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わたしの記憶は時代に無頓着/ 男女平等&ルース・ベイダー・キンズバーグ


あなたの記憶は確かですか?

わたしは時に記憶に振り回されるのです。それはきっと、時代にひどく無頓着だから。きょうは映画と一人の女性の話しを少々



法曹界と戦う一人の女性

さて、東京が2度の大雪にみまわれた昨年(2019年)、道路のあちらこちらにまだ雪のかたまりが残る3月、わたしは『ビリーブ未来への大逆転』を観にいきました。考えてみれば、それが平成最後に観た映画でした

それは、今年(2020年)9月に亡くなったルース・ベイダー・キンズバーグさんを描いた作品。彼女はアメリカ連邦最高裁史上2人目の女性判事で、アメリカでは知らない人はいないといわれるほどの人物

そんな彼女がバーバード大学法科大学院に入ったのは1950時代

その大学で、彼女は「どうして男性の席を奪ってまでこの大学に入ったの?」なんて質問をされています。舞台はアメリカ。第二次世界大戦が終わって間もなくの頃の話しです。当時、法科大学院に進学する女性はまだ稀だったということ

それからおよそ20年の時が過ぎ、舞台は1970年代へ

そこで、アメリカには「男の仕事」と「女の仕事」があって、それは法律で明文化されていたなんておどろきの話しが語られるのです

70年代といえば…ビートルズやクイーンやボブ・ディランの時代。アメリカはどこよりも進んだ国のはずでした。そんなアメリカで、仕事が男と女で分けられていたなんて…

その70年代、キンズバーグ氏は介護する男性の弁護を買ってでています。なぜって「介護」が女性の仕事だったから

男性が介護費用控除を使えないのは差別だと訴訟を起こした男性がいたのです。そのことを知った彼女は立ち上がります。それこそが男女差別であり、憲法違反であると。憲法は差別を認めていないではないかと

ただ、それを立証することは簡単ではありません。その映画に出てくる法曹界の人たちの様子をみるとそれが痛いほど分かるのです。性差別など問題にすらならないほどのガチガチの封建的な人たちが陣取る世界。普通の人なら諦めるでしょう。どんなに押しても絶対に開かないと思えるほど固く閉ざされた分厚く重たい扉、そんなものが目の前に立ちはだかっているのですから



記憶と現実の乖離におどろいて

ところが、わたしは映画館で一人首をひねりはじめます。そうはいったってアメリカの女性って、そもそも開かれた社会にいたでしょ…日本の話しじゃあるまいし…と

自分の中の感覚と映像の時間軸のずれが気になるのです

1950年代のアメリカは、戦場へ出ていった男たちの仕事を女が引き継いだ「主婦の時代」※。男にしかできないと思っていた仕事をやってみたら女にもできた、そんな事を女たちが知った時代。だから、細くて高いピンヒールを履いて颯爽とオフィスを闊歩するアメリカ女性の映像が見えるのです。そう、アメリカ女性はその頃からすでに開かれた社会にいたはずでした

でも、それは、ひどく気持ちがくたびれると映画のなかにもぐり込むわたしの癖が連れてきたもの

たまたま流れている映画をタイトルさえ確かめずにぼんやりと眺める、そんな映画との関わりをするわたしには、タイトルや役者名さえ知らない映像がごちゃごちゃと住みついていて、それがあらぬ時代と時代とで仲良くつながっているのです

ただ、そういえば、帰還男性が増えると、「ご苦労さん、留守に頑張ってくれてありがとう。今日からあなたは家を守ってね」と女性たちが再び家庭へ戻されていました。アメリカ映画では、大きなマイカーに、子どもが2人いて、エプロン姿のお母さんが台所に立つ、そんな風景が姿をみせていた時代がありました!

そう、アメリカの女性は、ここでもう一度家庭へ戻されていたのでした

引用:※ 落合恵美子2000年『近代家族とフェミニズム』勁草書房p172~239、落合恵美子2007『21世紀家族へ』有斐閣選書p115~140



すべてに疑問を持つ

そんなふうに、記憶がカチカチと移動しはじめたものの、それでもまだしっくりときません。なんたって、ボブ・ディランが「風に吹かれて」を歌い、ヒッピーがアメリカを埋め尽くした自由の国アメリカに「男の仕事」と「女の仕事」があって、それは法律で明文化されていたなんて言われているわけです

それでも、そこに暮らす人々の身に付ける服、話しぶり、街のリズム、言葉のやりとり、そんなものがスクリーン一杯に放たれると、いつしかその厚みのある空間に圧倒され、静かに時代が上書きされていきます。歴史は、見えるようで見えにくい、そう感じた日でした


1970年代のアメリカはまだ「男の仕事」と「女の仕事」が法律で明文化されていて、法科大学院を優秀な成績で出ても、女性であることで彼女は弁護士になれなかった。そんなひどく封建的な社会でした。そんなことがじわじわと体に沁みこんできたのです


それでも諦めることを知らない小さな一人の女性がルース・ギンズバーグさん。映像の中で、彼女の母親が繰り返し彼女に語っています。「すべてに疑問を持って」と。

ルース・ギンズバーグ、その人は、誰もが当たり前だと思っていたことに疑問をもち、世界で初めて”男女平等”を訴え裁判を起こします。その行動がやがて世の中の常識をひっくり返したのです。そう、世界で初めて働く場の男女平等が法律で施行されたのは自由を手にしたフランスではなく、アメリカでした

じゃあ、日本は?

そして、あなたの記憶は正確ですか?


#ビリーブ未来への大逆転

#ルース・ギンズバーグ

#雇用機会均等法

#男の仕事女の仕事

#一部加筆修正

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