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【読書感想文】エレジーは流れない
あらすじ
双海と山に囲まれた餅湯温泉。団体旅行客で賑わっていたかつての面影はとうにない。のどかでさびれた温泉街に暮らす高校生の怜は、複雑な家庭の事情や、進路の選択、自由奔放な仲間たちに振り回されながら、悩み多き日々を送っていた。今日も学校の屋上で同級生4人と仲良く弁当を食べていたら、地元の「餅湯博物館」から縄文式土器が盗まれたとのニュースが入り…葉社HPより引用
愛すべき・・・
この話は男子高校生たちが主役の物語である。主人公の怜は“毎日平穏に生きたい”と願う高校生。
夢もなければ、目標もない、どこにでもいる高校生。穏やかに生きたいだけなのに、家族が、友達がほっといてくれない。
周りが勝手に賑やかになる。
男子高校生のバカっぷりや、一つのことにまっすぐに生きている感じが、まさに青春ど真ん中。
実際に高校生の時にはあまり感じないかも知れないが、そうやって友達や家族に支えられている怜を羨ましく思ってしまう。
怜の友達の丸山、心平、竜人は部活に、彼女に、進路に様々なことにまっすぐぶつかっていく。
まっすぐ生きすぎた結果のおバカな行動に、読み終えるまでニヤニヤと笑いが止まらなかった。
さすがの三浦様、この愛すべきおバカ達がみんな大好きだ。
そして、突っ込みのセリフがどれもシュール過ぎて一度読んだら忘れられないこと間違いなし。
何もない、それでも
怜は何もないと感じ、そして金銭面も心配して将来を考えることを半ば放置している状態であった。
何もないでも、皆何か始める時は“何もない”状態から始まるのではないだろうか。
自分が将来の事を考えた時だって、“働き口に困らないから資格を持とう”“出来れば医療職、でも夜勤は嫌だな”“資格の合格率が低いのも嫌”との消去法で絞ったに過ぎない。
そんな理由で決めた仕事にあっても約10年間続けてこれたのだから、なにもない状態から始めてもなんとかなるものだ。
出来ないことが出来るようになる感覚を楽しめる人であれば、自分が今後どのような姿に成長していくのか楽しみながら“何もない自分”を受け入れることが出来るのでは無いのだろうか。
昔、専門学校の先生に言われた言葉で今でも記憶に残っている言葉がある。
“精神科の実習でどのように声をかけたら良いですかと聞かれることが多いが、その質問自体が間違っている。その質問をしているということは“自分は相手に何かできる”と思っている前提があるから。それは思い上がり”
まず、自分は何もないことを見つめ、それでもその中でも何が出来るのか向き合わないといけない。
それは出来るようで、出来ない。
なにもないことも決して悪くない、それを知っているだけでこれから様々色に染まることが出来るのだから。
エレジーは流れない
まさしく、この本は商店街のゆるキャラのように緩く、そして餅湯商店街のテーマ曲のように締まりがない。
まっすぐに生きているんだけど、どこか最後まで締まらない高校生たち。
頑張ってはいるんだけど、売上や活気が今一つ伸びない餅湯商店街。
気を張って生きている毎日よりも、これぐらの方が自分らしく、悩みすぎずに生きられるのかも知れない。
まとめ
さすがの三浦様。男子高校生の恋愛に部活に、将来にまっすぐにぶつかっていく愛すべきおバカっぷりに笑いが止まらない。
何もなくてもそれでも良い。これから、沢山の色を吸収して自分の色を作っていければ。
商店街のゆるキャラや商店街のテーマ曲の様に、締まりがなくても、こんな青春も悪くない。
愛すべきおバカに振り回されながら、何も考えずに読みたい時におすすめの一冊。
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