「擾乱」
「擾乱」
ああ、眩暈、吐き気、脳味噌は軋み痺れ、心身はのたうち........
想像を絶する狂おしい情念、観念の炎に焼かれて俺の魂はついに気化された。だが、これは闇の宴の序章にすぎなかった。
この極めつけの狂人と区別もつかぬ言動をしかと観る者はいまい。
この俺自身ですら原始人並と痛感する。共通の基盤となる土台の欠片も無い未知の状況に陥った者しか共感しまい。
だが、その時には既に感覚的言語など不用である。空間自体が言語の海だからである。
透明な血液のように空間にひしめき流動している。あらゆる光彩を放ちつつ.......
一切が感覚世界に似て、似ていない。それも五官の知覚と同じく生々しい。こんな言い方では説明にならぬ。我々の習慣言語などまるで役にたたぬ.........
だが、自己を納得させるだけの言葉は必要である。自らの自意識を保つ為にだ。
まるで赤子が学ぶようにあらゆるものから手あたり次第にあらゆる体験を味わい、手探りから選別識別の無様さである。
気取った詩的比喩など実践ではますます混乱して対話の邪魔でしかない。
だが、時ととも嫌でも慣れてくれば、そのゆとりもでてこようが。
未知なる深淵に融けて自らを分離器にかけ、さらに精製しては刻彫する。その伸縮自在なる素材と形態とを再び時空に融合させ神速の触手で選別する。
如何なるものにも応対可能なれど常に一方通行も止む無し。此れ自明にてさらに克明にすれどその深淵の度測りしれず、深淵の深淵たる所以なり。
これに失神せしもの多し。狂い乱心自滅せるは湿地帯に足を取らるる所業。
この淵底無しにあらざり。飛ぶは無邪気なる脚力を要すのみ。
それ知らざるもの奈落の恐怖に呪縛され同化して闇と化す。
単にそれを知力胆力無力なるを酷と言うは非道であるか。
或いは、精妙なる自己愛と情との蜜の婚姻たる因果の報いと言うも外道であるか?
この問い自体、脱皮離魂せし者のみ発せるとは又語り難し。
さながら荊棘に転々流転せし異形者のみ引導許さるると、かくも断腸たる過酷なる裁断を強いられし懊悩量り難し........
此の地に同病相哀れむなる如き者や言葉等皆無に等しい。
さらには此の重責知る者、見渡せど皆無也、か。