脳のGABAって何?自閉症との関連は?
私たちの研究グループでは、「GABA」という言葉をよく使います。
自閉症の様々な症状が、脳に含まれている「GABA」という物質の変化によって引き起こされていると考えているからです。
※参考:脳内のGABA濃度と運動の不器用との関係を示した研究成果
・・・そもそも「GABA」って何なのか?
チョコレート?英会話教室??
・・・という質問を実験参加者の方によくいただくので、ここで簡単に解説したいと思います!
脳内の情報のやりとりを支える物質
脳の中では神経細胞(ニューロン)が存在し、情報のやりとりをしています。
下の絵は、脳内にニューロンがたくさん張り巡らされているイメージです。
このうち1つのニューロンを取り出して、私のへたくそな絵で表すとこんな感じ。
あるニューロンが他のニューロンに情報を伝達しようとするときは、どうするのか?
ニューロン同士で会話はできないので、ここは「電気信号」が使われます。
・・・しかし!!
ニューロンとニューロンの間には、「スキマ」があります。
この「スキマ」を、電気信号は通り抜けることができません。
そこで、電気信号を「化学物質」に変換して、この「スキマ」に放出するのです。
「化学物質」を受け取ったニューロンは、また次のニューロンに「電気信号」と「化学物質」を利用して、情報を伝えていきます。
このように、特にニューロン同士の情報伝達で使われる化学物質を「神経伝達物質」と呼んでいます。
興奮性、抑制性の神経伝達物質
先ほどの絵では2つのニューロンしか描いていませんでしたが、
実際には複数のニューロンが、一つのニューロンとつながっています。
「神経伝達物質」にはいろいろな分類の仕方がありますが、
その作用によって、「興奮性」と「抑制性」にわけることができます。
「興奮性」の神経伝達物質がニューロンの「スキマ」に放出されると、
次の神経細胞を興奮させるように作用します。
「抑制性」の神経伝達物質は、次の神経細胞を抑制するように作用します。
下の図のように「興奮性」が「抑制性」に対して有意になると、また次のニューロンへと信号が伝わっていきます。
反対に、「抑制性」が有意になると、次の神経細胞は抑制され、信号はこれ以上伝えられません。
「興奮性」「抑制性」どちらの神経伝達物質も、脳の中では大事な役割をしています。
GABAは、「抑制性」の神経伝達物質
GABAは、「ガンマアミノ酪酸(γ-aminobutyric acid)」の略称で、抑制性の神経伝達物質の分類されます。
抑制性の神経伝達物質には、他にもグリシンというものがありますが、人の複雑な活動(思考や言語、感覚の知覚、運動の制御など)を支える大脳皮質(脳の表層部分)では、主にGABAが使われています。
自閉症では、脳内の「GABA」がどうなっているの?
過去の研究では、自閉症者の脳では、「GABA」が変容し、適切に機能しないことで、脳の「興奮」と「抑制」のバランスが崩れているのではないか?と指摘されています(Rocco Pizzarelli & Cherubini, 2011)。
実際に、自閉症者の死後脳を調べるとGABAを受け取る構造(受容体)が減っていたり、自閉症のモデル動物を使った研究では、GABAが関与する神経回路が定型発達者と異なる様式で機能していることを示す結果が複数報告されています。
「GABA」の量を測る
以前は、死後脳やモデル動物による評価をしていましたが、現在は、MR装置を使って、生きている人の脳に含まれているGABAの量を、安全に測ることができます。(GABAだけではなく、様々な代謝物質の量を測れます。)
※MR装置
特に「1H-MR spectroscopy(MRS)」という手法を用いて、生体内に含まれている「水素原子核(1H)」の信号をとらえることで、どんな種類の代謝物質が、どの程度含まれているかを評価することができます。
「GABA」と自閉症の感覚運動の困難との関係
私たちの研究グループでは、MRSを用いて、脳の特定の領域に含まれるGABAの量の変容が、自閉症者にみられる協調運動の困難(Umesawa et al., 2020)や、感覚過敏(Atsumi et al., 2020)に関わることを発見しました。
GABAは体外から摂取しても脳には直接取り込まれず、また、脳の特定領域のGABAの量をコントロールできたとしても、それだけで症状が改善するかどうかは未知数です。しかしながら、脳内GABAの変化に起因して、どんなメカニズムで症状が出るのかがもう少し詳細に分かってくれば、症状改善への糸口が見つかるかもしれません。私たちもまさにいま、そのことを明らかにするための研究を行っています。
Rocco Pizzarelli, Enrico Cherubini, "Alterations of GABAergic Signaling in Autism Spectrum Disorders", Neural Plasticity, vol. 2011, Article ID 297153, 12 pages, 2011.
Umesawa Y, Matsushima K, Atsumi T, Kato T, Fukatsu R, Wada M, Ide M. Altered GABA Concentration in Brain Motor Area Is Associated with the Severity of Motor Disabilities in Individuals with Autism Spectrum Disorder. J Autism Dev Disord. 2020 Aug;50(8):2710-2722.
Atsumi T, Umesawa Y, Chakrabarty M, Fukatsu R and Ide M (2020) GABA Concentration in the Left Ventral Premotor Cortex Associates With Sensory Hyper-Responsiveness in Autism Spectrum Disorders Without Intellectual Disability. Front. Neurosci. 14:482. doi: 10.3389/fnins.2020.00482