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[本紹介]猫動画にマンガ表現があった こうの史代『ギガタウン漫符』
猫好きとしたことが、こんな新時代の猫動画を見落としていたとは。
忸怩たる思いだ。反省として4回見た。「ねこと呼び鈴」
ややややややややや。アート作品じゃないか。
しかも、動画のくせに漫画じゃないか。
舞台は非常にミニマム。研ぎ澄まされたホワイトキューブに、キジトラと白猫という一対の完璧なる2猫。目の前に置かれた真っ白なスクエアプレート。
内容もシンプルだ。左の猫が赤い呼び鈴を叩く。音が鳴る。一粒の献上品がもたらされる。左の猫がはむはむする。右の猫が鈴を叩く。以下繰り返し。ただそれだけ。
はああああ。かわいいいいいいい。はああああ。
でもこれ、かわいいだけじゃないんだよ……
セリフもねえ!文字もねえ!もちろんBGMもねえ!
まったく言葉のない動画なのだけど、唯一追加されているのは効果音。
これによって、こんなに単純なしつらえであっても、この動画にストーリー性が生まれているのだ。
ひゅいん(相手のエサ皿をのぞきこむ)
ブバッ(姿を消す)
ぷあん?(隣の猫が消えたのを不思議そうに眺める)
ぺちょっ(二猫が同時に呼び鈴に手をかける)
「効果音」があるだけで、無口な二猫の行為に意味づけがなされ、彼らの気持ちを勝手に想像しまう。なんだこの仕掛けは。天才か。天才か。そして、呼び鈴鳴らしてごはんをもらう猫もやっぱり天才だ。
◆ ◆ ◆
いやね、冷静に見てもさ、効果音があるだけで、ただの連続する映像が物語に変身するってものすごく驚いたわけ。これ、紙だったら「漫符」って言われるやつだよな。
この前も『ぼおるぺん古事記』で取り上げたこうの史代さんの怪作を思い出した。「このマンガがすごい!2019」で選ばれていたから、ご存知のかたも多いでしょう。じゃーん!(効果音)
『ギガタウン漫符図譜』こうの史代著(朝日新聞出版)
「漫符」って、私はこの本で初めて知った言葉なんだが、ようはあれです、漫画の決まりごとの記号です。
頭のうえに[!]マークをつけたら、何かに気づいたりひらめいた様子を表したり、目が[¥]や[$]になってたらおカネのことしか頭にないことを示したり、みたいなやつ。
あの動画見たらわかるけど、効果音とかって瞬間的に意味がわかるじゃないですか。母語を聞くかのように無自覚に。漫符も同じで、読むときはまったく意識されない。
この本がすごいのは、それだけ私たちに馴染んでしまった無数の記号の用例を集めて、辞書化したことです。漫符の辞書なんです。1漫符、1ページで構成されていて、収録数104。
漫画だから上記リンクでサンプル見てもらうのが早いけど、たとえば、[☆]の場合。意味はこう書いてある。
勢いよく接触したことを表す表現。頭部に衝撃を受けた時、目がチカチカする感覚を星にたとえたものだろうか。目がこれに差し替わる場合は、痛みや損傷を伴う強さであることを表す。
ね。理知的でしょう。意味と由来と用例が書いてあるわけ。
で、その3行程度の説明のあとに、この漫符を使った4コマが描かれている。しかもこれがいちいちおもしろいわけ。
で。絵見ました?絵。これ、みんな大好き鳥獣戯画のパロディなんですよ。最高じゃない?「漫符」という漫画史の発明をまとめた本の作例として、漫画の原祖をもってくるセンスよ。これこそ美術作品としてガラスケースに収められていいレベルだ。ガラスケースに入ってたとしても、おでこひっつけて鼻のアブラつけながら何時間でも見てられるな。(実際、大英博物館のManga展で展示されたらしいけど)
◆ ◆ ◆
無意識に使っている決まりごとやコードを言語化するのって、めちゃくちゃ大変だと思うわけ。だってたとえば、私たちはLINEスタンプや絵文字の、微妙なニュアンスを発信するし受信もできるじゃない。けど、それを言葉で説明せよって言われたら無理よ。
たとえばほら、巷で話題になっているように「おじさん構文」の解説に目からウロコな人はこの本も好きなはずよ。
うめざわ
*アフォーダンスの極み。
▼ねことドミノ https://youtu.be/7Nn7NZI_LN4