働法第2版』2021年9月28日 水町勇一郎 東京大学出版会
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